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やる気のない鎌倉探偵

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 彼女の依頼を誰が引き受けるものかと思っていると、自分が探偵になった時のことを思い出すようだった。
 あの時も確か、自分が嵌められそうになったのではなかったか。それを思い出していると、もう、誰からも騙されるのだけは避けなければならないと思った。
 今度騙されることになると、将来において、自分が探偵としてやっていく自信がなくなってくるだろう。
 だが、彼女の依頼を無碍に断ることも、今の鎌倉にはできないというジレンマがあった。かといって引き受けるわけにはいかない。
「そうですか。やはりお引き受けしていただけないんですね?」
 と彼女は、鎌倉の返事を待つこともなく返事をして、そのまま立ち去ろうとした。
「どうして、私の返事が分かったんですか?」
「私は、これまでにも何人かの探偵さんのところに行って依頼したことがあったんですのよ。その時に、同じように、そう、今の鎌倉さんとまったく同じような態度を取られた方がおられたんですよ」
「それは誰だったんですか?」
「それは、坂下さんという探偵さんで、その人がちょうどその時奥さんと離婚の調停中だったということを、他の誰かに聞いたような気がします。確か、足立さんという方でしかでしょうか?」
 と言われて鎌倉氏はビックリした。
 坂下というのは、自分がかつて書いた、ちょうどさっき思い出していた離婚をした男性の生である、足立というのは、その中に出てくる離婚調停員の名前であった。
 しかし、面白いものである。鎌倉が自部の小説のことを思い出すことがあっても、登場人物の名前まで思い出すことはなかったような気がした。
「あっ、そういえば、楓さんとおっしゃいましたね?」
 と何かを思い出した鎌倉氏が、
「確か、旧姓は、掛橋さんでは?」
 と聞くと、
「ええ、そうです。今は結婚して高橋です」
 というではないか。
――棚橋楓、この名前は、自分の小説で、旦那に最後通常を渡し、離婚していったあのオンナ、その人ではなかったか――
 なぜ、彼女が架空の世界から現実世界に出てきたのか、そして、自分に何を言いに来たのか、よく分からなかった。しかし、
「今まで感じていたフィクションとノンフィクションの考えが、微妙に入り混じって、今までとは違い考えを生み出し、事実と真実という考えをジレンマとして引き起こしてしまったのではないか」
 と思うのだった……。
 本屋で一つの本を一緒に取ったあの時、あれは本当に偶然だったのだろうか? とにかくやる気を一切失ってしまった鎌倉氏であった。

                  (  完  )



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作品名:やる気のない鎌倉探偵 作家名:森本晃次