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続編執筆の意義

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 編集者にとってのプロットは、あくまでも設計図というだけでm決まったフォーマットなんか存在しない。どんな形であれ、表現されていればそれでいいのだ。
 続編を書くことになったきっかけは、坂崎が書きたいと思ったわけではない。編集者からの提案だった。
「このお話、結構人気なので、続編をお書きになりませんか?」
 と言われた。
 その話を聞いた時、正直ビックリしたのだが、編集者が続編の話を持ち出してくるとは思わなかったからだ。彼自身も、この作品は一話完結だと思っていると感じたからで、その理由としては、
「前の作品で、プロットが完璧すぎたから」
 というのが理由だと思っていた。
 それなのに、続編というのは何かの矛盾があったので、
「続編というのはどういうことでしょう? この登場人物で再度、その後を書いてみるということですか? それとも登場人物云々ではなく、ストーリー性の続編という意味ですか?」
 と聞くと、
「なかなか鋭いところをついてきますね。僕は後者だと思っています。同じ登場人物がもしいるとしても、それは一人限定ではないかと思っています。しかも、主人公クラスの人は出さないという条件での続編ではないかと思うんですよ」
 と編集者がいうと、
「私は続編という言葉に何か違和感を覚えるんですけど」
「そうでしょうね、先生ならそういうと思っていました。これは別に読者の声でも、出版社の意向でも、ましてや僕の個人的な意見ではないんです。どちらかというと先生が書いてみたいのではないかと思ってお話させてもらったんですよ。ひょっとすると、先生は今はまだピンと来ていないかも知れません。意識していないと思っているということでしょうか。でも、僕がこうやってお話させてもらってから、先生はゆっくり考えると思うんですよ。その時、ひょっとすると、前から考えていたことだったんじゃないかって思ってくれると、提案した僕の編集者冥利に尽きるというものですね」
 というではないか。
「ちょっと考えてみます」
「そうしてください。いいお返事を頂けることを待っています」
 と言って、その日は編集者と別れ、いつもの一人の時間を過ごしていると、さっきの編集者の言葉が頭に浮かんできた。
 坂崎は、編集者と話をしたことは、その日の話が終わると、一度リセットするようにしている。一応はメモに取っておくのだが、それは坂崎自身が、
「自分は忘れっぽい」
 と思っていたからだったが、実際にはそうではない。
 忘れっぽいのではなく、頭の中でリセットしようとするからだ。本当に必要なことであれば、時間が経ってからでも頭には残っていて、思い出したその時には無意識に自分の中で考えが先に進んでいて、すでに答えが出ていることもある。編集者の彼はそのことをしっかりと分かっていて、坂崎という作家の気持ちをうまく引き出したり、時には彼を激しく刺激したりもする。決して悪い方には向かわせないというタイプであった。
 坂崎は、編集者の言っていた通り、続編を書きたいという思いは前から抱いていたのだが、それは決して、
「前の話の続き」
 というわけではなく、一種の連作に近いものだった。
 連作というと、ある一定のテーマを元に、まったく違った話を書くことで、小説の世界では、
「連作短編集」
 などとして発売されていたりする。
 そのテーマはまったく同じというわけではなく、例えば、季節や時期をテーマと考えれば、一月から十二月までをテーマに書いてみたり、それぞれの街をテーマにしたい場合は、どこかの鉄道の駅ごとにテーマを考えてみたりする話である。
 連作という一つの大きなテーマが決まっていれば、ジャンルが同じである必要はない。一月がホラーであれば、二月は恋愛。三月はホームコメディ、四月はミステリーと言った、まったく違うテーマでも構わないのだ、しかも、登場人物は同じであっても、別であっても構わない。ただ同じにする場合は、それなりの制約が絡んでくるかも知れないということは、きっと書いていて感じることであろう。
 だが、坂崎は今回のこの小説の続編を、本当に連作という形で書こうと思っているのだろうか。連作にするとすれば、それこそかなりの制約がありそうな気がする。それを書きながら感じていて、それで間に合うというのか、辻褄を合わせるというところで、連作や続編というのは難しいのだ。
 一応編集者には、
「考えてみます」
 と答えておいたが、編集者はどのように感じてくれたでろうか。
 今回のこの話にしても、売れたとはいえ、物議を醸していた。
 一番大きな批判は、
「そもそも、この小説のジャンルは何であるか?」
 というものであった。
 ミステリーというのは分かってはいるが、悪らかに本格的な話ではない。謎解きであったり、トリックなどが明確になっているわけでもない。どちらかというと、変格的な小説と言えるのではないだろうか。
 かつて、大正末期から昭和初期にかけて言われていた、
「本格探偵小説論争」
 とでもいうべきか、本格派に対しての、猟奇的な陰湿な殺人を描いた小説、そこに近いものがある。
 人間の奥に潜んでいる残虐性や猟奇的な感情、そんなものを描き出した今回の作品は、まさしく謎解きやトリックを重視した本格探偵小説に相対する、
「変格的探偵小説」
 というジャンルだと言えるのではないだろうか。
 探偵小説において、猟奇てな部分、残虐性というものが、ホラーやオカルトと一緒になり、新しいジャンルを築いているとすれば、今回の作品はまさにそんな変格探偵小説からの流れを汲んでいると言ってもいいのではないだろうか。
 そんな話の続編ということになると、どのような発想にすればいいのか難しいところである。妄想という言葉が一番ピッタリくるこのようなジャンルに、続編が制限を受けるのは、話をあまり拡大できないという制限があるからではないかと、坂崎は考えていた。
 変格小説というのは、本格小説が、
「浅く広く」
 という趣旨であるとすれば、
「深く狭く」
 をテーマに考えるべき作品だと言えると思う。
 そんな作品を広げてしまうと、まったく別の作品になってしまい、主旨を見逃してしまいそうになってくるのだ。
 そう考えると、続編という謂い方ではなく、この作品の中に含まれている、大きなテーマではなく、見え隠れしている一種の、
「影のテーマ」
 ともいうべき主旨を、受け継ぐ形の作品にすることが問題ではないかと思うのだった。
 その影というのは、
「一度読んだくらいでは分からないもの」
 というものではないかと思っている。
 つまりは、
「最初の作品で、一度読んだだけでは分からなかったことが、二度三度と読むうちに分かってくる」
 というもので、
「そのためには何度でも読み直してみたくなるという作品でなければいけない」
 という作品であろう。
作品名:続編執筆の意義 作家名:森本晃次