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カップ

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泣いている。
キミが泣いている。
にゃぁ~と啼かずに 声を抑えて泣いている。

ボクは キミの横に屈んだ。
「ごめんなさい。落としちゃった。割れちゃった。買ってもらったのに。ごめんなさい」
ボクの口から軽々しい「大丈夫」という言葉は出なかった。キミにとって 大丈夫じゃない事だということは このコーヒーカップを使う時のキミをよく知っているから出せない。
でも、涙を止めてあげるには 抱きしめる、とも違うな。こういう状況に弱いボクを思い知った。

「珈琲のいい香りが飛んでいく前に 飲まないか?」
「・・・にゃぁ?」
「あの箱 気になっているんだけど 開けちゃおうかなぁ」
「・・・にゃめ。 ううん うん」
「続きはボクがするから キミは用意してください」
ボクのコーヒーカップをキミが見た。
「仕方ないなぁ。ボクのカップが使いたいからって… お!カップがキミに使って欲しそうだ」
「にゃぁ?」
キミの笑顔が戻った。ボクは、手早くカップの破片を片付けると キミが用意してくれた焼き菓子と珈琲の入ったカップの所に座った。
ボクのカップがキミの前に置かれ、ボクは、何度落としても壊れないしぶといマグカップに珈琲を用意してもらった。
「いただきます」
その甘ったるさが 今は美味しい。
キミを楽しませようと「あぁ~ん」と口を開けてみたが むなしく撃沈。いつもよりも 恥ずかしさが倍増してしまった。そんなにもキミの気持ちを重たくしてしまったんだね。
ボクが 片付けると勢い込んでカップをシンクに運んで ボクが奇怪な声を出すことになるとは…。
同じカップなのに その割れる音たるやなんとも美しくない派手な音がして キミが使ってくれたコーヒーカップが割れた。原因は しぶといマグカップが落下したのだ。

ボクとキミのように 一緒に並んでいた2ピースのコーヒーカップ。淋しさに耐えられなくなってしまったのかな? せめて同じ紙に包んでゴミ袋に入れてあげよう。
ボクとキミの憩いの時間を作ってくれたコーヒーカップたち。今度はキミに選んでもらおう。きっと面白いコーヒーカップに出会えそうな気がする。キミの笑顔とお菓子に似合うコーヒーカップ。キミの想いも優しさも包んで割れたカップをそっと床に置いた。
ただそれだけなのに……。



     ― 了 ―
作品名:カップ 作家名:甜茶