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徒桜

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17



一心に、其の中身を覗き込む
濃色の表面に映り込む、自身の姿に目を落とす自分に「氷の女王」が笑い出す

何の脈略も無く、笑い出す
「氷の女王」に吃驚(びっくり)して顔を上げる

然(そ)うして目と目が合えば
恐らく、鳩が豆鉄砲を食ったような表情の自分相手に肩を竦めた

「彼が」
「私の彼が、「後」を付けて来てるんです」

「?!え?!」

嵌め殺し窓の向こう
窓際席、どぎまぎの目線を飛ばす自分に「氷の女王」が首を振る

「駄目駄目」
「貴女も気付かない振りをして欲しい」

「御願い」

清らかで凛凛(りり)しい
裏腹、含羞(はにか)み咲笑う少女の如く「御願い」されたら拒否等、出来ない

若干、不自然さは否めないが徐徐(そろそろ)、顔を伏せる自分に
「氷の女王」は掴み寄せた、杯(カップ)の縁を擦(なぞ)る

「今日の約束(デート)を断ったから」

「屹度(きっと)」
「屹度(きっと)、疑ったのね」

其れが「事実」ならば
持たれた「疑惑」を一笑に付(ふ)すのは「氷の女王」としての余裕なのだろうか

将又(はたまた)、素で心地良いのか
独り言(ご)ちては愉(たの)し気な、其の笑声を聞いていた

「「此処」に乗り込む事は無いと思うけど」

何とも物騒な話しだが
確かに待ち合わせの相手が、「男性」ならば突撃したい気持ちも解(げ)せる

だが

此の後は?
此の後は如何、進んで行くのだろうか?

上目遣いに見遣る、搗(か)ち合う目と目

今迄の、戯(おど)けた雰囲気が嘘のよう
自分に向ける其の視線は凍える程の「冽(れつ)」を湛える

「何時か」
「何時か貴女(あなた)の元を訪ねたら」

同様、凍える吐息を吹き掛ける

「「兄を愛しています」」
「「兄も私を愛しています」」

「此の、私の言葉を伝えてください」

思えば、節は有った

『其れならば何処へでも行けば良い』
『其れならば何時へでも行けば良い』

思えば、其の通りだった

「御願い」

冷たくも、清らかで凛凛(りり)しい
「氷の女王」に畏れ多くも「御願い」されたら拒否等、出来ない

「好きで別れるんじゃない」
「嫌いで別れるんじゃない」

到頭、一筋の涙を流す

其れは其れは儚げで
其れは其れは泡沫(うたかた)の笑みを浮かべる、「氷の女王」

耐え切れる筈も無く、項垂れる
濃色の表面に映り込む、自身の姿が歪んで消えた

作品名:徒桜 作家名:七星瓢虫