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徒桜

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14



「!!済みません!!」

幾分、歩き出した
女性の背中を見送る中、意を決して声を掛ける

振り返り、驚いた顔を向ける女性に
「少し、御話ししませんか?」提案する也、相手の返事も聞かず
傍(かたわ)らの義父と同僚男性に早口で告げる

「「氷の女王」には、後(あと)で会いに行きます」

既に義父の中でも「娘」=「氷の女王」だ
娘の異名に何等(なんら)、突っ込む事無く、「了解」と手を挙げた

娘の、「元」婚約者
息子の、「元」婚約者

「御互い、積もる話しもあるのだろう」と、納得顔の義父とは裏腹

渋渋、顎を引く同僚男性は
見下ろす(背、でけえよ)自分に何とも物言いたげだ

言いたい事は必ず、言う
「賢者(同僚男性)」の、憂わしげな表情も分かる

此処に来て、暫く回復した「勇者(バカ)」の体力を減らす訳にはいかない
何なら敵味方構わず、「攻撃」も辞さない態度だ(おいおい)

「傷の舐め合いをするつもりは無い」

仕方無くも耳打ちする
自分の声が若干、震えている気がした

安心所か、不安を煽るだけの結果
訝(いぶか)しがる同僚男性が自分の手を掴む前に、其の身を翻す

舌を鳴らす彼奴を尻目に、待たせている女性の元へと駆け寄る

今のままでは会えない
今のままでは、「氷の女王」には会えない

何処迄も
何処迄も続いて行く、煉瓦敷の小径

大いに当惑しているであろう、女性と連れ立つ

沈黙のまま、見ず知らずの
「墓所」を彩(いろど)る花花を眺めつつ、「来た道」を戻る

「御話ししませんか?」等、言って置いて

「何」を話せば良いのか
「何」と話せば良いのか皆目、分からない

其れでも、ちらちら此方を窺う
女性と目と目が合った瞬間、唯一の「情報」を切っ掛けに話し掛ける

「「娘」、さんは?」

「御相手の方、御子(おこ)さんがいるのよ」
然(そ)う、楽し気に笑う義母の姿を容易く思い出せる

我ながら記憶力は良い方だ、なんてな
抑、更新(アップデート)される「記憶」が彼(あ)の日以降、乏しい

寝てるように寝てる
食べてるように食べてる、「生きる屍(しかばね)」状態

場面(シチュエーション)的に如何にか自嘲するのを堪えた

然(そ)うして隣を見遣れば目を剥くも直ぐ様、逸らす
相手の反応に首を傾げるも付け足す

「あ、御留守番、ですか?」

小刻みに頭(かぶり)を振る
「いえ」「いいえ」と、呟く女性が途切れ途切れ答えた

「母が、」
「母と、一緒にいます」

「ああ、そうなんですね」

「え、ええ」

「一秒」が途轍(とてつ)もなく、長い
「一歩」が途轍(とてつ)もなく、重い

自分自身、困惑している

「男」では無かった
「逢い引き」では無かった

当然、安堵した筈なのに何故か腑に落ちない

彼(あ)の日同様
霞の空を仰ぐ春日和、俯いたままの女性に切り出す

「「貴女(あなた)」を見た」

歩いているのか
歩いていないのか、分からない感覚に足音が消える

「来た道」では気付かなかった

四阿(あずまや)の存在に
傍(かた)えで風に舞う、枝垂れ桜の存在に目を細めた

色色、見落とした
色色、見落としていた

二、三歩
踵を踏んだ女性が振り返る

「彼女と会っていた、「貴女(あなた)」を見た」

嵌め殺し窓の向こう
窓際席、控え目に立ち上がり「氷の女王」を出迎える

女性は、間違い無く目の前の、「貴女(あなた)」だ

作品名:徒桜 作家名:七星瓢虫