徒桜
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鉄の飾り門を潜(くぐ)れば
曲線の煉瓦敷の小径が導く
なだらかな芝生の丘を花の香り豊かな風が抜ける、英吉利式庭園
夢か現か幻か
先を行く、義父と肩を並べて歩く
同僚男性の背中に誘(いざな)われるかの如く、付いて行く
多分、迷子になる
一層の事、迷子になって消えてしまえば良い
何処だって
何時だって
其の「瞬間」はあった筈なのに
「此方(こっち)」
「此方(こっち)来い」
腕を掴み寄せ、呼び掛ける同僚男性の声に振り返れば
大分、後方の曲がり角手前で足を止めて自分を見遣る義父と目が合う
「大丈夫か?」と、努めて自然に訊(たず)ねる同僚男性に
適当に頷く自分は「小者」だが自他共に認める「御調子者」だ
離れていく、同僚男性の手を握ってみる
「御調子者」序(つい)でに悪戯心で「恋人繋ぎ」に挑戦した途端
目玉を引ん剝き、思い切り振り解く彼奴に側頭部を叩(はた)かれた
当たり前だが悪乗りした自分が悪い
唯、世話になっている「日頃の感謝」のつもりだったが
唯唯、安っぽい行為だった事は否めない
微かな鈍痛と、確かな自己嫌悪に項垂れる自分に
外方(そっぽ)を向く彼奴が「嬉しいが嬉しくない」等と告げた後、吐き捨てる
「抑(そもそも)、俺が「勘助(かんすけ)」になって困るのは御前だぞ」
呆れた訳じゃ無かった
怒られた訳じゃ無かった
心做しか安堵して「御免」と、言い掛けるも同僚男性が不敵に笑う
「彼(あ)の部屋で俺と「二人切り」なんだぞ、御前」
然(そ)うして曲がり角手前で子犬のように待ち惚ける(可愛い)
義父へと踵を返す、其の姿を目で追う
「以降、何が起きても責任持たねえから」
速攻、悪巫山戯(わるふざけ)が過ぎたと猛省(もうせい)する
「、待って・・・、御免、馬路で御免なさい」
慌てて追い掛ける自分を余所に
「御待たせしました」と、頭を下げる同僚男性を
「本当、良い「友達」だね」
満面の笑みで迎える義父の言葉に彼奴が振り返る
「「友達」?」
「「友達」じゃないです、此奴(こいつ)は「ヒモ」です」
自分を指差し、其れは其れは仰仰しく言明(げんめい)した結果
声を上げて笑う義父に釣られたのか
同僚男性も、自分も笑い出す
泣くのは一人でも出来るけど
笑うのは一人では中中、難しい
何処迄も
何時迄も続いて行く、煉瓦敷の小径
色取り取りの花を寄せ植えする、「花壇墓地」の一角
「何より結婚式に掛かる資金を今後の生活費に充てたい」
彼女は甘く見ていた
彼女は「親心」を甘く見ていた
「彼女の為に」と、諸諸、蓄えていた義父が
「彼女の為に」と、購(あがな)う青山(せいざん)だ