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アラフォーは男狩り

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アラフォーは男狩り
大丸の裏、錦通りにアイリッシュバーがある。男はマンションへの帰り道の途中なこともあり、つい立ち寄ってしまうのだった。その店でほろ酔い心地になるとしても、不安なく帰ることができる。
その日も、仕事を早めに切り上げられたので暇つぶししようと、アイリッシュバーのカウンターに座った。となりに女がひとりで、キルケニーをのんでいる。見かける顔だ。飲みっぷりが良い、表情も穏やかだ。好感がわいてくる。真っ赤なワンピースにハイヒールが迫力をもたらしている。女とはしばしば、出会っている記憶があったが、となり同士ははじめて、仲良くなるチャンスがおとずれた。
女は店のスタッフと懇談している。気さくな雰囲気があって、人懐こそうであり、興味は深くなるばかりだった。好奇心が湧いてくる。
常連にちがいない、その会話に注意を払いながら、キルケニーを味わった。どうやら新聞ネタでもりあがっている。
まだ、6時すぎだ、こんな時間にバーに来るとは、女の素性が気になって仕方ない。スタッフに尋ねておけばよかったと悔やむ。もう少し情報があれば親しくなれるのに。
独身と思うが結婚しているのかもしれない、そこそこの企業の中堅社員であることは間違いない、とてもおしゃれなのだ。重役の秘書とかと経営中枢に近い、頭の中で自問自答する。
女に向かって、返事がしやすいような質問を繰り返すことにした、
「最近気になった新聞記事はなんでしょうか」
「京大の緊縛授業」
女は平然と応じた。
「そうやね、びっくりしたね」
男はその場を取り繕うように言葉を返した。この話題を扱うのは簡単ではない。男は思いがけない話題にたじろぎながら、女についていこうとした。その緊縛授業騒動は、全国紙の京都版ではあるが大きな扱いだったのを思い出し、
「関心を持たれたのはどこですか」
「部長がおもろいなあ、って」
部長が出てきて男は混乱を深める。緊縛の記事を男女が話題にする、しかも社内で。「部長さんて、いくつぐらいなん」
「京大の名物教授がいて、発禁本で起訴されたらしいのね」
「いてたなあ」
男は部長の年代を探った。
「その部長に興味があるねえ」
「そうでしょ、変人やわ、部下に慕われるけど、上には嫌われる」
女の年齢も気になったが、30歳代も後半かと推測した。
「面白そうな職場やな」
「職場はね、うまくいってはいるけれど、権力闘争がはげしくてたいへんやわ」
女は権力闘争を目の当たりにするような地位にいているのだろう。この辺りで転換した方がよさそうだ。男は話題を広げながら、防戦することにした。緊縛、部長と、女の言葉に頭がフル回転を始めている。緊縛をサラッと話題にしたこの女の頭の中がどうなっているのか、未知の世界に入り込むような刺激を感じた。なかなか面白い女ではないか。部長とどのように盛り上がったのか、オフィスでの会話としてはとても発想できないことだ。緊縛は男たちの興味を誘う話題ではあっても女性が好むものではない。頭の中を覗き込むように隣にいる女の表情の変化をとらえようとした。女の中の強烈なエネルギーを感じながら、話題をアメリカ大統領選挙に変えた。
女の視点には感心した。新聞の影響力の低下、ネット社会への移行への転換期を象徴しているとの見事な解説に我が意を得たり、と議論は熱を帯びてくる。京都新聞も日経新聞も朝日新聞まで目を通すというから、管理職か、社長室とか、経営幹部に近い管理職に間違いない。
女の面接にはパスしたようだ。
「どこか、行きます」
「どこかって」
「二人っきりになれるところ」
「ふーん、そうくるか」
女は男の誘いを受けて、自信満々の表情を示し、余裕すら感じさせた。
「静かなところはどう」
「にぎやかなところにしましょう」
女は斬り返してきた。男の意図をもてあそぶようで見事だ。逡巡してはならない、男はとっさに判断を入れた。
「カラオケは」
「いいねえ」
一致してからは二人の緊張関係が解けくつろいだ。
「言わぬ花って、知ってます?」
「くちなし、でしょ」
女にあっさり答えられてしまい、男は面目を失った。それならと話題を広げた。
「都市の文化は言葉遊びやね、女性が主人公」
「言葉遊びは京都人の道具でしょ」
少し赤みのある黄色、くちなしを、言わぬ色と言いかえる、このように直接的な表現をさける、京言葉社会を様々に分析して、女と男はさらに盛り上がっていった。男は女の知識の豊富さに応じて、京言葉は御所の女官たちを相手にする商人が使って普遍化した、と持論を繰り出した。
男はカラオケで二人きりになれることに、ほっとした。たしかに、いきなりホテルへ誘うのは無謀だろう。婉曲に断られたのかもしれないが、チャンスはある。

ほとんど、男が歌い続けた。
女とは親子ほど離れていて、世代がまるでちがうが、男の歌う曲にもよくなじんでいる。年上の男性たちとのつきあいがあるのだろう。カラオケにはきっと、上司と行くにちがいない、と想像し、女の素性を探る作業を続行した。
「話している時の方が好き」
女は、男の声をほめた。
なにか不思議なメッセージだ、好かれているのではないかと男はうぬぼれてしまう。その思いはそっと隠して、ゆっくりと距離を縮めようとしたが、カラオケでは間がもたない、1時間で切り上げた。
男はさてと思案する、これから、どうすべきか。とりあえず、女の時間を占領しなければならない。ホテルはあきらめて、無難なコースを思いつく。
「カラオケ、もう一軒、行こうか」
「いいよ、歌って」
女は機嫌よく応じた。
ルームに入ると、男は歌を棚上げする作戦を選んだ。女の横にぴったり並んで座り、そっと口づけた。
女は拒まなかった、男は遠慮を捨てて、キスを繰り返す。
女は、
「あ--」
と深いため息をついたので同意を得たと決め、まずブラジャーのホックを外した。全く抵抗しない。手を伸ばして乳房をもむ。
「やわらかい」
男がささやけば
「やわらかくしといたから」
男には、女の言葉の意味が分からない、つじつまの合わないことを言う、解釈にてまどった。女の正体がつかめない、謎めいてくる。誘ったつもりが誘われたのかもしれない。予期せぬ事態だ。
意を決したかのように、女はそっと、男根に触れ、かたちをたしかめた。男は自制を失い、堰をきったような勢いがとまらなくなる。これまでの控えめな行動が無に帰す恐れもあったが、大胆な行動に出た。男根を取り出したのである。
「もうちょっとでいきそう」
と訴えると、男の欲望を察知してか、女はすなおに、口をかぶせてきた。そして奔流を女は飲み込む。男は、そのあとの女に口づけて、感謝の気持ちを伝えた。
今日はもう十分だ。三条通りで別れる、女のマンションも近くらしい。
手をふって、
「今度、いつ会える?」
「いつでも、会えるでしょ」
約束をしたようでしないような、これも言葉遊びである。

その夜の出来事をノートに記していく。物語りである。強烈な印象を場面ごとに、女の言葉をトレースしながら、回想した。セックスなしなのにそれを超える強烈な体験となった。忘れてしまうには、あまりにもったいない。書きながら、謎めいた言葉の解明に苦心する。しかし、それは、楽しい作業であった、
作品名:アラフォーは男狩り 作家名:広小路博