かまれた話(おしゃべりさんのひとり言 その81)
かまれた話
ギャン!
一瞬にしてかみ付かれた。
人差し指、中指、薬指辺りに、切り傷が出来て血が流れた。
「バカ! 何してんだ!」
(頭撫でようとしただけ・・・)
「エサ食べてるとこに手出したらダメだろ!」
(なんっでダメなの? 知らなかったよ・・・)
「早く家に帰れ! 狂犬病になる!」
(血が出てる。お母さんに叱られる・・・)
こんな感じで大慌ての現場。結局、親に泣き付いたかどうかよく覚えてないけど、自宅の庭の水道で血を洗い流した記憶がある。まだ幼児の頃の思い出だ。
またある時は、
「痛ったぁ!」(なんだ!? 今の。アイツかんできやがった)
水面が波立ち、相手の様子がよく見えない。
するとまた、ものすごいスピードで泳ぎ、足に喰らい付いて来た。
「やばい!」
飛び跳ねるようにしてその攻撃を交わしたものの、次もまた来るかもしれない。
(あ、そこにいる。こっちの様子を伺ってやがる)
ザブンザブンと水面を飛び跳ねて逃げたけど、その魚は追っかけてくる。
すねの他にふくらはぎもかみちぎられ、水中に血が噴き出す。
必死で、陸に向かって走った。
どれくらい奴が追いかけて来たかは、確認する余裕なんかなかった。
皆さんは、かまれたことありますか?
僕の他愛のない思い出に付き合ってください。
では、何にかまれた?
場合に寄っちゃ、蛇とか蚊とか、奥さんとか(笑)、人それぞれだと思うんですけど、僕は真っ先に思い出すのは、やっぱり犬ですね。何度もかまれてるから、一番に思い浮かんじゃいます。
でも動物にかまれて、それがトラウマになるってことはあると思うけど、僕にとって何より嫌な思い出として残ってるのは、人間にかまれたこと。それは憎しみや、負の感情の表れ以外の何物でもない。
僕がかまれたのは、子供の頃、ケンカ相手がやたらかむ子だった時。腕をかんできて歯形が残る。皮が剥けることもあった。僕は人をかむという行為は、大変なことだって認識していたから、ケンカしてかんだことなんか、なかったけどね。
それくらい幼い頃のことは、今となってはどうでもいいけど、かむって攻撃は、それほど有効な手段だろうか? 手や足を使えない動物だったらそれしかないから、攻撃本能としてかむのかな?
大人がかみ合ってケンカしたら、ゾンビ映画みたいになるだろうな。
好きな異性と興奮状態でかみ合うなんてこと、僕はしなかったけど、そんないい?経験のある方は、ぜひ話を聞かせてほしい。(笑)
でも僕は、大人になってからもかまれたことがあるんだ。相手は子供だよ。
ある大きなイベント会場で大勢が集まって、新開発の製品やサービスを紹介する見本市みたいなのがあった。当時の僕は工業製品のデザインもしてたんで、その製品が紹介されているブースのお手伝いに行ったんだ。
見物客を呼び止める作戦として、家族連れの子供に声をかけるべく、つまりその家族を足止めするために、僕はバルーンアートを練習して来ていた。長い風船でタコさんやプードル、お花やミツバチなんかを子供に作ってやっている間に、スタッフが親に営業をかける。それがなかなか好評で、風船待ちの行列が出来るほどだった。
その子供の中に、性格のひん曲がった3~4歳の子がいて、他の子が持ってる風船を奪って集めてる。その親はそのことに気付いているのかどうか。他の親がその聞き分けのない子に声をかけたりしてたけど、全く効果がなく奪った風船を離さない。現場は困惑した雰囲気。仕方ないので、僕は急ピッチで風船を作って、奪われた子たちに追加で渡すと、それまで奪おうとする悪ガキ。コイツ・・・さすがに放っておけない。
「ダメでしょ、ボク。もういっぱい持ってるじゃない」
そう言ってやめさせようとしたら、僕の手に持ってる風船も奪おうとする。
(もう、そんな簡単に渡すかい!)
ギュって握ってたら、そのガキ、僕の手の甲をかんできたんだ。思いっきりかんでる。
(コイツ、どうしてやろうかな?)
こんな子供がかんでも、野生動物にかまれるよりは全然平気。
無理やりにでも引っぺがしてやりたいけど、さすがにそういうわけにもいかない。
親がすぐそこにいたら、その親を呼ぶけど、今商談中の様子。周囲の大人がやめさせようと言い聞かせてくれたけど、黙ってかみ続けてる。(普段からこんな性格なのか?)って心配にもなった。
「いいですイイです。大丈夫です」
僕は周囲にそう言いながら、そのガキの耳元で、
「子供がかんでも大人は痛くないよ。その代わり、もっと痛い仕返ししてやるからな」
そう言った途端に、口を離して泣き出した。そのガキはすべての風船を投げ捨てて、親の元に。僕は風船を3個ほど掴んで、追っかけて、
「すみませ~ん。機嫌損ねちゃったみたいで~」
親に風船を渡して、ペコペコしといたんだ。
その後、風船ブースに戻ると、他の親たちのやけた眼差しを浴びることとなった。
でもなんか人にかまれるのって、嫌な気がして、心の底に重た~く残ってる。
それに比べたら、犬にかまれるなんて、楽しい思い出だよ。
作品名:かまれた話(おしゃべりさんのひとり言 その81) 作家名:亨利(ヘンリー)