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やる気のない鎌倉探偵

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 もし板とすれば、どこぞの誰かに産ませた……ということになるのだろうが、そうなると、もう支離滅裂、金田一耕助のイメージは地に落ちてしまう。正直、後からいくら架空の登場人物だとはいえ、原作者の死亡をいいことに、適当な話を作るのは、金田一耕助ファンに対しても、作者に対しても、冒涜であると、記しておこう。架空の話なら、自分の中の架空で済ませてほしいものである。
 脱線はさておき、金田一耕助という探偵は実に人間らしいところが随所にみられる。
 ヒューマニズムに満ちたところもそうであるが、彼は躁鬱症でもあった。きっと作者がそうだったからだろうが、金田一も明智小五郎と同じように、自分の気に入った事件を扱うことが多い。そのため、事件の最中は何度も興奮を隠せず、そのため癖であるもじゃもじゃな髪の毛を掻きまわすというシーンがよくテレビには出てくるが、それほど入り込みやすい性格であった。
 ちなみに、前述の明智小五郎も髪はボサボサであったということをこの場を借りて書いておこう。
 事件に深入りするがために、彼は事件が解決に向かい、警察だけで解決できるとなると、すぐに事件から手を引き、そこから先は鬱状態になって、フラリと旅に出るという設定もあった。
 ひょっとすると、これは時々自分の作品に嫌悪感を持ち、ふらりと旅に出てしまう江戸川乱歩氏を、編集者という目で見ていたことで思いつぃたキャラクターなのかも知れない。
 金田一耕助には何人かのモデルがいると言われているが、実はその中には明智小五郎も含まれている。まったく別のキャラクターに見えるが、類似点は少なくないのだった。
 金田一耕助と明智小五郎は類似点もいくつかあるが、相違点も少なくはない。それらを探しながら作品を読んでいると実に楽しい。何しろ生みの親が違っているのだから、おのずと巻き込まれる事件の性質も違っている。登場人物の運命は、作者の手の中にあるというわけだ。
 諸君は、他にもいろいろな探偵をご存じだとは思うが、金田一耕助と明智小五郎に限っていえば、どちらがご所望であろうか。これは、自分が何かの事件に巻き込まれたとして、どちらの探偵なら安心できるかという直接的な話でもあり、物語として読むとすればどちらが好みかという間接的な話でもある。この二つは両極端であるが、中を取るのであれば、どちらの探偵と友達になりたいかということも含まれている。門倉刑事と金倉探偵のように、刑事と探偵という関係で最初から出会うのも一つであろうが、一小説の読者として、あるいは、事件に巻き込まれた場合などによるもの、考え方は人それぞれである。
 一般的に考えるなら、見ていて楽しいのは金田一耕助の方であろうが、自分が事件に巻き込まれて直接依頼するのであれば、明智小五郎ということになるであろう。
 探偵小説というのは、いろいろな種類がある。殺害方法も違えば、動機も違う。それによって見方も違ってくるが、そもそも殺人事件を主に扱っている探偵に、探し物を頼んでみたり、浮気調査をお願いするというのも、どこか間が抜けている気がする。
 しかし、最近のテレビドラマでは平和というか、殺人を中心としない探偵もたくさん出てくる。
「○○探偵」
 などと呼ばれるものが登場し、民間の争乱ごとを解決するなどと言われている。
 ちなみに、このお話はあくまでもフィクションであるので許されるのだろうが、本来の意味での探偵は、推理を中心にした捜査を行うことはない。ましてや警察から依頼を受けたり、警察の捜査に介入することもないので、あしからず……。
 ただ、それを許されるとしての物語を進めていこう、今の説明であれば、このまま何も起こらずに物語が終わってしまい、それでは何ら面白くないからである。
 要するに筆者が何を言いたいのかというと、フィクションとはいえ、ここに一人の探偵が登場し、いつも颯爽と事件を解決していく人がいる。そしてその探偵には、一人の助手がついている。助手というよりも相棒と言った方がいいかも知れない。警察関係者として探偵と昵懇の間柄で、いつも協力し合って事件を解決に導いているのだった。
 この二人は、前述もしていたが、探偵は鎌倉氏といい、相棒の刑事の方は門倉という。筆者の作品を拝読された方には馴染みのお名前であることであろう。
 最近、鎌倉探偵は事件から少し遠ざかっていた。時々殺人事件以外の事件を扱い、何とか生活していたが、これだけの時間があるのだから、旅行に出かけるのもいいかと思っていたくらいだった。
 依頼を受けていた浮気調査もうまく片が付いた。証拠はしっかり握って、それを封筒に入れて渡せばこちらからの仕事は終わりである。
 相手から支払われた依頼料は、成功報酬としては妥当な金額だっただろう。依頼主からすれば、本当は高いと思っていたかも知れないが、これから一生のことを考えると、ここでキチっとけりをつけておかなればいけないと思っていた。
 それは正解だと鎌倉探偵も思った。しかし、あくまでも相手の依頼されたことをこなすだけの機械的な仕事、いわゆる作業と言ってもいいだろう。
「まあ、危険なこともないし、人を尾行して写真を撮るだけでお金になるんだから、文句も言えないか」
 と、そう思っていたのだ。
 普段の殺人事件での操作を一緒に行っている門倉刑事には、そんな民間探偵の事情がどこまで分かっているのか、聞いてみたいものだった。
 探偵として浮気調査が終わると、少しの間、依頼が来る様子もなかった。開店休業を余儀なくされるくらいなら、どこかに旅行に行くというのも気分転換になっていいのではないかと思い、本屋に出かけ、旅行雑誌を物色してみた。ネットで調べてもいいのだが、事務所にずっといるというのも嫌だった。
 事務所からちょうど歩いて十分くらいのところのビルに、大きな本屋があったので、そこに昼食がてらに出かけてみることにした。
 最近は本もネットで購入する時代になかったからなのか、大きな本屋が都会からだいぶ消えて行っているようだ。事務所から三十分以内の移動距離の場所に、最高で四軒の本屋があったのに、今では一軒だけになってしまった。本を買う人が減ってきたことで致し方のないことなのだろうが、これを時代の流れと表現するのであれば、寂しいとしか言いようがない。
 本当は行きつけの店は事務所からは近いのだが、せっかくだから、本を購入してからいきつけの店に行くことにして、ゆっくり料理ができるまで本を読みながら待っているというのも一つの手だと思っていた。
 ちょうど、読みたい文庫本も読んでしまったので、ちょうど何か物色しに行こうと思っていたところだったのだ。
 まずは、文庫本のコーナーに足を踏み入れたが、相変わらず溜息しか出ないのを感じた。
 鎌倉探偵が子供の頃の本屋とは、まったく違っていた。あの頃の本屋は、一人の作家の本が本棚にいくつも置かれていて、一段すべて、いや二段目までもがその作家の本でいっぱいになっているなど当たり前だった。作家ごとに背表紙の色が違うのが文庫本の特徴なので、真っ赤な背表紙の作家の本が、ずらっと並んでいて、爽快に思えるほどだった。
作品名:やる気のない鎌倉探偵 作家名:森本晃次