星に願いを:長門 甲斐編
「?!はあ?!」
「御前等、大概(たいがい)にしろよ?」
幾(いく)ら何でも流石にキレるわ
にも拘(かか)らず
先程の御返しとばかりに隣に腰掛ける「悪魔」に肩を、ぽむぽむされた
「!!お"い!!」
飛切(とびき)り凄むも相手は「悪魔」だ
簡単に往(い)なされ仕切り直しだ
「まあまあ」
「一時(いっとき)だけでも会いたいのなら「甲斐(かい)」とやらに此処に」
隣に腰掛ける「悪魔」が皆迄、言い終わる事なく
窓辺の「悪魔」の邪魔が這入(はい)る
「生憎、其れこそ「管轄外」だ」
見事な提案と得意顔だったのが
見事な肩透かしを食らい、隣に腰掛ける「悪魔」は
自分を見遣り何とも言えない表情をする
「いいんだ」と、此方も言うに言えずに頭を振った
いいんだ
いいんだよ、どうせ意味がない
貴方(あんた)達には
「契約者」の俺には理解出来ない「理由」があるんだろう
だが、貴方(あんた)達には俺の「理由」を理解して欲しい
「一緒に居られねえなら意味がねえ」
「一緒に居られるなら」
「「地獄」だろうが「天国」だろうが構わねえ」
「「甲斐(かい)」が居ねえ「此処」には、居る意味がねえ」
我ながら「ガキ」
我ながら「キモイ」
抑、自分の「理由」等
赤の他人にとっては唯唯、対応に困るだけで
現に隣に腰掛ける「悪魔」は唯唯、返答に困っている様子で
其れでも窓辺の「悪魔」は冷徹だった
「図図しいな」
「御前は「地獄」だろうが「天国」だろうが、逝けない」
其れが此の世の理(ことわり)なのか?
其れとも彼(あ)の世の理(ことわり)なのか?
なら、俺は何処に逝けばいい?
好い加減、向かっ腹が立ってきた
窓辺の「悪魔」を見据えたまま寝台(ベッド)から立ち上がろうとする
俺の腕を掴む、隣に腰掛ける「悪魔」にも腹が立つ
搗(か)ち合う窓辺の「悪魔」の眼は底の見えない、底なし沼
「其れでも死ぬか?」
「其れでも死ねるのか?」
「其の気があるのなら御前は死んでいるんじゃないのか?」
思わず拳を握り締める
俺は貴方(あんた)を覗けないのに
貴方(あんた)は俺を覗き放題だなんて卑怯だろ
「悪魔」なら「悪魔」らしく
四の五の言わずに「契約」を交わしやがれ!
刹那、天井から下がる電灯が点滅し出す
気の所為(せい)か、窓辺の「悪魔」の舌を鳴らす音がした
見事、出端を挫かれた俺は
頭上の、二個の丸型蛍光灯が交互に点滅を繰り返す様(さま)を
見上げたまま動けない
何かが可笑しい
何もかもが可笑しい
「悪魔」の存在以外、他に何が可笑しいって言うんだ?
軈(やが)て、窓辺の「悪魔」の声が聞こえる
揺れて聞こえる、「声」は
弾けて聞こえる、「声」は丸で水の中みたいだ
「御前の、成れの果ては」
「御前の、成れの果てに教えて貰えばいい」
意味が分からない
「死んでも死に切れない、其れが「人間」だ」
意味が分からないって言ってんだろ!
「!甲斐(かい)が死んだ理由も!」
「!!甲斐(かい)が死んだ理由も知らねえで生きていける訳がねえだろ!!」
自棄糞(やけくそ)で叫ぶと同時に点滅が止(や)む
然(そ)うして照らす電灯の下、窓辺の「悪魔」の鉄仮面が剥がれた
「死んだ「理由」?」
其の片眉を上げ
其の唇の端を吊り上げる
窓辺の「悪魔」の冷淡な眼に射抜かれて煮え滾(たぎ)る怒りが一気に下がる
「死んだ「理由」が知りたいのなら、俺が教えてやる」
窓に寄り掛かり立つ「人物」が身体を起こした瞬間
俺の腕を掴む、隣に腰掛ける「悪魔」の手に力が籠もるもんだから
余計、「怖いもの」に拍車が掛かる
「反吐が出る」
足音も立てず
此方に向かって来る、窓辺の「悪魔」から目が離せない
「逝く者が何も残さずに逝くと思うのか?」
「鈍感に」
「無神経に」
「本気で然(そ)う思っているのか?」
愈愈、被さる勢いで詰め寄る
窓辺の「悪魔」を隣に腰掛ける「悪魔」と一緒に見上げたまま
何故か俺は「覚悟」を決める
窓辺の「悪魔」は別格だ
覗いたら最後
覗いたら底の、底まで覗かれる
「御前の「時間」は止まったままだ」
到頭、天井から下がる電灯が点滅する事なく、消えた
作品名:星に願いを:長門 甲斐編 作家名:七星瓢虫