アラフォーは男狩り
女はじつに男性の扱いに手慣れている、とくに年上の。あれこれ想像しては、深い嫉妬に駆られていく。男根が勢いを回復して、女との記憶の叙述作業を熱くさせる。あまりにも早いテンポには、疑惑すら生まれてくる。尻軽なのかどうか、それはこれから付き合いを求めるかどうかの大切な判断材料だ。欲望は満たされたが、男根をいきなり口に含む女の行動には問題が残っている。未解明な謎、女の過去、つまり男性たちとの来しかたをうまく聞きだし付き合っていければと淡い望みを膨らました。
女は、中学、高校まで米国、大学は日本にすべきと単身帰国した。米国の少女たちにとっては、フェラは必修科目、最大の目的は妊娠回避だが、セックスになじむうちにフェラの二重性に気が付いた。少女たちにとって、おしっこの出るところを口に含むなどはとうてい、思いもつかないし、考えられないことである。はじめは強いられる形になる。好きでするようなことではない。拒絶感がありその感情を克服するのは簡単ではなかった。
それは、キスがうまくなるにつれて、拒絶感が薄らぐことで解消された。フェラになれれば、男性の性欲を操るように思えるから面白くなる。しだいに、女が主導するセックスができるようになって、新境地へすすむ。男たちを翻弄できるのは楽しい、と、女は感じ始めた。
役員たちの秘書の仕事には接待の設定やその同伴もある。京都は東京の役人たちも外国人も大好きである、ほかの街にないものがあるからだ。風俗に興味が生まれてきていた。風俗の業種は多様だし、女性たちも実に多彩だ。風俗嬢みたいなものよ、女は自嘲することがある。
アイリッシュバーで横になった男との会話が弾んで、きわどい話題が続くとつい視線が下にむいてしまう。悟られないように、ちらちらと硬くなっている男根を確かめる。よい変化である。実物を確かめたくなってくる。男狩りの心境であった。
「欲求不満でしょ」
と女からのライン。その日、女にすすめられるままラインを交換していた。男は慣れない道具であるが女性たちとのお付き合いには必要なのだろうと納得した。
「まあまあ」
曖昧な返事をした。荒っぽいというか、挑戦的な言葉を投げかけられ、男は正直、反発さえ感じた。
「私のこと、どう思ってる?」
女は男に評価を求めてきた。答えやすい質問であった。
「ええ、かなと」
「どこが」
問い詰める口調だ。
「初めてのタイプやし、気に入ってる」
「変なこと、想像してるんでしょ」
女はけしかけてくる。
「舐めるのは好きみたいやな」
「思わず、無意識でしてしまったのよん」
「無意識で、するようなことかな」
「あらあら、意識なんて、頭の1割程度、ほとんど無意識のなせることばかりでしょ」
「そうかそうか、そうやったな」
女の主張を受け入れた。いきなり舐めたことをせんじ詰めるのは、男のかつてな理屈だろう。
男には、「欲求不満でしょ」から女との関係が始まったと言える。単純に慰めてるいのかどうか、不可解だ。まことに挑発的で理解できない。悪意のある言葉が侵入してきて、女のことが忘れられず頭の中に棲みついてしまった幻想と反応する。
日常性は奪われるということがある、奪われないためには、しっかりと記憶するほかない。記憶は冷静さを回復する。感情に対する抵抗の拠点だ。記憶を超えたくなる時、心を動かされる感受性が鋭くなっていく。
男は女の香水を思い出そうとしたが、記憶は再生されない。記憶が完全に消えたと仮定する。香りをなくしてしまうと、香水はただの水になる。実存が問題なのだ。新たな記憶への過程こそ大問題なのだ。メールが男の心をひどくざわめかせ、不安な感受性を手放なそうとして手放せない自分を発見する。日常性が奪われていく不条理に揺らぐ。女のことでこんなに悩むとは、男は自分のことながらあきれてしまう。
物語りをつくるのだと言い聞かせる。あの女には嘘がある。とっさに嘘をつく、嘘はあるが場のリアリティも存在するから、しまつが悪い。嘘をつくことを覚えると人生観はかわるのではないか、とあの女が恨めしい。年甲斐もなく子供のような年頃の女に心を奪われてしまった。
誘いのメールに返信して、アイリッシュバーで落ち合った。
もっぱらコロナがテーマになる。
「濃厚接触、って、いやらしいわね」
女の言葉に男は同調する。
「コロナは、新世界の扉を開けた、と評論してるね」
「詳しく話して」
「ノンコンタクト、だと」
「なるほど、わかる」
コロナの文明批評で盛り上がった
高瀬川への散歩に誘う、この界隈にはホテルでもなんでもそろっているから、作戦が組み立てやすい。
三条小橋のたもとで、にらめっこする。
「どこかへ行こう」
「場所による」
「そうやね、どうしようか」
「眠たい」
「なにもしないから、くつろげるところ」
男は女を高瀬川沿いのラブホへ誘った。
玄関まで来て、女は
「え、ラブホなんて信じられない」
と口をとんがらせた。
シティホテルは
「この時間では遅いし」
と言い訳する。
女はスマートフォンを巧みに操作して、手際よく割安なホテルをさがしだした。
男は感心する。近くのホテル、鴨川が眺められる部屋を割安に予約できたのだ。
シャワーを浴びて浴衣を着る。身体を重ねると激しく抵抗して、足を開こうとしても応じない。身を固くしてじっとしてる。
ちんぽをあてようとするが、
「そんなのだめ」
入口をかたく閉ざして前進できない。唾液をたっぷりつけて押し込んだ。なんとかすすむ。しかし、いつもの快楽が生まれない、微動だにしない女に半ばあきらめて、入口でとどまったまま静観することにした。
男根は敵地で孤立した遊軍の様相である。互いに睨み合い、動かない。どうして良いのかわからない。
女は
「ちょうだい」
とつぶやいた。
男は女の真意がわからない。言葉が合図にならないのだ。時間がゆっくりと動くのだけはわかる。一秒も惜しむかのように。女はため息をつく、吐息をはく。快感が芯から生まれてきたようだ。
それなら、攻撃的な戦術を採用する。がまんの仕返しだ。両手を上げさせて無防備な姿勢に変えようとした。
しかし、女は
「いや」
とはっきり拒む。
「声、出してよ」
と頼んでも、まったく乗ってこない。気分が乗らないまま、時間がすぎる。
「ゴム、持ってないの」
「ラブホならあるんやけど」
男の言い訳に
「なんで」
女の口調はきつかった。さすがに硬さが失われていく。カラオケの出来事を思い出し、舐めさせると、女は応じた。あの時のように、飲むから不思議だ。しかし、かたくなな態度はくずれなかった、何者かと疑問が深まる。セックスが嫌いらしいが、ホテルまでついてくる、よくからわからない。期待外れの思いだけが残り、あっさり、別れた。
男はもうおしまいにしようと決心した。
「感じてたのよ」
女から男へ恐ろしいメールがくる、混乱してしまう、女は分析不能だ。これまでの絶対的なまでの男としての自信が揺らぐ。経験則がまったくと言ってよいほど通じない。
メールをやり取りして、女の関心がアロマとかエステとかに集中していることが分かった。何かを求めて東京まで行くこともある。肉体こそ自信の根源であると女は思い込んでいる。それはもう思想というべきであった。