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端数報告6

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最後の〈朝鮮戦争〉まで行き着ける者がどれだけいるのか。おれが思うに『黒い霧』は、現代人がまともに読めるものではない。六〇年安保の時代のアンポンタンや、シンナー吸ってラリラリになったアンパンマン以外が読めるものではない。おそらく今の普通の人は、最初の〈下山事件〉だけはなんとか読んで何が書いてあるのやらサッパリ理解できないままに「セーチョーがこう書くのなら謀略があったんだろうな」と考えることになるかもしれない。国鉄の総裁が列車に轢かれて死んだけど他殺なのか自殺なのかというだけの話だ。
 
が、そこが限界じゃないかな。次の〈もく星号〉だけど、「もく星号事件ってなんだ? 木星に行く宇宙船の中でコンピュータが狂いでもしたのか、それともそんな名前の競走馬でもどっかへ行っちまったのか」とあなたは思われたかもしれない。
 
けど、おれに訊かないでほしい。おれにもわかんないんだもん。読んでもセーチョーの頭の中にあるだけの支離滅裂な話を読まされるだけなので、一体どんな事件があってセーチョーが何を謀略と言っているのか、その〈もく星号事件〉というのがどういう事件なのか知らない者にはわかりようがないのだ。
 
これについては半藤でさえ《ナゾの深さは理解できるけれども、具体的推理や疑惑の構図については少しく疑問を感じてしまう点がないわけでもない》と書いているのは撮って見せましたね。そんなもん、読んでわかると思いますか。
 
ねえ、わかるわけないでしょう。そして『日本の黒い霧』は、全部がそういう話なのだ。だから読めない。まったく読めない。おれの場合は書いてきたように定食屋で帝銀事件のとこだけ読んであきれて棚に戻してそれきりとなっていた。その後にブログを書き始めてから図書館で借りて最後の〈朝鮮戦争〉だけを読んで「なんだこりゃあ!」とたまげた。
 
わけだから普通と違うけど、まずまともな人間には、これを読み通すことはできないと思うね。読み通せてしまう人は朝鮮戦争に関しても、「韓国が先だったのかあっ!」と今でも思っちゃうような人。
 
ではないかなと考えます。そういうやつが結構いもするようだから世の中は怖い。わけだけれども、だからそのNHKの番組はセーチョーのそんな〈闘い〉を半藤みたいな人間が「大丈夫ですよ」と言って支えるようなもんとちゃうのか。
 
あの文を読む限りではそんな気がするがどうなんだろう。無料で試し読みできる電子書籍版の『黒い霧』から〈下山事件〉を見せるとこうだ。もうこれだけ読んだだけでおれなんかは、
 
画像:日本の黒い霧下山事件
アフェリエイト:日本の黒い霧
 
「え? ひとりで〈三越〉の店に入ってそれっきり? この人物がそんな行動を取るってことがなんでアンドーナツにわかるんだ。朝の10時に東京のド真ん中でどう人間を拉致ると言うんだ。この2点をクリアしなけりゃ〈替え玉作戦〉なんてもん立てようがないんじゃないのかよ」
 
と考える話だし、そういうことを言った人も昔に大勢いたはずと思うが、セーチョーに言っても無駄だったんだろな。見せてきたように都合の悪いポイントは全部無視して『謀略でなかったとは云えまい。つまり、謀略でなかったとは、誰も云い切れないのである』という論理を展開するのがセーチョー流なのだから。
 
まあ要するに赤旗左翼の人間達が下山総裁の自殺のせいでいろんなことがうまくいかなくなったために『あれは自殺に見せかけたアンダースンの謀殺だ』と言い出しセーチョーが賛同、無理矢理な理屈をこね上げた。それに半藤が「さすが先生! 替え玉ですよね。替え玉ですよね」とおもねって言ったというのが事の真相。警察の中にもなんか事件が起こるたんびに「またアンドーナツの仕業だ。今度こそ証拠を!」とわめくのがいるためそういうことになる……というのがおれの見るところだが、『刑事一代』はセーチョーが並べるバカげた説に「それはこうだ、これはこうだよ」と明快な答えを出してくれてる。絶版だが入手は難しくないだろうからぜひ手に入れてお読みください。
 
とにかくセーチョーがまだ生きていてインテリゲンチャがみんな「朝鮮戦争は韓国が先に」と言ってそれが通っていた頃ならともかく、今の普通の人間には『黒い霧』はとても読めぬし読んだらわけがわからないまま「まあセーチョーが言うことだから」と考えることになってしまう。それをいいことにNHKのその番組はすべてを半藤のやり方で都合よく作り変えてるんじゃないのか。セーチョーの〈闘い〉というのが「朝鮮戦争は韓国が先に」と主張するものであったことや、金日成をアイドル視していたなんていうのはすべてなかったことにして……。
 
『帝銀事件はGHQの実験だった』としたいから、セーチョーを神輿に担ぐ。その目的で、という、そういうもんじゃないのかという気がしてるんだけど、どうなんでしょう。地上波でもうやってんだったら、見た人はいます? まわりに全部本気に取って「うおお」と叫び、〈救う会〉とかに走ってる人はいますか。止めるだけ無駄だろうから、好きにやらせてあげるんですね。
 
作品名:端数報告6 作家名:島田信之