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カップ

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リビング兼仕事場に陽射しが入り込んでは 翳りが寄せる。
万年筆を持つボクの手が止まったまま、背中の向こうの空気が気になる。同じ部屋なのに 香り交じりの安らぎの空気が ボクに押し寄せてくる。今すぐ 振り返ってその香りの元へと駆け寄っていきたい衝動と葛藤するボクが居る。

その始まりは、昼の食事も摂らず お気に入りの万年筆が気持ちのままに動いていた頃のこと、ピンポォーンと滅多にならないチャイムが鳴ったのだ。
ボクは、「ん?」と一瞬にして頭の隅に押しやってだらけていた記憶を起こして 荷物でも
頼んだかなぁ? それとも郵便か? はたまた近所の人が何か言いに来たのか?と考えていたが、ボクの足は床を捉え 椅子からボクの腰を持ち上げていた。
「はぁーい、今出まーす」
この言葉もずっと変わらないな。「待ってください」と言うよりも『急いで出ますよ』って思わせて多少の待ち時間は許してもらえそうな感じじゃないかな…なんてね。

相変わらずドアスコープは霞んで役にたたないが、鍵を外し、扉を開けた。
「あれ?」
キミが 白い小箱を持って立っていた。 
いつもなら ボクの仕事の手を止めないようにお揃いの鍵で部屋の扉をそぉっと開けて入ってくるのに どうしたのかな。
「にゃほ」と 猫口の笑顔が視界に飛び込んできた。
ホッとしたボクは いつものキミを腕に引き寄せた。キミの頬がひんやりと感じられた。
「どうぞ。も少し書いちゃうから あったかごっこは待ってて」

ボクは、チャイムを押した理由など訊かない。だってキミなのだから、ありだ。

ブーツを脱ぐにも小箱を抱えて もそもそっとした動きが 可愛いじゃないか。
そして、リビングへとキミを招くと ボクは机に向かったのだ。

もう直接キミを見なくても キミの様子が見ているようにわかる。かつてキミが入り込んだクローゼットから持ち出したハンガーに いつものようにコートをかけ、いつもの場所にちょこんと 座っ……。 そっかぁ、今日はちょこんとしないで キッチンへと足音が離れていった。

作品名:カップ 作家名:甜茶