徒桜
15
此方の彼方、絶え間無い人波
彼方の此方、絶え間無い人声
「希望」と「絶望」が代わる代わる過ぎる、春望(しゅんぼう)
卓上に伏せた携帯電話が着信、振動する
多少、あたふたするも店内入口付近、一人の女性に目を止めた
携帯電話を片手に佇む
清らかで凛凛(りり)しい、其の姿を誰も彼も遠巻きに眺めていた
端麗な、其れでも「彼」とは異なる「冽(れつ)」が垣間見える
愈愈、振動し続ける携帯電話に促がされて腰を上げる
視線を送る自分に気が付いたのか、女性が此方へと早足で向かう
「御待たせしました」
頭を下げ、腰掛ける彼女に脊髄反射で首を振った
自分も本の少し前に来店したばかりだ
何なら待ち合わせ時間、十分前だ
確かに異なるが、震える
「血」の繋がりが無いのが不思議に思える程、震える
挨拶所か、目を合わせる事すら出来ない
「希望」なのか
「絶望」なのか
言わずもがな、何方を「切望」するのか
然(そ)うして顔を伏せたまま、押し黙る
向かい合う女性は、杯(カップ)に手を伸ばすが
自分は口を付ける気がしない
一心に、其の中身を覗き込む
濃色の表面に映り込む、自身の姿に目を落とす自分に女性が口を切る