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星に願いを:長門 甲斐編

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下総



「下総(しもふさ)」

其の、初めて耳にする名前に心が落ち着かない

上総の「何か」を知る事は
己(おのれ)自身の「何か」を知るようで心が落ち着かない

和泉の心境を余所に
備前は「上総の身の上話」を語り続ける

「「下総」は「半人前」以下だったから上総も随分、苦労したよね」

吐き捨てるも自分の言葉に同意しかねるのか、頭を振った

「実際、余所の悪魔が勝手に思うだけで」
「上総にとっては「苦労」も「苦労」じゃなかったのかも知れない」

「兎に角、仲の良い「姉」「弟」だったから」

滑稽な程、「悪魔」らしくない「悪魔」

「其の「下総」とやらは?」

止(よ)せば良いのに、と口を衝くも後悔する
然(そ)して其れは間違いではない

「「死んだ」よ」
「「死んだ」からこそ今、上総は御前と連(つ)るんでるんだよ」

言い捨てる備前の言葉に和泉は違和感を覚える

「「死んだ」?」

其の言い回しは「悪魔」に当て嵌まるのか

自分を殴り付けた時
此奴は「「消滅(しに)」たいの?」と、云った筈だ

今の今迄の会話の中でも「消滅」と、云っていた筈だ

備前も察したのか

「ああ」
「彼(あ)れは「死んだ」んだ」

「其れ以外、言いようがない」

然(そ)うして話し終える備前が何と無しに付け足す

「ねえ?」

「あん?」

「分かってるとは思うけど」

豊前の含みを持たせる言い方に和泉は頷きつつ明言する

「無論、上総には内緒だ」

疑う所で意味はない
信じた所で意味はない

其れでも和泉の確約を得て備前は心做(こころな)し安堵する

上総を怒らすのは屁でもない
上総を怒らせた結果、豊前の怒りに触れるのが怖い

上総は何だ彼(か)んだ許してくれても
豊前は決して許してくれないのは目に見えている

全て承知の上、眼の前の「悪魔」に語ってしまった

自分の口の軽さに
「何時か足を掬われなければ良いが」と、改めて反省する

此方、和泉にしても
図らずも語られた「上総の身の上話」を如何、受け止めれば良いのか
苦慮する程、衝撃だった

其れでも性分なのか
考えて考えて次第に「何とかなるだろう」と、思えてくる

其れが良いのか
其れが悪いのかは別にして和泉は考えるのを止(や)めた

「然(しか)し「双子」だらけでは区別が付かなくて困るな」

我ながら埒も無い事を言い出すも
当然、話題変えを歓迎する備前も乗っかる

「困らないよ」

会話は「キャッチボール」だ
一方的に放るのは好ましくない

等と思う自分も充分、「悪魔」らしくない「悪魔」

「如何して、そう思うの?」

「あん?」
「そりゃあ⤴区別が・・・、付かないと困るだろう?」

他に言いようがなく結局、言葉を繰り返す

「困らないよ、何方でも「同じ」だから」

「「同じ」じゃないだろ?」
「御前は御前だし、彼奴(兄)は彼奴(兄)だし」

「「同じ」だよ」
「「同じ」なのに上総は区別した上で「挨拶」するから「迷惑」なんだ」

「「迷惑」?」
「何が「迷惑」なんだ?」

「「挨拶」は基本中の基本だぞ」
とでも言いたげに唇を尖らす和泉が問い掛ける

其れは「人間」として?
其れは「悪魔」として?

備前は上向く顎に手を置いて言い直す

「「厄介」」

「?「厄介」?」

胸中に秘めた「悪戯心」を隠す気もない
備前が満面の笑顔で答える

「「豊前」の振りして揶揄(からか)えないからね」

「ああ」

返事をするも彼(あ)の鉄仮面を揶揄った所で面白くも何ともないがな
と、事ある毎に上総を揶揄う和泉とは思えない言い分だ

「抑(そもそも)、豊前は不快に思ってる」

「上総が「人間」にかぶれるのも」
「上総が「人間」に」

言い掛けて止(と)めるも
先程のように「最後迄、言い切れ」と詰め寄られるのでは?
と、身構える備前に和泉が点頭(てんとう)する

「だよな?」
「あんな殺伐とした「挨拶」等、見た事もない」

途端、備前が噴き出す
釣られて笑い出す和泉が眼線を向ける、街路灯の下
今まさに上総が豊前に被さる勢いで詰め寄っていた

体格差の所為(せい)か
丸で「大人」と「子ども」のように見える

「喧嘩」にでもなれば大事だ

「!!おいおい、兄貴が襲われるぞ!!」

「!!助けに行け!!」
とばかりに急かすも備前は動じない
其れ所か駆け寄ろうとする和泉の腕を素早く、掴み止(と)める

「?!おい?!」

成る程、「暗黙の了解」である「間合い」が零(ゼロ)だ

其れが一体、何なんだ
現に「悪魔知らず」の此奴とは「間合い」等、関係ない

自分自身、此奴との「間合い」を詰めた今の状況、嫌いじゃない
(なんなら不可抗力で腕なんか掴んじゃってるし⤴(笑))

豊前が延延、不快なのは仕方ないんだ

昔は飽きる事なく戯(じゃ)れ合っていたのに
今は随分と御無沙汰だ

其れも此れも全て、眼の前の「悪魔」の所為(せい)だと決め付けている

「「喧嘩」は「喧嘩」でも彼(あ)れは「痴話喧嘩」だよ」

「?!あん?!」

険しい表情で聞き返す和泉に
掴み止(と)めた腕を解(ほど)く備前が取って付けたような笑顔を浮かべて吐き捨てる

「犬も食わない」

今一、和泉は言葉の内容を理解出来ない

其れでも直ぐ様、「其れ所ではない!」
と、顔を向けた街路灯の下、何事もなく佇む上総に手招きされる

「あ、あん?」

拍子抜けもいいところ
横にいた筈の備前は既に「二人」の元へと歩き出していた