星に願いを:長門 甲斐編
無題
抜けるような青空に吸い込まれ一瞬、蝉時雨が消える
然(そ)うして耳に届いた、「長門」の声
見ず知らずの墓石の前で手を合わせる和泉が顔を上げた
顔を上げた其処(そこ)には鉄仮面然とした上総が「長門」を眺めていた
「御前の「時間」は止まったままだ」
上総の言葉通り
寝ているように寝ている
食べているように食べている、生ける屍(しかばね)のようなモノ
「色」のない「其処(そこ)」では足す事も引く事も出来ない
其れは多分、「生きる」とは言わない
「逝く者が何も残さずに逝くと思うのか?」
彼(あ)れは「下総(しもふさ)」の事なのか
其れとも別の誰か、と考えるも御互い詳しくは知らない間柄
訊(たず)ねても屹度(きっと)、逸(はぐ)らかす
又(また)は見え透いた「嘘」を吐(つ)かれるだけだ、と和泉は顔を下げる
其れでも
「上総は、残して貰ったのか?」
自分自身、「自問」の流れで思い掛けず口を衝く言葉
咄嗟(とっさ)に両手で口元を覆(おお)うも手遅れ
限(ぎ)り、備前(びぜん)との「約束」は守っていると思いたい
思いたいが上総相手に口を滑らした時点で完全に「終了(アウト)」だ
其の証拠に顔を背けた背後
上総から注がれる眼線が突き刺さる程に痛い、気がする
如何にも遣り過ごすが
如何にも耐え切れず素知らぬ振りで立ち上がる
鼻歌交じり♪
上手くいけば此(こ)の場から退場出来るかも知れない
其の一縷(いちる)の望みに賭けてみる
上総相手に唯唯、無謀な賭けだ
「貰った」
当然、振り返る
真逆(まさか)、「返事」があるとは思わなかった和泉は当然、振り返る
然(しか)も至極、真っ当な「返事」
稍(やや)、尻込みつつも上総の顔を見詰める
和泉に其れ以上、語る気はないのか
飽くまで鉄仮面を崩さない
上総も和泉を見詰めたまま、もう一度、答える
「貰った」
作品名:星に願いを:長門 甲斐編 作家名:七星瓢虫