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端数報告6

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それをいちいち撮っては見せて「バカバカしい」と書いていってもつまらんだけだからやめておくが、この【残されたカネ】の話はセーチョーの本家『小説』や『黒い霧』には出てこないし、オーケンが読んだ遠藤誠の本の中にも出てこない。【単独じゃない】というのもそうだ。これは前からありはするけど平沢が生きてた頃にはあまり人が言うことのなかった与太で、平成の1990年代に佐伯省という人間が本に書いて出したことで一部に広まった。これが凄い本なので読んだ人間みんなが言い立てるようになり、金井貴一もその影響を強く受けてんじゃないかという気がおれにはするんだけれど、ちょっとどうなのかわからない。
 
画像:疑惑α残されたカネと苦しんだ話
 
まあこの本については後で。とにかくさっきのテレビの画から見ても、平沢が檻に入って32年の1980年にはあまり言われなかった話と思える。事件の日に現場に入った刑事らにはそれがひとりで持って行けるものでないのが瞭然のはずで、首を捻って「どういうことを意味するのか」とか「あわてて手近なものだけをひっ掴んで逃げたのだろう」なんて言うのはひとりもなかっただろうと思うよ。
 
てなところでとりあえずはアフラック。次はもちろん同じ本の次の段落。
 
 
 
   *
 
 
 
――と、さてここからがまた付け足し。例のNHKの番組だが、まあやっぱりおれが思ったほぼそのまんまと言っていいようなシロモノだった。
 
内容はひとつ残らず嘘――と言うかまあ、狂人セーチョーの妄想という意味では真実の物語であるかもしれぬが、何しろおれもまだ一度見ただけだし、きのうの今日でその90分間に180か360も繰り出される虚偽のすべてを今ここに列挙するなんてことはとてもできない。お決まりの話の羅列でもあり、やったところで退屈だろう。なんのために最初から順序立てて書き直しをしてるのかわからなくなるという話でもある。
 
だからこの番組については今後ゆっくり時間をかけてイカサマを暴いていくことにして(NHKが嘘を盛ってる部分ももちろんゴマンとある)、セーチョーの〈知られざる闘い〉について前回書き足りなかった点を補うことで今はお茶を濁させてください。
 
画像:NHK未解決事件帝銀事件と松本清張下山事件 
未解決事件 松本清張と帝銀事件 ディレクターズカット 
 
それに何よりこの番組、これこの通り〈下山事件〉も出てくるしね。セーチョーをもう無理矢理頑張ってカッコよく描こうとしてるのがわかるだろうけど、言わせてもらうと大沢たかお演じるセーチョーがここで首から提げているカメラは『黒い霧』が書かれたときには存在してない。これは〈ニコンFフォトミック〉というカメラなんだがおれが昔にニコンを買ってもらった本によるといくつかあるそのカメラのうち最初の型をニコンが出すのは『黒い霧』雑誌連載の2年後だ。
 
画像:ニコンのカメラ
 
なんていうのはほんとに退屈でしょうが、とにかく下山事件である。これについては補足をしても順序を崩すことにはならんからその話だけ。
 
てわけでまず、佐藤一・著『松本清張の陰謀』って本を結局図書館で借りてきたんだが、それに書かれる下山事件の話がこうだ。もうこれだけで充分に、保阪正康が座談会で「説得力があります」と言ってた通りに説得力があるものなのがわかるんではなかろうか。
 
画像:松本清張の陰謀下山事件と朝鮮戦争
 
セーチョーの論はひどいのに、『黒い霧』の声価はいまなお高い。もうひとつ見せると、
 
画像:昭和の黒い霧
 
『昭和の黒い霧』って本。2020年に出たもんなんだが、〈下山事件〉〈帝銀事件〉〈もく星号事件〉その他のセーチョー説を礼賛し、平塚八兵衛をヘボ刑事とする本なのがこれだけで見てわかるでしょう。
 
中身は全部がクニャクニャのトリ皮、としかおれとしては言いようがない。そしてセーチョーの〈闘い〉を讃える本なのに〈謀略朝鮮戦争〉と〈なぜ『日本の黒い霧』を書いたか〉について何も触れずに済ましてるもんとも。だから『霧』の事件のすべてが韓国に北を侵略させるためにマッカーサーがアンドーナツにやらせたこと、というのがほんとのセーチョー説というのもこの本は伏せてわからなくしている。
 
そういう本としか言いようがないが、なぜそうするかはわかりますよね。明かせば令和の今の読者にセーチョーの正気が疑われる。すべての論が眉にツバつけて読まれるとわかるがゆえに隠すわけだ。『黒い霧』はどうせ今の人間に読めぬし、読める人間は〈謀略朝鮮戦争〉を読んでも「セーチョーの説は間違ってるが正しいのと同じであり、だから間違っているけど正しい」と考えることになるともわかってる。
 
自分がそうだから自分と同じに――という。だから下山も帝銀も、全部嘘なのは承知の上で【GHQの謀略】とする。事実は嘘で作り変え、塗り固めるのが正義だという考えを持って疑わぬようになり、人に対してクニャクニャのトリ皮語でしかものを話さない人間になる。
 
おれのように定食屋で〈帝銀事件の謎〉だけを最初から眉にツバをつけて読み、その後に〈謀略朝鮮戦争〉だけをアラを探してブログに書く気で読み出す者が現れるかもしれないなんて想像することもないという。それがこの本を書いたやつだし、保坂にしてもそうなのは見せたし、みんなそうなるんだから『黒い霧』の声価はいまなお高いことになる。
 
画像:日本の黒い霧謀略朝鮮戦争末尾となぜ『日本の黒い霧』を書いたか冒頭 アフェリエイト:日本の黒い霧
 
これがセーチョーの『黒い霧』だが、なんで書いて出したかは次に続く文章を読むまでもなく〈謀略朝鮮戦争〉の最後の2行が説明している。日米安保条約が続けばいずれ《第一番の滅亡の危機が日本を襲うことは間違いない》と考えてそれを防ぐためなのだ。こんなふうに、
 
画像:NHK未解決事件帝銀事件と松本清張叫ぶ清張 
未解決事件 松本清張と帝銀事件 ディレクターズカット
 
狂人にしか見えぬ男が「このままでは日本は滅びる――っ! アメリカに滅ぼされてしまうんだあ――っ!!」とわめき叫ぶのを見せられるのがNHKのドラマだった。このシーンは1950年夏、つまり6月末に朝鮮戦争が勃発した直後ということのようでそのときほんとにセーチョーはこうだったのかもしれないけど、もちろんこの番組は大沢たかお演じる男が当時に対馬海峡の向こうで起きていることを【韓国が先】と信じていた事実は伏せてドラマを作っている。だから普通に見る人は、「この人は何を興奮してるんだろう」と不思議に感じながらもすぐに忘れてしまうかもしれない。
 
これが何を描いているのかわかるおれには笑いが止まらん映像なんだけれどもね。大沢たかおも「なんでここで叫ばなくちゃいけないんですか」と訊いたが教えてもらえずに「とにかく演(や)れ」と言われて演ったんとちゃうかな。
 
――と、さて、
 
画像:昭和の黒い霧もく星号事件
 
作品名:端数報告6 作家名:島田信之