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見えている事実と見えない真実

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 この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場面、設定等はすべて作者の創作であります。似たような事件や事例もあるかも知れませんが、あくまでフィクションであります。それに対して書かれた意見は作者の個人的な意見であり、一般的な意見と一致しないかも知れないことを記します。また専門知識等はネットにて情報を検索いたしております。ご了承願います。

             自殺現場

 県庁所在地の中心部まで一時間以内の通勤圏内で、あたりには大学が乱立しているような学園都市の側面を持った丘陵地には閑静な住宅街の広がるH市には、駅近くに高級マンションが乱立していて、ここ二十年の間に駅前は、まったく変わってしまった。
 このようなベッドタウン化を予想して、何もなかった私鉄の駅前はちょうど二十年前に建て替わり、特急電車が停まるようになってから、乗降客がどんどんと増えてきた。
 住宅街への人口流入ではなく、駅前のマンション群に一気に入室者が増えたからで、マンションも賃貸から分譲と、その規模もピンからキリまであった。
 駅前には、建て直す前は、赤提灯であったり、場末というようなスナックなどの横丁があったのだが、それらの店も残っていてもほぼ歯抜け状態である。駅を立て直す時というその時に、自治体で区画整理も同時に行われ、飲み屋街のあるあたりの半分くらいまでの部分が道路になるという計画だったので、立ち退きを余儀なくされた。
 中には最後まで粘っていた店もあったようだが、その店が立ち退いてからが一気に区画整理のスイッチが入り、それと同時にマンション建設ラッシュが始まった。マンション建設も、区画整理の中の一種であり、一大プロジェクトになっているようだった。
 以前の駅前にはロータリーすらなく、メイン道路も、駅までではなく、少し歩いたところにあるアーケードを設けた商店街のあたりが、賑やかだった。午前中の開店時間から、総菜屋さんや野菜、果物屋さんはアーケードの中心近くまで出店のようにして、賑わいを見せていた、そんな賑やかなアーケードも、今は閑古鳥が鳴いていて、昼間の時間でも半分近くのシャッターが閉まっている状態だ。
 中には、
「長らくのご愛顧ありがとうございました。当店は閉店いたしました」
 と、閉店を知らせる貼り紙であったり、
「貸店舗」
 という貼り紙が、不動産屋さんの名前で貼りだされていたりする。
 郊外に車で行ける大型商業施設ができたことで、地元の商店街は一気に商売が立ち行かなくなった。
 しかも、商店街の奥にあった少々大きなスーパーが、郊外の商業施設の中に入り、ここを撤退していったことで、余計に商店街を通る人がいなくなった。普通の買い物であれば、コンビニでもできるし、以前のように、
「この商店街にくれば、必要なものは何でも揃う」
 と言われた時代ほど、需要を求めているようではなくなったのだろう。
 しかも、駅前に住んでいた人たちも区画整理の煽りを受け、立ち退きを余儀なくされ、立ち退きの場所を、丘陵地にある住宅街に移す人も多かった。それだけの立ち退き料でもなければ、反対運動が起こっていたかも知れないが、それほどの騒ぎにもならずスムーズな区画整理が行われたのも、それが原因だったのかも知れない。
 そうなると、駅前のアーケードには、いよいよ人が立ちよらなくなる。ロータリーから出ているバス停に、電車が到着すれば、皆向かい、駅前を気にすることなく、家路につくのだ。しかも、住宅街の近くにショッピングセンターなどもできていることから、買い物もそこですればいい。夜九時くらいまで開いているので、残業でもしなければ、十分に買い物できる時間だったのだ。
 そんな駅前には、とにかくマンション群と、新しくできた呑み屋と、以前から残っているスナックなどの店、さらに昼間からシャッターの半分は閉まっているという寂れた商店街があるだけだった。
 ロータリーなどはしっかりと作られているが、それは住宅街に帰る人のためであって、旧来から残っている人のことは、まったく考えられているという感じがしなかった。
「街が区画整理されると綺麗にはなるけど、まるでゴーストタウンのように寂しくてまったく個性も活気もない街に変貌してしまう」
 という話を聞いたのは、昔の街も知っていて、今の街に憂いを感じている人からの話だった。
 そんな商店街にも中には常連の客がいるのはいる。昔からの常連がほとんどなのだが、まだ若い人で、明らかに最近この街に引っ越してきたという人が商店街の店を贔屓にしていることもあるようだ。
 そんな街で、飽きを通り過ぎ、冬が近づいたと感じさ褪せる十一月に入った頃のある日、一つの事件があった。最初は新聞にも載らなかった小さなことであったが、事態は時代に変化していったのだ。
 その事件は、毎日どこかで誰かが、というようなレベルのもので、物珍しさはなかったのである。しかし、そのような場面を一人の人間としての単位で考えると、経験するということは、人生に一度あるかないかということなのかも知れない。
 最初に異変に気付いたのは、隣の部屋の住人でも管理人でもなかった。その人が勤めていた先で、無断欠勤が続いていることで発覚した問題であって、事件が起こってから発見されるまでに、二、三日が経っていた。
 駅前のロワールマンションの三〇二号室、そこに住んでいる水島かおりという女性が、勤め先である、スナック「モア」でホステスをして働いていたのだが、それまで無断で欠勤したことがなかったのに、二日ほど何の連絡もなく休んでいることで、さすがに気になったママさんが電話をしてみたが、電話に出ることもない。LINEで連絡も取ってみたが、既読になることもなかった。
 当然、さすがにおかしいと思い、マンションに行ってみると、郵便受けにはダイレクトメールが山ほど突っ込まれていて、
「数日間、留守なのではないか?」
 と思わせた。
 しかし、ただ旅行にでも出ていて留守というだけなら別に気にもならないが、電話に出ることもなく、既読にもならない。果たして、そんなことがあるだろうか。
 中にはそんなズボラな人もいるかも知れないが、かおりはそんな女性ではなかった。そのことはママが一番よく分かっている。さすがに気になって、管理人に話してみると、一度彼女の部屋に行ってみることにした。
 まず、彼女が部屋にいるのかどうか、そのあたりを知る必要があるので、マンションの壁に設置してある個々の部屋のメーターがある扉を開いてみた。その中で気になったのが、水道だけが、どんどんメーターが上がっているということだった。
「どうやら、水を流しっっぱなしにしているということみたいですね」
 と管理人が言うと、ママさんも同意して頷いたが、
「とりあえず、一度呼び鈴を押してみましょう」
 と言って、呼び鈴を押してみたが、やはりまったく反応はない。
 さすがにおかしいと思った管理人は、オートロック手前にあった集合とストにダイレクトメールがいっぱい差し込まれているという状況を思い出して、
「これは尋常ではありませんね。合鍵を使って入ってみましょう」
 と言って、管理人権限で、中に入ることにした。