アラフォーは男狩り
文字を追いながら、女は下半身を揺らし始める。男には悟られない。
男が不調の時、女は言い放った。
「もう飽きたの」
年の差をからだで比較して自覚する。女の肌は艶めき光を帯びているようにさえ思わせる一方、男は皮膚のシワが年齢を重ねたことを勝手に物語る。
「今から、会える」
もう11時、
「会おうか」
「ありがとう」
「なにかあった」
「わがまま言ってごめんなさい、酷い顔してるから、他人の目を気にしなくてすむ場所があれば良いのだけど」
(ホテルしかないなと、男は感じた)
「今日、お会いできたらどんなに嬉しいか、悲しくて涙が止まらなくて、抱きしめてもらいたい」
「どうして私が望むものは手に入らないんだろう、どうして私は必要とされないんだろう、都合のいい女としてしかいられないんだろう、どうしたらいいか、本当にわからない」
女のメールはあまりに長く一方的だった。女の夜中の呼び出しには窮迫した事情がありそうだった、その事情はともかく女とのセックスが楽しめるかと考えて、タクシーで女のマンションまで行き、女を乗せて、岡崎のラブホへ向かった。
すっぴん、顔が腫れているように見えた。殴られたのかとさえ思った。女の身の上に起こった事件は聞かずに、女の要望通り抱き合った、しっかり抱き合った。今夜は言葉は踊らず、からだの結合の動きに主役を譲る。
「使って、好きにして、気持ちよくなって、いつでもつっこんで」
「こんなにいいの、はじめて」
男は、一挙に進撃するのをためらった、待ちかねた逢瀬を二度三度、楽しみたい。一旦、抜く。
女はなぜというような表情を示すが、男の動きに身を委ねている。両手を使って広げて毛を押さえて、舐めやすくした。
「毛、剃ったら」
「上司に剃られたことがある」
女は平然と答える。
「どうだった」
「感覚が鋭くなる」
「ふーん」
「あとがたいへん、チクチクしてきて」
「脱毛するか」
「したい」
花芯の周囲から、上がっていき、クリトリスを舐める。女は深いため息をつき反応し男の行動を歓迎した。男はここぞとばかり、手練手管を繰り出す。クリトリスを舐めながら中指を入れる。
クリトリスを舐めあげる、舌をこすりつける、ゆっくりと押しつけるように滑らせる、
花芯がキュキュと指を締めつける。
「気持ちいい」
言葉を添えてくる、絶妙なタイミングだ。
男も間を置かず、
「あー」
「腰、使ってるのか」
「使ってる」
「深いところがいい」
男は目を瞑って集中しているのに、女は目を見開いて男を眺める。
「なに、見てるのや」
「あなたがいくところをたしかめる」
「変な子」
「あなたの子供、産んでもいいと思ってる」
男は困惑した。返事に窮した。
「こんなにあなたのこと、思ってるの、わかる」
「おぼれそうや」
「私はもう、溺れています」
「抗えないのです、どうしたんやろうか」
今夜の事件はセックスがからむ揉め事にちがいない。女はその事件にはまったく触れず、自らの男性経験を語り始める。
初体験は高校生、留学先の韓国人、隣国ながらアジアな雰囲気を感じられて、なにかしら懐かしく思ったからだ、セックスは楽しめるものではなかった、互いに未熟だったから、試行錯誤で表現が拙く長くは続かなかった。大学生の時は、アルバイトさきの店長、10歳も年上、一転、セックスへの迷いがなくなりとことん楽しめた。
社会人になったら、同期としばらくつきあったが、すぐに暴力をふるう、尽くそうとはしたが迷いに迷った末に別れた。この男とのセックスは良かった。SMっぽいところに盛り上がった。
そのあとは仕事に邁進、30歳を超えると結婚願望がなくなり、男性との付き合いが楽になった。相手の大半が年上、家庭があり性欲は衰えていく。愛とかの感情を棚上げして、なんとかこなしてきた。
女がする心のストリップを見つめて男は冷静だった。今日は女から誘ってきた。自分にすがってきた女とのセックスをどう楽しむか、自分のペースだ。
「天使のお通り」
と言い訳しながら、
「おなか、すいたやろ」
「うん」
メニューからラーメンを注文した。男は食べはじめて、女に
「足、開いてよ」
「食べるのに集中しなさい」
ふたりで鑑賞した洋画を思い出させると、女はいすに寝そべり左足を背もたれに上げ、身体の中心をさらした。
「ええなあ、娼婦のポーズやなあ」
女は得意顔になり微笑みを男に向けた。
「気に入ってる、あの言葉」
「えー、なんだっけな」
「同期のやつの」
「あー、あなたが命令してよ」
「柔らかくしとけ」
女は心得ましたとばかり、すすんで花芯のビラビラをなでまわした。かつては、命令された、今は望んで。
「父親に悪いわ」
女のひとり言が発するはずのメッセージには思いが及ばず、頃合いを見て、男も裸になって近づき、男根を舐めさせる。
もう十分だろうと挿入する。ゆっくり出し入れする。間を置かず、からだとあたまとを並行させる。
「みろよ」
「入ってる、いやらしい」
「どうですか」
「いいよ、すごくいい」
「腰、使うの、教えこまれたんやろ」
「しこまれたの」
女は両手を男の背中にまわそうとしたが、それを振り払い、頭の上にばんざいさせた。無条件降伏の姿勢にして、男はさらなる刺激を求めた。
「叫べよ」
女は叫ぶ、
「もっと大きな声で」
女は絶叫する。
ふたりともセックスに耽り、あったはずの事件の影響はなくなった。
終わってから、女が言う
「名前、間違えたでしょ」
「え」
男はまったく気づかなかったことであった。女があれほどまでに燃えあがっていたはずなのに、そのさなか、極めて平静な精神を維持している、恐ろしいとさえ感じた。
場面転換が必要だ。ふたたび挿入する。女を納得させなければならない。
「熱い、余韻が残ってる」
「しっかり咥え込んでいる」
「怖いな」
「なんで」
「果てなき性欲」
「そうかしら、ふつうやけど」
「このまま、じっとしてよう」
「ネットで調べて選んでるの、エステに行ってくるわ」
女は男の求めに応じて脱毛を始めると言うのだった、男は女がますます、気に入った。
「あなたとはこの一か月で4回もセックスしている」
「どの男がええんや」
「同僚かな、会いたいと言えばいつでも会ってくれるのが嬉しい」
「彼には悪い」
「モナコのダンスパーティーに行きたい、お金がいる」
「いくら」
「100万はかかる、会社も休まな、あかんし」
「なんで」
「世界のセレブと会いたい」
「そんな、夢みたいなこと」
「夢じゃない」
女はムキになって反論したが、男は興味を示さなかった。
女が見たという映画について、
「そんなことはあり得ないでしょう」
とたしなめるように答えたら、
「あり得ます」
と女は言い切った、自信たっぷりに。