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星に願いを:長門 甲斐編

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無題



昭和 懐古趣味(レトロ)な店内に流れる
昭和 懐古趣味(レトロ)な音楽

来客を告げる扉鈴(ドアベル)が控え目に響く中

「いらっしゃい」

と、言い捨てる店主(マスター)に顎で挨拶しつつ
何時ものように遊戯卓上(ゲームテーブル)に向かう足を止めた

「何時も」か?
「何時も」だったか?

カウンターテーブル越し、競馬新聞を広げる店主(マスター)を見遣る

此処(ここ)は仲間(足代わり)の実家だ
父親の店主(マスター)は競馬、競輪、競艇、何でも御座れの賭博(ギャンブル)狂い

度度、店を空ける父親に代わり
仲間(足代わり)は学校を休んでは店番をしていた

仲間達の手前、嫌嫌な態度で店番する仲間(足代わり)だったが
珈琲を淹れる満悦な顔を見る限り、満更でもないのだろう

足代わり(仲間)が居ない以上
序(つい)でに「俺」も「檻」から逃(のが)れて延延、居座った学生時代

然(そ)うして、ゆっくりした足取りでカウンターテーブルに近付き腰掛ける

普段は見もしない
目の前の御品書きを何と無しに手に取った
其の様子に競馬新聞をずらし、顔を覗かせる店主(マスター)

目と目が合って
手入れもせず伸ばしっぱなしの、頭髪を掻き上げる

「、御前さ」
「、何時から店、継いでんの?」

「今更?」

「、然(そ)うだよな、今更だよな」

其れでも御前には「今更」だろうが、俺には「何時の間にか」だ

つか、親父さんは如何した?
真逆(まさか)、死んでねえよなあ?

認めたくないが「時」の流れは残酷だ
其れこそ平然と凌げた場面が凌げなくなる、感情が駄駄漏れになる

当然、透け透けの「俺」の心中が見えたのか
察した店主(マスター)事、足代わり(仲間)が競馬新聞を畳む也、語り出す

「御袋の母国で隠居生活だよ」

「、あ?」
「、御袋さん・・・」

「然(そ)う、「越南(ベトナム)」」

然(そ)うだった
御前、「国際児(ハーフ)」だった

親父さん譲りの和風顔で今の今迄、忘れてたわ

愈愈、競馬新聞をカウンターテーブルに置く
足代わり(仲間)がサイフォン式珈琲を淹れるべく作業に取り掛かる

此処は掃き溜めの吹き溜まり

何処も其処も生まれた時から同じ、見慣れた景色
何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も生まれた時から同じ、見慣れた顔

何度でも言う
「時」の流れは残酷だ

当たり前だが「学生時代」よりも
慣れた手付きでサイフォン式珈琲の下準備を進めていく
足代わり(仲間)の頭頂部に目が釘付けになる

そりゃあ親父さんも見事に禿(は)げていたが、御前

「、禿(は)げた?」

「今更?」

頗(すこぶ)る平然と返された結果
自分から言っておいて何だが物凄く場都合(ばつ)が悪い

否否(いやいや)、若禿げにも限度があるだろうが!
御前、激(禿)し過ぎるぞ!!

案の定、感情駄駄漏れ状態の「俺」に対して
足代わり(仲間)が作業する手を止めて、溜息を吐くので慌てて手刀を切る

「長門(ながと)」

ああもう、謝っただろうが!

多少、居直るも名前を呼ばれて見遣る
唇の片側を釣り上げる足代わり(仲間)がゆったりと言う

「お帰り」

何て言えばいい?
何て言えばいいも何も言う言葉は決まっている

何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も
「お帰りなさい」位(くらい)、言えねえのか

確かに然(そ)う宣(のたま)ったのは「俺」だが選りに選って御前が言うのかよ

隣に腰掛ける「悪魔」
窓辺の「悪魔」

屹度(きっと)、二度と会う事はない
屹度(きっと)、二度と会える事はない

此処は「俺」の居場所
此処は「俺」の、生きる場所

如何(どう)にも面と向かって答えるのは恥ずかしい
ジャージーの脇(サイド)衣嚢(ポケット)を弄(まさぐ)り小銭を鳴らす

カウンターテーブルから
遊戯卓上(ゲームテーブル)へと移動しながら何とか声に出した

「只今(ただいま)」