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星に願いを:長門 甲斐編

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悪魔知らず



「ああ」
「確かに「豊前」は笑わないね」

「そう云う上総も」と、言い掛けるも止(と)めた後(あと)

此の悪魔と連(つる)むようになってからは然(そ)うでもない
然(そ)う思ったが言わなかった

「前」にも行けない
「後」にも行けない

嘘吐きならばせめて言葉は慎重に選びたい

「!しっかし、そっくりだな!」

逃走する備前の背中を追い掛けるも
結局、「最後迄」は言い切らず黙り込む横顔を見据えて感嘆の声を上げる

「は?」言葉にはせず此方を向く
「備前」と街路灯の下、放置してきた上総と向かい合う「豊前」を交互に指差す

「「豊前(ぶぜん)」だっけ?」
「御前の兄貴と御前、本当にそっくりだな!」

何が其処迄、面白いのか
尚も興味津津、自身の顔を覗き込む和泉に

「御前もそうでしょう?」

至極、普通に訊(たず)ねるが
紫黒色の眼を真ん丸くする様子に思い当たり点頭(てんとう)する

「ああ」
「「悪魔知らず」って、そういう事?」

「「悪魔知らず」?」

決して褒め言葉には聞こえない
備前の物言(ものいい)と台詞(せりふ)に顔を顰(しか)める
和泉に眼の前の「悪魔」がにこやかに笑う

「上総が御前の事、「悪魔知らず」って言ってたんだよ」

「豊前が「会いたい会いたい」喧(やかま)しいから」
「僕は適(てっき)り姑息な手段だと思っていたんだけど、」

其れでも頑なに会わせなかった果ての、今回の悪巫山戯(わるふざけ)だ

頭が上がらない豊前の頼みとはいえ、まんまと罠に嵌めた
其れだけに和泉には何の恨みもない

罪滅ぼし等、殊勝な事を言う訳ではないが
「悪魔知らず」と、宣(のたま)うのならば少しばかり「悪魔話」をしてやろう

「基本、悪魔は」

「「対(つい)」で生まれ落ちるが」
「「対(つい)」で朽ち果てる事はない」

言わずもがな

「御前が「対(つい)」である、片割れの存在を知らないのは」

「早早、消滅したの?」
「其れとも元元、「一つ」なの?」

「「一つ」?」

顎を引き聞き返す和泉に
先程のにこやかとは裏腹、備前が唇を吊り上げる

「「欠陥」も「欠陥」」
「互いに補(おぎな)う「半身(はんしん)」を得られない、「半人前」」

相手の反応は予想通り
随分な言い草に絶句した和泉を前に備前が大笑いする

「なんて、ね」
「「半人前」の素振りで本当は、「一人前」なのかもね」

「あん?」

何だ何だ
肯定したり否定したり忙しないな

「上総がそうだから」

其の言葉に内心、悪態を吐く和泉が

「上総が?」

直ぐ様、言い直す

「上総も?」

「上総も「一つ」だったのか?」
と、問いたいのだろうが備前は藤黄色の前髪を揺らす

「稀(まれ)に極稀(ごくまれ)に」
「「対(つい)」でなく生まれ落ちる、「悪魔」がいる」

「明白(あからさま)な「欠陥」」

「其れが「上総(かずさ)」と「下総(しもふさ)」だよ」