音楽による連作試行
小説を書きたいと思った時期もあったが、さすがにそれは難しかった。執筆をするには、気が散ってはいけないわけで、執筆をするとどうしても気が散るのは分かっていたからだ。小説を読むのでもお気に入りの音楽を聴かないと読めないほどの集中力のなさを自分で感じていたので、小説を書くなど、夢のまた夢だと思っていた。
中学の炉、一度書いてみたいと思って、原稿用紙を買ってきて、まわりから固めてみたことがあったが、それがそもそも無理だったのだ。
小学生の頃の作文も、いつも時間内に考えがまとまらず、完成させたことがなかった。それをどうしてなのかと思い返すと、やはりそこは集中力のなさが一番の理由だったりする。
最初は、
「作文を書くにはどこから書き始めればいいのか?」
というところで行き詰まってしまう。
これは絵を描くのと感覚は見ている。どこから描き始めるかということが定まらないと、絵画などのバランスを重要とする作品には自分は向かないと思えてくる。
絵画のように、筆を落とす部分が、
「描き始め」
ということになるのだろうが、小説などの場合は、表現しようとしているものの場面をどこからにするかという、
「表現元の世界の問題」
ということになるだろう。
絵画の場合は、筆を落とす部分が、バランスや遠近感という、
「絵画の三原則」
とでもいえばいいのあ、重要な部分に繋がっていく。
しかし小説の場合は、最初に書きだす場所を考えてからは、そこから繋がる三原則のようなものはないような気がする。そういう意味では書き出しさえうまくいけば、それ以降は、ステップアップ後の発想になると言えるだろう。そうなると、逆に書き出しがより重要ということで、これがうまくいけば、書き続けることはさほど難しくないように思えてきた。
そこまで感じているのに、
「小説を書くなどできるはずはない」
と思っている。
ただ、最近は、
「今なら小説も書けるかも知れない」
と思っている。
そのヒントを与えてくれたのは、音楽へのジャンルごとの発想であり、それを感じさせるに至った宇月さんの存在ではないだろうか。
「もし、小説を書けるようになったら、宇月さんとの結婚も真剣に考えてみようかな?」
と思うようになっていた。
小説を書く時も、本を読む時と同じように何かの音楽を聴くようになるという感じがある。何を聴くかは、書いているジャンルに左右されることはない、左右されるとすれば、その時の自分の感情であろう。
しかも、その感情と音楽性が一致しているというわけではない、楽しい時に、静かな曲を聴いたり、悲しい時に賑やかな曲を聴いたりと、あくまでも精神状態と一致していないことになるのだろうと、根拠もなく感じるのだった。
川島は音楽を聴く時、
「どんどん細分化していきそうな気がする」
と考えていた。
細分化という発想は、その時の感情と、聴きたい曲とが必ずしも一緒ではないという発想から来ている。
それを川島は、
「まるで組曲のようだ」
と感じる。
今の音楽で知っている中での細分化としては、組曲が一番合っているような気がする。一つの楽曲の中でたくさんの物語を幻想的に表現するのが組曲だということになると、組曲はその長さに関係なく、一番細分化された部分だと言えるのではないだろうか。
組曲というのは、物語のアクセントでもあり、感情の細分化でもある。そう思うと、組曲を持っている、クラシックやプログレなどはそれを継承しているといえよう、
音楽というものはすべてのジャンルに共通している考え方があるような気がする。それは。
「どんな音楽を奏でようとも、その奏でる形にするために、高度な演奏技術を追求しているところにある」
ということであろう。
川島が今までに知り合った女性の中で覚えている人は確かに少ないが、実際にはもっとたくさんいたような気がする。それぞれに細分化された印象で覚えている形なので、表に出すことは難しいのだろう。
今回の小説でいくつかの音楽のジャンルを出したが、実際にはもっとたくさんのジャンルが存在する。しかし、その中でこれだけのものを選択したのは、作者の感じたジャンルという意味もあるが、作者が小説として描きたいジャンルだということも言えるだろう。
ジャンルに寄る結び付け、そして、ジャンルが噤む音楽の関連性、そう思うと、作者としては今までにあまり書いてこなかった。
「連作短編の、一作品化」
というイメージは成功だったのかどうか、気になるところである。
この後、果たして宇月さんはめでたく川島と結婚することができたのか、組曲という発想をいかに考えるかで変わってきたするような気がする・
ちなみに作者が好きな音楽のジャンルというのは、クラシック、プログレッシブロックの二つであることを、この機会に書き出しておくことにしよう。次回、
「連作短編の一本化」
に挑戦することがあれば、その時は乞うご期待ということになる。
それでは、読者諸君、お楽しみに……。
( 完 )
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