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徒桜

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19



流し台に重なる、調理器具の山を横目に
食卓の前で待ち構える俺に得意満面、手料理を差し出す、「勇者(バカ)」

努力は買うが
絆創膏塗れの痛痛しい手指に溜息が止まらない

「頂きます」と、一口頬張る
初手、無味な事に驚愕するも言いたい事は言う

「「飯マズ」かよ・・・」

「言いたい事は明日言え」等、俺の辞書には無い

「嫌味」を「嫌味」として捉えた結果、諦めればいいものを
殊更(ことさら)、にやにや顔で開き直る

「「嫁マズ」よりマシだろ?」

思わず口を開き掛けるが最早(もはや)、何も言うまい

本当、「小者」の割には「御調子者」で参る

抑、自覚している通り、「料理」以外
卒無(そつな)く熟(こな)せるようになったんだ

欲張りはいけない
其れは俺自身にも言える事だ

何をとち狂い、御揃いの割烹着(エプロン)を注文する
「勇者(バカ)」を止めなかった

止める「気」も無かったが
彼(あ)の時の俺を正(ただ)しに時空間移動装置(タイムマシーン)でも作るか

等と、埒も無い事を考えて髪を掻き毟る

「勇者(バカ)」は「勇者(バカ)」で
振り返る、背後の冷蔵庫から慣れた手付きで取り出す
諸諸(もろもろ)の調味料を盆(トレイ)に並べて、此方へと寄越した

然(そ)うして、向かい側の席に着く

多種多様な調味料 等(ら)を鼻歌交じり
彼是(あれこれ)、手にする「勇者(バカ)」を盗み見る

彼(あ)れは何時の事だ
彼(あ)れは確か、

項垂れる、目の前の旋毛(つむじ)目掛け
筆(ボールペイントペン)で執拗に突っ突いた結果、降参したのか
渋渋、顔を上げる「勇者(バカ)」に腕時計に目を落として提案した

「徐徐(そろそろ)、昼休みだ、何か食おうぜ」

如何にも足取りが重いが
如何にも空腹には耐えられないのか

「何、食うの?」

と、問い掛ける「勇者(バカ)」と連れ立って昇降機(エレベーター)に乗り込む

「昨夜(ゆうべ)、何食った?」

と、問い返せば

「肉(コンビニ弁当)」

「なら、魚」

「刺身定食、煮魚定食、焼魚定食」

「フライ定食」

「フライは、「醤油」」

「フライは、「酢」」

「?!「酢」?!」

最近の、自己流行(マイブーム)だ
等等、遣り取りを交わして昇降機(エレベーター)を降りて見れば

会社の玄関広間

清らかで凛凛(りり)しい
其の姿を誰も彼も遠巻きに眺めていた

直直、御出座しした
「氷の女王」の姿に仰天するも嬉嬉として駆け付ける、「勇者(バカ)」

大学時代と変わらねえ
相も変わらぬ、「忠犬」振りに唇の片端(かたはし)が自然と吊り上がる

「浮気疑惑」も何処へやら、だ

取り敢えず、「愚民」は「愚民」らしくでは無いが
「恋人」同士の二人とは物理的にも心理的にも距離を置く、俺に気が付いたのか

何故か、「勇者(バカ)」は「氷の女王」の手を引いて此方に戻って来る

「は?」

意味が分からねえ
俺の事等、捨て置いて仲良く何処へでも行けば良いだろうに

「勇者(バカ)」も「勇者(バカ)」だが
余裕 綽綽(しゃくしゃく)、挨拶を口にする「氷の女王」に不本意ながら会釈する

此方も大学時代と変わらねえ
相も変わらぬ、「氷の女王」然(ぜん)とした、佇まいだ

「で、本日は何(ど)のような御用件で?」

何故(なにゆえ)、俺が質問しなければいけないのか

其れは目の前の、「勇者(バカ)」が
「氷の女王」を愛(め)でるだけの唯の、「勇者(バカ)」に成り下がったからだ

慇懃(いんぎん)無礼に御伺いするも
「氷の女王」は傍らで自身の横顔に見惚れている、「勇者(バカ)」に答える

其れが「正解」だ
俺に返されても、俺には如何にも出来ない

「社用で通り掛かったのだけれど、一緒に昼食でも如何(いかが)?」

「如何(いかが)?」?
「如何(いかが)?」、って言ったか?、今

多分、此れは御巫山戯(おふざけ)なのだろう

「氷の女王」らしからぬ、否(いな)
「氷の女王」らしい、其の芝居掛かる台詞に失笑する

基本、「氷の女王」は女(おんな)子どもに優しい
基本、「氷の女王」は「勇者(バカ)」にも優しい

然(そ)して何故か、「俺」にも優しい

「如何(いかが)?」

俺に対して首を傾げる、「氷の女王」
然(そ)して何故か、「勇者(バカ)」も「勇者(バカ)」で右に倣(なら)う

「如何(いかが)?」

「氷の女王」と「勇者(バカ)」を交互に見遣りつつ

「何なんだ、此奴等(こいつら)」

とは思うも、「俺」は「俺」で社交辞令を真に受けて遣る

其れでも言いたい事は言う

「俺、御邪魔虫だろ?」

返事等、待つ気は無いのか
既に歩き出していた、「氷の女王」が振り向き言い捨てる

「「御邪魔虫」なんて「虫」、存在するの?」

「おいおい」

呆れるも、「氷の女王」の後ろを
見えない尻尾を振り振り、付いて行く「勇者(バカ)」が暢気(のんき)に笑う

「御前が昼飯、誘ったのに何言ってんの?」

勢い良く、腕を掴まれた
俺は大人しく、「氷の女王」と「勇者(バカ)」に従うが一応、訊(たず)ねる

「昨夜(さくや)、何食いました?」

先を行く、「氷の女王」は振り返りもせず、一言

「麺」

作品名:徒桜 作家名:七星瓢虫