見えている事実と見えない真実
「彼のことは調べてきました。彼はどうやら、この犯罪組織を恨んでいたようです。彼の兄がこの組織に引っかかって、一度自殺を試みたそうです。でも死にきれずに、今は憔悴しきった状態で田舎に引きこもっているということ。自殺の後遺症と、ショックから、このままでは、男性としての機能がマヒしたままになるかも知れないということでした。彼も死んでいないので、深沢としても、誰かを殺すところまでは気持ちが言っていないと考えられます、警察に助言をしたのは、彼なりに我々に協力しながら、この組織の撲滅に影ながら力を尽くそうと思ったんでしょうね。でも、あまり露骨なことをすると疑われる。実は彼は大久保氏の正体を知っていたようです。知っていて、わざと犯人ではないかなどと名指しをし、我々に注目させたんでしょうね。でも、彼の雰囲気からは犯人には思えない。それも彼の計算のうちだったのかも知れませんね」
と、清水刑事は言った。
「なるほど、彼の言動なども今から思えば、とても敵だとは思えませんよね。そう考えると、彼が勤めた役割は、一歩間違えると事件を複雑にするところはあったけど、逆に事件が明後日の方向に向くのを抑えたとも言えるんじゃないでしょうか? 私は彼を敵でも味方でもないと勝手に思っていたけど、間違っていなかったような気がしています」
と、辰巳刑事が言った。
事件はここから急転直下で解決することになる。大久保氏が手に入れた密偵による証拠と、例の画像解析によって、それを見た生活安全課の人たちの知り得ている情報とで、犯人があぶり出された。
どうも一人の人間が改心したようで、組織を裏切ったようだ。大久保氏と連絡を密にして、情報が刻々と警察に流れる。それに気づいた主犯の男が、彼を葬ろうとした。最初は彼だけを単独で殺すつもりだったが、どうもかおりも怪しいということになった。
最初はかおりを自殺に見せかけるのが一番安全であったが、もしそれがバレた時を考えた。防犯カメラの映像が邪魔だったからだ。
そうなると、彼女が殺されたことにして、そちらに目を向けさsることで、本当の犯罪を隠蔽しようと思ったのだ。かおりは他で殺されて運び込まれたのではない。かおりを眠らせて運びこんできたのだが、それは、あくまでもフェイクだった。二人を心中に見せかけようとしてダメだったのは、かおりの手首にリストカットがたくさんあり、自殺が睡眠薬だけだというのは、不自然に感じたからだ。心中であれば、睡眠薬ではなく毒であろう。毒の入手ができなかったことで、結局、かおりを単独の手首を切っての自殺に見せかけ、本当の殺人を隠蔽しようとした。本当の殺人が見つかると、彼らの犯罪はすべてが露呈されてしまい、いくら殺人まではしていないとはいえ、彼らは完全に終わりであった。それを阻止するための殺人だったのだが、大久保と、深沢に阻止される形になった。
不可泡は表で暗躍し、大久保はまさしく裏で暗躍したのだ。この二人がいなければ、ここまですぐには事件は解決しなかっただろう。
被害者の二人は気の毒ではあったが、だからと言ってそれまでの罪が許されるというわけでもない。せめて真実が明かされたことが彼らへの供養になれば、それでいいと思った門倉刑事、清水刑事、辰巳刑事の三人だった……。
( 完 )
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作品名:見えている事実と見えない真実 作家名:森本晃次