星に願いを:長門 甲斐編
理由
「俺、死にたいんだよ」
「俺、死んで「甲斐(かい)」に会いたいんだよ」
「今直ぐ」
一転、輝かせる紫黒色の眼を泳がせ外方(そっぽ)を向く
隣に腰掛ける「悪魔」が引っ詰めた髪から垂れる前髪を掻き上げた
如何した如何した
自棄(やけ)に気乗りしない態度だな?
「悪魔」なら
「悪魔」らしく嬉嬉として食い付け
思ったが
隣に腰掛ける「悪魔」を見ていると如何にも口元が歪む
「悪魔」なら
「悪魔」らしく、か
「怖いもの」等、疾(と)っくに消えた
皮肉にも目の前の貴方(あんた)の御陰だ
「怖いもの見たさ」序(つい)でに
隣に腰掛ける「悪魔」の肩に手を置く也(なり)、ぽむぽむと叩く
当然、面白くなく半目を呉れる相手に満面の笑顔で応える
「俺、貴方(あんた)達に「願う」前に調べたんだよ」
厳密に言えば「調べた」んじゃない
聖書片手に彼方此方徘徊する、似非(えせ)神父に説教されただけなんだが
似非(えせ)神父 曰(いわ)く
鴨(かも)るのも忘れるくらい死相が半端じゃなかったらしい(笑)
まあ、其奴(そいつ)は置いといて
此の世の理(ことわり)が存在(あ)るように
彼(あ)の世の理(ことわり)が存在(あ)る、らしい
俺に言わせれば全て此の世の理(ことわり)だ
死んだ後等
此の世の後等、如何でも好い
「自らの命を絶つ者は「天国」には行けない、って」
贋(ガセ)だろうが真(ガチ)だろうが是又(これまた)如何でも好い
問題は真(ガチ)だった場合、取り返しがつかない事だ
結果、「星」に願う
結果、「悪魔」に願う
「俺の代わりに、俺を殺して欲しい」
断言する以上、既に腹は決めた
なのに、隣に腰掛ける「悪魔」は不服そうに唇を尖らせる
徐(おもむろ)に胡坐をかいたと思えば
其の膝に頬杖を突くや否や、勿体振るように頭を振った
流石に肩に置いた自身の手を引っ込め問い質す
「何だよ?」
「「何だよ?」とは、何だ?」
慳貪(けんどん)に返す口調だが此方は飽くまでも笑顔で応対する
「「俺」が訊(き)いてんだけど?」
途端、大袈裟に溜息を吐いた
隣に腰掛ける「悪魔」にキレそうになるが、落ち着け
短絡は懲(こ)り懲(ご)りだ
其れでも言うに事を欠いて
「「死ぬ」なんて止(よ)そうや」
「貴様の其処には、何の色も付いていないじゃないか」
然(そ)うして俺の胸元を指差す相手を見詰める
待て待て
目の前に居るのは「悪魔」じゃないのか?
「意味が分かんねえ」
「貴方(あんた)が「悪魔」なら喜んで、俺の「願い」を叶えろよ」
「悪魔」なら
「悪魔」らしく、多少の嫌味は御愛嬌だ
(嫌味が)通じたのか
隣に腰掛ける「悪魔」は苦笑しながら有り得ない事を抜かしやがった
「生憎、「見習い」なのでな」
呆れて、舌打ちも出ない
だが、呆れている暇はない
「なら、貴方(あんた)なら出来るだろ?」
「嘸(さぞ)かし貴方(あんた)は熟練の「悪魔」なんだろ?」
直(す)ぐ様、窓辺の「悪魔」との交渉に当たる
肩を竦める、隣に腰掛ける「悪魔」も自分同様
窓に寄り掛かり立つ「人物」に向き直るが鉄仮面然とした、窓辺の「悪魔」は
薇(ぜんまい)仕掛けの人形のように喋り出す
「生憎、「管轄外」だ」
作品名:星に願いを:長門 甲斐編 作家名:七星瓢虫