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徒桜

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13



「徐徐(そろそろ)、植え替えようかと思うんだけど」
「御勧めの花とか、あるかな?」

生憎、父親である義父が知らない「氷の女王」の情報を自分は持っていない

好きな「花」も知らない
好きな「物」も「事」も知らない

唯、「氷の女王」を愛(め)でるだけの、「勇者(バカ)」

事「賢者(同僚男性)」に至っては
電子遊戯(ゲーム) 狂(マニア)の屋内(インドア)派だ

土 弄(いじ)り等、幼稚園児の時分でも怪しいものだ

「会話」の為の、「話題」なのは見え見え

其れでも相談する相手が違うだろう
心中で突っ込むと「義母さんは・・・」思うも「無理か」と、頭を振る
自分を余所に同僚男性が蒼天(そうてん)を仰ぐ

「此れからは梅雨 時(どき)ですよね・・・、紫陽花(あじさい)、とか?」

「馬路適当」

口を衝く、限(ぎ)り?悪態に慌てるも
振り返る同僚男性が、にやりと唇の端を吊り上げるや否や
中指を突き立てたので謝罪する気は失せた

其れでも黒縁眼鏡越し、小(こ)さい目を輝かせて点頭する
義父にとっては此の上無い、「助言(アドバイス)」だったようだ

暫し三人、無言で見ず知らずの
「墓所」を彩(いろど)る花花を眺めつつ、歩を進める

自分は受け入れていない

「氷の女王」の「死」を

義父は
同僚男性は受け入れたのだろうか

随分前、(自分より)義父と仲良し度絶妙の同僚男性が教えてくれた

「氷の女王」が「北風」ならば義父は、「太陽」なんだ、と

案の定、誰彼構わず彼方此方
取材依頼が舞い込むが当然、同僚男性は何も語らない

其れ所か連日連夜
「大衆伝達(マスコミ)」連中が突撃を噛ます、義父の身を案じる

廃人同然の自分を抱えながらも

「俺が、蹴散らしに行きます」

と、息巻いた彼奴は「勇者(自分)」より「勇者」だ

然(しか)し、義父は「太陽」だった

何(ど)れ程、宥めても
何(ど)れ程、賺しても何も語らないのは此方も同じ

然(そ)うして敷地内一歩手前、立ち往生する
「大衆伝達(マスコミ)」連中を緩緩(ゆるゆる)、見渡す

温顔に接する義父は、「御足労様です」の一言で退(しりぞ)ける

流石、彼(あ)の義母さんと連れ合う事はある
受け流す能力が半端無い

「挙句の果てには

《御茶でも差し入れた方が良いかなあ?》

だってよ」

「馬路、義父さんてば可笑しいよ」

如何にも真剣に語り出す
義父相手に同僚男性が笑いを堪えたのは言う迄も無い

だが、自分は笑った
「義父さんの口調を真似るのは反則だ」、と声を上げて笑った

「似てただろ?」得意顔で言い切る、彼奴にも笑った

多分、笑っていく

面白い事で
面白くない事でも

屹度(きっと)、此れからも笑っていく

「氷の女王」の「死」を受け入れないまま、笑って生きていく

曲線の煉瓦敷の小径が導く
なだらかな芝生の丘を花の香り豊かな風が抜ける、英吉利庭園

此方に向かい歩く、女性が一人
其の姿を見止めた義父が満面の笑みで声を掛ける

「やあ」

和(なご)やかな挨拶に立ち止まる女性が静静、会釈した

「御無沙汰しています」

「態態、有難う」
と、礼を述べる義父は目の前の、「女性」とは知り合いなのか

「彼方には伺ったのかな?」

「彼方」とは、「氷の王子」様の事だろう
若干、言い淀んだ女性が答える

「一周忌の、連絡は受けました」
「此方は一周忌は、」

途端、困り顔で破顔する義父が白髪の後頭部を掻き上げた

「何か白髪が増えた?」
何と無し目に付く自分を余所に申し訳無くも語り出す

「実は彼(あ)の娘(こ)は無神論者でね」
「「葬儀」は私の我儘で挙げたが、其れ以上の事は怒られそうでね」

詰(つま)り、以降の「法要」
法要後の会食と併(あわ)せた「法事」も無いとの事だ

「貴女さえ良ければ」
「又、彼(あ)の娘(こ)に会いに来て貰えれば嬉しいよ」

義父の、社交辞令でも何でも無い
有りの儘(まま)の言葉に女性も目を伏せて頷いた

此処に来て、置き去り状態の自分と同僚男性に目を向ける
義父が目の前の、「女性」を紹介した

「息子と、御付き合いをされていた御嬢さん」

「彼方」の話題が出た時点で予想はしていた
していたが、自分は驚きを隠せない

同僚男性は同僚男性で言いたい事は必ず、言う

「此奴は、「氷の女王」の恋人だ」

当たり前だが、「氷の女王?」と聞き返す
義父に同僚男性が場都合悪く、「娘さんの事、っす」白状したが
甚く、納得する姿が其処にはあった

女性は戸惑いながらも自分を繁繁、見詰めるが
自分も目の前の女性の顔を繁繁、見詰める

「済まない」

不意の謝罪に義父を見遣れば自分達に頭を下げていた

「改めて」
「此のような事になって本当に済まない」

「どうか、どうか私に免じて我が子達を許して欲しい」

低頭傾首のまま
微動だにしない義父に女性が幾度と無く、頭を振る

「いいえ」
「いいえいいえ」

「迚(とて)も誠実な方でした」

「私と、娘(むすめ)にとって」

今更、気が付く

自分は「彼女」の何を知り
自分は「彼女」の何を知らないのか

一目惚れは最強で最弱

「彼女」の全てを知った所で
「彼女」の全てを知った気になるだけだ

「兄」の存在を知らない
「友人(旧友)」の存在を知らない

其れでも知らない「彼女」を知る日日は歓楽此の上無い

然(そ)う、自分は思っていた

作品名:徒桜 作家名:七星瓢虫