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徒桜

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「わかれた」

一行 伝言(メッセージ)を寄越して「勇者(バカ)」は口を閉ざす

結局、「浮気」説なのか
将又(はたまた)、「兄妹(けいまい)相姦」説なのか

大学の同期で(略略(ほぼほぼ)、接触無し)
職場の同僚で其処其処、気心が知れた俺に相談した手前
取り敢えずの、「報告」なのだろうか

「無関心」と、斬り捨てる程では無いが正直、「関心」等も無い

有るのは、「氷の女王」に対しての不満だけだ

「心」を奪い
「勇者(バカ)」を奪い

貴女は此れ以上、何を奪うんだ?

其れでも貴女を嫌いになれないのは
其れは「勇者(バカ)」が身の程知らずにも愛した、「氷の女王」だからだ

向かい側の事務机、何食わぬ様子で業務を熟(こな)す
「勇者(バカ)」を盗み見る、俺も素知らぬ顔で目の前の仕事を捌いていれば
PC(パソコン)の鍵盤(キーボード)を打つ、其の手が止まる

徐に腰を上げた、襯衣(しんい)の胸 衣嚢(ポケット)から取り出す
振動を続ける携帯電話の液晶画面に目を落とすや否や固まる事、数秒

俺には「数秒」だった
「勇者(バカ)」には「何(ど)れ程」だったのだろうか

想像するに液晶画面に記された文字は、「氷の女王」だ
儘(まんま)、「氷の女王」と登録している「勇者(バカ)」には呆れる(笑)

「呼出音、切れるんじゃないか?」と、心配した間際
席を外し掛けた「勇者(バカ)」が何故か無言で応答する事、数分
事務机の上、携帯電話を置いた

「わかれた」、一行 伝言(メッセージ)を受信した身としては
後日談は勿論、先程の不自然な遣り取りにも若干の興味が湧くが
如何にも「勇者(バカ)」の様子が可笑しい

一歩又一歩、後退(あとずさ)る
「勇者(バカ)」が自身の背後を歩く、同僚女性に打(ぶ)つかり引っ繰り返る

同僚女性にしても
一部始終、目撃していた俺にしても「真逆(まさか)の出来事」だった

打(ぶ)つかる、と言っても触れた程度だ

泡を食いながらも介添えする、同僚女性に「勇者(バカ)」を託す

事務椅子を飛ばす勢いで立ち上がった
俺は「悪い」と、思いつつも事務机越し、未(いま)だ通話中なのだろう

僅かに音声が漏れる、携帯電話に手を伸ばす

《済まない》
《済まない》

《本当に済まない》

《済まない》
《済まない》

真逆(まさか)、何処ぞの誰かも分からない、「男性の声」

只管、「済まない」を繰り返す涙交じりの謝罪を聞きながら
俺は倒れたまま、ぴくりともしない「勇者(バカ)」の元へと駆け付けた

「氷の女王」が死んだ

「勇者(バカ)」曰(いわ)く
「氷の王子(兄)」様と共に死んだ

到頭、職場にも来ねえ
到頭、連絡にも応えねえ

余程の状況だった
愈愈、事態を収める御両親が引き取る寸前、乗り込んだ

「勇者(バカ)」が「氷の女王」を忘れられないように
俺自身、「勇者(バカ)」を忘れられない

唯の自己満足以外の何物でも無い

「勇者(バカ)」にも
「勇者(バカ)」の母親にも感謝される筋合いは無い

然(そ)うして、「抜け殻」を引き取る

「氷の女王」名義の携帯電話
住所録(アドレス)を調べ、「勇者(バカ)」の携帯電話に連絡してきた
義父さんとの遣り取りは全て、俺が受け継いだ

大衆の感情を煽る、「記事(ゴシップ)」に
大いに大衆の感情を煽る、「大衆伝達(マスコミ)」が見逃す筈が無い

案の定、誰彼構わず彼方此方
取材依頼が舞い込むが誰も彼も何も語らない

否(いや)、語る事が何も無いのが事実だ

誰も彼も「氷の女王」を知っていても
誰も彼も「氷心」に辿り着く事は出来なかった

無念だが、「勇者(バカ)」を以てしても、其の「奥」には届かなかったのだろう

唯一、俺には義父さんから告白された、「事実」がある

其の事実を、「勇者(バカ)」に伝えるか如何(どう)かは問題じゃない
伝えるのは確定事項、其の頃合いが難しい

辛うじて「食事」を入れる
辛うじて「会話」を交わすが正直、「睡眠」をしているかは疑問だ

寝床で立てる、「呼吸」は寝息では無い気がする

吸って
吐いてを繰り返す

無味な「呼吸」を背景音楽(BGM)に朝を迎える
俺も殆(ほとほと)、馬鹿だ

如何したモノか
複雑な「問題」程、簡単に露見する

作品名:徒桜 作家名:七星瓢虫