星に願いを:長門 甲斐編
兄
寝台(ベッド)事、急降下する
見れば降下する気配のない隣に腰掛ける「悪魔」は
予想外の出来事に放した手を再度、出すが
既に握ろうとする自分の手は本(ほん)の少し届かない
案の定
暗闇の中、微かに瞬く「星(ひかり)」を探す
暗闇の中、微かに瞬く「星(ひかり)」を探した先
指先に引っ掛かる「何か」に掴まる
「何か」は「柵」だ、と認識した瞬間
屋上の柵の外側、狭い足場に蹲(しゃが)み込む
鼓動が乱れる
呼吸が乱れる
突如、違和感を覚える
初めて「柵遊戯(ベランダゲーム)」を披露した時
気絶する勢いで絶叫した彼奴(あいつ)の間抜けな顔を思い出す
彼(あ)れは何時(いつ)の時だ?
あれ?
俺は今、幾(いく)つだ?
彼(あ)の日は何時(いつ)の時だ?
彼(あ)の日は如何にも噛み合わない「一日」だった
シリアル派の俺が冷蔵庫を開(ひら)けば
姉と、姉の「彼氏」に牛乳を飲み干されて真逆(まさか)の朝食抜き
抑、「白飯」「味噌汁」「納豆」の御供に「牛乳」は有り得ねえだろう?
御負けに寝坊した姉が俺の原付(愛車)に乗ってったらしく
「彼氏」からの報告に歯を噛み、仲間(足代わり)に連絡するも繋がらない
「はあ?」
「本気(マジ)か、寝てんのか」
「姉」といい
「仲間(足代わり)」といい、喧嘩売ってんのか?
「彼氏」は「彼氏」で
一目散、三和土(たたき)のローファーを突っ掛ける自分に向かって
居間の硝子扉から若気(にやけ)た面を覗かせて
「送って欲しい?」
等、巫山戯(ふざけ)た事を抜かしやがるし
うるせえ
手前(てめえ)は弁当付けたまま、とっとと仕事に行けや
限(ぎ)り限(ぎ)り、登校時間内に「檻」に収監(はい)れば
肝心要の「甲斐(かい)」の姿は見当たらず
「急いで損した」と、胸を撫で下ろすも「張本人が遅刻かよ」とも吐き出す
何が「兄」命令だ
何が「弟」絶対服従だ
何が「無遅刻無欠席」だ
然(そ)うして自分同様
万年重役出勤の仲間(足代わり)の姿を見掛けて当然、嫌な予感がする
「進化」も
「退化」もしない、此処は掃き溜めの吹き溜まり
「変化」には手厳しい
如何したものやら、と立ち止まるも気が付いたのか
目が合う仲間(足代わり)は俺の姿に「此の世の終わりみたいな顔」を向けた
「如何した如何した」
仕方なく訊(き)いてやる
訊(き)いてやるが当然、嫌な予感しかしない
「、近(隣)校と揉めた」
「はあ?」
「「休戦協定」締結中だろ?」
御前の携帯が繋がらないのは、そゆ事?
で、俺抜きで動いた結果、揉め事は収まったの?
聞かずもがな(笑)
火種等、消えない
火種等、消えた振りして後後迄、燻り続けるだけだ
偏差値も
不良(ヤンキー)偏差値も五十歩百歩
彼方(あちら)さんの考えは
此方(こちら)の考えと大差ない、其れならば先手必勝あるのみ
「「カチコミ」だ」
瞬時、賛同するように鬨(とき)の声が一斉に上がった
直ぐ様、教室を飛び出す仲間(足代わり)が
他の仲間達に号令を掛けながら校舎内を駆け抜ける
彼方(あちら)此方(こちら)、雄叫びが轟く中
何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も後に続けとばかりに教室を出て行く
然(そ)うして教室に残される
数少ないの堅気(かたぎ)の同級生の中から「甲斐(かい)」の姿を見付けた
何とも場都合(ばつ)が悪い
見られたくなかった
見られたくなかったかも知れない
自嘲する気はねえが自慢する気も更更、ねえ
苦苦しい思いの俺とは裏腹
微笑ましい程、此方に笑い掛ける彼奴に戸惑う
二層に分かれた、液体
何処迄も澄(す)んだ上の層は彼奴の居場所
何処迄も濁(にご)んだ下の層は
「仕方ねえよ」
善(よ)く善(よ)く事情を聞けば
先に手を出したのは此方(こっち)だ
だが、先に手出ししたのは彼方(あっち)だ
「手前(てめえ)の女に粉かけられりゃあ誰だって、ど頭(たま)に来るだろう?」
知ったか振りで語るも実際、分からん
後にも先にも俺には「女」が居た事はねえから、な!
其れでも「大事」なのは分かる
其れでも「大切」なのは分かる
幸せを願うのなら
手放す覚悟を持たなきゃならねえ
其れが「兄」の為だ
其れが「弟」の役目だ
不本意ながら
花道を退場する役者のように見送られ、教室を後にする
俺の名前を呼ぶ、彼奴の声に足が止まりそうになるが根性で突き進む
何が「兄」命令だ
何が「弟」絶対服従だ
此処は、俺の居場所だ
此処は、彼奴の居場所じゃない
不意に駆け寄る彼奴の足音を背に如何しようもない俺も駆け出す
其れでも言わずには居られなかった
「!!行って来ます!!」
俺は自分勝手だ
然(そ)して彼奴も自分勝手だ
作品名:星に願いを:長門 甲斐編 作家名:七星瓢虫