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山登り・身体・感覚

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その後、幸いにも膝の痛みは徐々に軽減した。炎症が治まってきたのだろう。加減をしながら野山の散歩を再開した。石ころの山道では膝をひねらぬよう脚の置き所を確認しながら歩いた。次第に以前のように歩けるようになってきた。そんな折、引退していたプロサッカー選手の中山雅史氏が現役復帰をするというニュースを耳にする。中山氏の両膝は日常生活の上でも支障があるほどに傷んでいるというのに現役復帰を宣言した。そのことに強く感ずるものがあった。好きなことはそうたやすくあきらめるものではない、ということを教えられたような気がした。単純だが自分も山登りは辞めないと決心した。そうとなればさっそく計画を立ててやろうと9月に2泊3日での立山縦走をやることにした。膝はサポーターを巻き、両手にはストックを持つようにした。妻と一緒なのでおのずとペースはゆっくりだったのがよかったのだろう。予定通り完歩し、錦の立山が堪能できた。以降、サポーターとストックは必ず着用、携行していたが、60歳を迎える頃にはサポーターはなくとも大丈夫なまでに回復している。すり減った軟骨はそのままなのだろうけど、膝周辺の筋力でカバーできるようになったということだろうか。雪の立山や赤岳、大雪山などにも登った。この分だとあと10年ぐらいはなんとかもつかな、と希望的観測を立てている。現金なものである。



2、脱水

 

  何年かぶりで残雪期の白山に登った。50代後半、5月中旬の晴天で夏のように暑い日だった。この時期の白山はこれまで幾度か登っている。3年連続でスキー登山をしたこともある。この日は下着一枚でもかなり汗が出た。こまめに水分はとったつもりだが夕方遅くにようやくたどり着いた室堂山荘で脱水症状(おそらく)が出た。夕食にアルファ米のパックライスを湯で戻すも一口のみで後は全く食べることができなかった。少し時間を空けてからと待ってみるが胃周辺の不快感は変わらず、結局受け付けることができた缶ビールだけを飲んで寝た。山で夕食を食べずに眠るなどということはこの時が初めてであった。
同じようなことが数年前の同時期の乗鞍岳でもあった。乗鞍高原にある国民休暇村前のまだ十分に滑ることができる雪量のゲレンデから登り始めた。目的の位が原に着いたのが見込んでいた時間より少し早めだっとことと翌日の天気が芳しくない予報であったことから、そのまま位が原山荘に滑り降りる予定を切り替えて翌日登るつもりにしていた高天が原を目指した。位が原を斜めに突っ切り剣ヶ峰と高天が原の間の広いU字の谷を登る。標高が高くなり息切れがするようになった。長丁場となったシール登行の疲れも出てきたようだった。すりあげる足を10カウントするととっていた小休止が5カウントにという具合に体力の消耗も進んだ。ようやく鞍部についた頃には分厚く黒い雲が一帯を覆い時間も16時が迫っていた。結局高天が原は断念し位が原山荘に降りることにした。U時谷は等間隔の規則正しいターンで滑り、位が原の台地は袈裟懸けするように斜滑降で降りた。
 小屋の部屋で少し体を休めていると夕食の時間が来た。夕食はいつもの鹿鍋。いつものように缶ビールを買ってさあ食べようと向かうのだが腹部を中心とした脱力を伴う不快感が襲い食べることができない。しばらく膳を前にして座るのみ。ビールは少しづつなら喉を通ったので20分ぐらいかけて飲み干した。これが良かったのか体調が戻ってき鍋は全部平らげることが出来た。
  おそらくその時も登山中の水分補給が不足だったのだろう。僕は特に汗かきなので尚更である。飲んでいるつもりでも必要な補給量に追いついていないのだろう。脱水の症状というのは厳しい登行をしのいだ後に急に現れるようだ。自覚症状が出ると体内状態はもうすでにかなりやられているということ。春の残雪期だと言っても飲料水は多めに持ち、こまめに飲まないとダメだということが身にしみた。







3、心筋梗塞と登山

 

 2021年の夏はお盆あたりに異例の雨があったものの近年通り猛暑といってよい夏だった。10月に入り久しぶりに単独での山小屋泊まりの登山を企てた。立山周辺で登ったことのない大日岳をと考えていたが小屋の予約が取れず、もう一つの候補として考えていた紅葉期の白山で予約が取れたためそちらに登ることにした。白山の山小屋はかなり前から予約制になっていたが、今では新型コロナのため全国の山小屋はほぼ予約が必要となっているようだ。小屋は予約を入れるのが遅かったので多分室堂はダメだろうと考え、宿泊者が少ないであろう南竜山荘に連絡したのだが予想が的中し土曜日ながら予約が取れた次第。
 白山登山は数えてみると9回目。初めての2000メートルを超える高山に登ったのが白山でもある。職場の山の会や家族でも登ったり、スキー登山を始めた頃、3年連続で登って滑り降りたことなどが思い出せる。別山から大汝山や七倉山、釈迦ガ岳と周遊するロングコースを歩いたことも懐かしい。しかし、秋の紅葉期は登ったことがなかった。残り短い登山人生、登っておいてみようという気もあった。
 朝から天気が良かった。登り始めとすぐに汗が噴き出した。10月なのに最高気温が30度にもなるという予報通りの高温だ。しかし、目的地は南竜山荘なので急ぐ必要はない。3時間もあれば着く行程なので到着時間を3時ごろとした心づもりからすると11時に歩き出したのだから1時間も余裕がある。意識的にのんびり、ゆっくりと歩いてやろうという心構えで歩いていた。季節外れの真夏日。もとより苦手な暑さにまいりながらも吹き出る汗を拭いながらスローペースで甚之助避難小屋へ。この辺りまではまだ良かったものの、その先で急に体が動きにくくなってしまった。水分は多めに持ち、こまめに補給はしていたつもりながら、人一倍汗かきの体質ゆえ補給量が足りず脱水気味になっていたのかもしれない。別当出合から抜きつ抜かれつだった1歳10ヶ月の男児を背負子に担いで登っていた華奢な女性にも先を譲ることに。山荘への分岐点の水平道に着いた時には3時をまわっていた。そこから山荘までは緩やかな下りであるが息を乱さぬようそろりと下った。結局登山口の別当出合から山荘まで4時間半もかかったことになる。目的地を室堂にしていなくて良かったと予約時の判断が適切であったことに胸をなでおろし山荘に上がるとホッとした。
 
作品名:山登り・身体・感覚 作家名:ひろし63