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ヤブ田玄白
ヤブ田玄白
novelistID. 32390
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「オオカミ婆ちゃん」なのか

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 太ももから足先までやせ細って、同じ太さである。〈まるで、ゴボウのようだ〉
皮膚の下がすぐ骨ではないかと思うほど筋肉がなくなっていた。3か月寝たきりでいると、こんなに筋肉が無くなってしまうことに改めて驚いた。
「廃用性筋萎縮」である。

 息子は言った。
「1週間でもいいですから入院させてくれませんか?
その間に栄養剤かなんか点滴でもすればだいぶ良くなるんじゃないでしょうか?」

 ヤブ田の返事は冷たかったかもしれない。
「イヤアあなたね、年取ると一日でも寝たきりでいると、それだけで筋肉が細くなって痩せてしまうんですよ。3か月も寝てたら全身の筋肉が無くなってしまうのは当たり前ですよ。
これはねえ、1週間点滴したって、元に戻ることはありません。まあ、できれば、介護施設に入って少しずつリハビリするのがいいでしょうね。あとでソーシャルワーカーさんと相談しましょう」

 しかし、息子は納得しなかった。
「でもセンセイ、その前にほんの1週間だけでも入院させてもらえませんか?」
息子がなぜ1週間にこだわるのか私にはわからなかったが、もしかすると介護に疲れて温泉に行こうと思ったのかもしれない。

「そういわれてもねえ。血液検査でもほとんど異常なことはないし、ただ衰弱しているだけですからね。入院の対象にはなりにくいですね」
「そうですか、でも素人の私が言うのも変ですけど、全身衰弱というのは立派な病気じゃないんですか?動けないし、食べれないんだから」
〈なかなか屁理屈の上手い奴だ、よほど温泉に行きたいんだろう〉

 政治家や芸能人が心身の衰弱を理由に入院することはあるが、92歳の高齢者は政治家でも芸能人でもない。入院させるわけにはいかないのだ。

 さっそくソーシャルワーカーさんに診察室に来てもらった。
四人で相談の結果、私が意見書を書いて、介護認定の申請をすることになった。
ソーシャルワーカーさんに先導されて二人は診察室を出て行ったが、ヤブ田はなんとなく後味の悪い思いだった。
〈なんとかしてやりたかったけど、病院はホテルじゃないからね。そこをわかってほしいなあ〉