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星に願いを:長門 甲斐編

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半身



弟には「半身(はんしん)」がいた

同じ日
同じ病院

同じ父親を持つ、「半身(はんしん)」

「父親」は破落戸(ごろつき)
「母親」は水商売女

「愛人」は商売女

禄でもない「父親」に「母親」も、「愛人」も諦めた

結果

「父親」は禄に責任も取らず
破落戸(ごろつき)相手の委細巨細(いざござ)に巻き込まれて呆気なく死んだ

結果

此の土地(掃き溜めの吹き溜まり)で
出産、育児をする自分達の生活の方が緊急だ

幼い自分(姉)を抱えて
赤ん坊の弟を抱えて「母親」は何を思ったのか

異母兄弟の赤ん坊を抱えた
「愛人」の手を引っ張って連れて来る事に何等(なんら)
抵抗等なかったのだろうか

兎にも角にも悪者は「父親」一人で充分だ

斯(こ)うして開始(スタート)した鎮具破具(ちぐはぐ)な共同生活

生まれも育ちも「此処」出身
持ち前の男勝りを存分に発揮、我武者羅に働く「母親」

片や

何の因果(いんが)で
何の因縁(いんねん)で此処(掃き溜めの吹き溜まり)に流れ着いた「愛人」

成る程、面食いの「父親」が足繁く「店」に通い詰める訳だ

奇麗系の「母親」を手に入れても満足せず
可憐系の「愛人」を手に入れた

文字通り「両手に花」状態
間抜け面の「父親」を思い浮かべて自分勝手に腹立たしくも思うも

涙で濡れた睫毛(まつげ)を伏せる
「愛人」の姿は幼(おさな)心にも唯唯、不憫だった

其れでも「愛人」が抱き抱えていた、愛らしい「弟」の存在に
彼(あ)れや此れや母子に世話を焼く、「母親」が上機嫌なのも嬉しかった

「父親」が何(ど)れ程、禄でなしであろうと
「父親」が死んだ事実は「母親」の「毎日」に影を落としていたから

当たり前だ
当たり前だが生きていくのも、当たり前だ

軈(やが)て「愛人」も「愛人」で吹っ切れずとも吹っ切ったのか

外で働く「母親」の代わりに
昼夜問わず「親」を求める「赤子」の世話をするのは他でもない
悲嘆に暮れる、「愛人(自分)」しかいないのだ

「母親」の若干、「鞭」多目(笑)の指導の元
子どもの自分も拙(つたな)くも手伝う中、初めての育児に奮闘する「毎日」

朝方と夕方

然程、大きくもない写真立ての「父親」に恭(うやうや)しく向かう
正座する膝上に抱き抱える「弟」の、小さな手事包んで手と手を合わせる

直ぐ隣で正座する「愛人」も同様
もう一人の「弟」を抱き抱えて手と手を合わせる

図らずも厳かな空気の中
此れ見よがしに娯楽(スポーツ)新聞をバッサバッサ捲りつつ
ズズズズー、不愉快な音を立てて珈琲(コーヒー)を啜(すす)る「母親」が

「何様だ」
「辛気臭い」

と、「父親」を序(つい)でに「愛人」と自分を罵(ののし)るだけで
右へ倣(なら)うつもりはないらしい

屹度(きっと)・・・
多分、心の中で合掌していると思いたい(笑)

「母親」と「愛人」

馬が合う、合わないは関係ない

「背に腹はかえられぬ」

自分と双子同然の「弟」達との生活

果たして夢の中のような、浮き立つような生活だった

何時迄も続く
何時迄も終わらない

夢の中で、そんな「夢」を見ていた