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端数報告6

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と、「かもしれんやろ」でなく「そうでないなんて絶対にない」と断定する調子で話すキャラが出てくるが、この講談社編集者も同じだ。
 
「可能性がある」と言ったら次の瞬間に、「それはそうでない可能性がまったくないということだ」としてしまう人間。可能性がゼロのことでも100パーセントにしてしまう人間。それが権力を持ち、他人のカネを使って世の中を動かしている。責任は取らない。今やからこそ、深淵から息苦しなって顔出して、口ひらく人間がおるかもしれんやろ。〈しれんやろ〉ということは、おるに決まってるちゅーことや。見つけられんならお前は給料泥棒や、と。
 
そんなことを簡単に言う。うん、まあ子供が本当にひどい目に遭っているならそういうこともあるかもしれんな。でもなかったんだろ。【深淵から息苦しなって顔出して、口ひらく人間】なんていうものは。『罪の声』が売れて映画になってもひとりも出てこなかった。
 
見込み違い。期待外れ。三十何年経った今に密告者のひとりも出ない。『コールドケース』って海外ドラマの第1話に、
 
   *
 
通報者「男が、女の子を殴ってた。何度も、何度も何度も何度も」
女刑事「警察に言わなかったの?」
通報者「そのまま寝たわ。口出しすることでもないから」 
女刑事「女の子が殺されたのに? いつのこと」
通報者「1976年」
女刑事「『1976年』て言った? 27年前のことを今頃更通報するの?」
通報者「息子がいたから。クビが怖かった。癌になった今だから、言えるのは」
 
画像:コールドケース第1話 アフェリエイト:コールドケース
 
なんていうのが描かれるみたいになるほど告白する者が出てもよさそうなものでもあるのが出ない。
 
というのはつまりそんな話は、バカげてるということだ。後ろ暗い事実なんか、ないから話が漏れてこない。ないのだから漏れようがない。
 
むごい話を知りつつ黙って、気に病みながら生きてきたような人間はいない。誰かに話して少しでもラクになりたいなんて考えを持つ者はいないということ。だから講談社編集者が期待したように、《なにかが動き出す》なんていうことはなかった。
 
ということなんちゃいまっか。おれの考えはそんなとこだが、エンデンブシは『罪の声』の原作に、映画では宇崎竜童演じる曽根達也の動機を、
 
   *
 
画像:罪の声318-319ページ曽根の動機
アフェリエイト:罪の声
 
こう書いている。さっきもチグハグと言ったけれども、なんだこりゃあ。説明が説明になっておらず、ここにも書いてあるように人が聞いて腑に落ちるものになんかなってないだろ。小栗旬でなくたって、
「空疎な国を見せつけて、何か変わりましたか? 犯罪という形で社会に一矢報いて、何が残りましたか。日本はあなたの望む国になったんですか」
と問いたくなりそうなものだ。曽根さん、あなたはその目的を果たしたように言いますけれど、果たせてますか。ないですよね。あなたがひとりで果たしたつもりになってるだけなんじゃないですか。
 
そう言いたくなりそうなものだ。おれとしてはこれを読んで、
「小説を超えたリアリティと説得力を帯びている」
なんて言うやつの気が知れない。よっぽど頭が悪いか、ちょっとおかしーんじゃねーの、と言いたい。空疎すなわち頭がカラッポで何も考えてないもんだからそんなことをすぐに言っちゃうわけなんじゃねーのと言いたい。しかしエンデンブシは、これが一味の主犯格の動機と目的として成立してる気でいるわけなのか。
 
だろうな。おれはバカだと思うが、なんでこうなったのか。前におれは『罪の声』の犯人一味のメンバー構成は、『闇に消えた怪人』と『「最終報告」真犯人』から引っ張ってき人間達にひとりだけ、エンデンブシのオリジナルの曽根達也を加えたものだろうと書いた。
 
前にそう書いたけれども、あらためて考えてみるに曽根達也も、『闇に消えた怪人』からのイタダキだろうと思い直した。映画では宇崎竜童が演じた曽根達也。原作小説がモデルとするのは、
 
 
   最重要参考人M、すなわち宮崎学
 
 
だろう。そう考え直した。『闇に消えた怪人』の本には、これについて、
 
画像:闇に消えた怪人180-185ページ最重要参考人M
画像:闇に消えた怪人表紙
 
こう書かれている。〈最重要参考人・M〉というのが宮崎学なのに疑いはない。1996年にはまだ世に知られる存在ではなかったと思うが。
 
『罪の声』原作小説の曽根達也はここに書かれる〈最重要参考人・M〉そっくりだ。さっき見せたページで曽根が阿久津に言う言葉もどことなく、こっちの本に似てる気がする。「禅問答」がどうとかいうのは、ひょっとしてエンデンブシが『突破者』とかなんとかいった本から受けた印象じゃないのか。
 
アフェリエイト:宮崎学突破者
 
おれは読んでないから知らんが。宮崎学は「自分には完全なアリバイがある」と言ってるようだが『罪の声』では計画を立てたのと脅迫状を書いただけで実行役には加わってない設定だから関係ないことにできるし、原作小説の曽根達也は背が高く、吊り目ということになってさえいる。
 
曽根達也=宮崎学。エンデンブシは11月14日に滋賀県警の大野刑事が大津サービスエリアで見たのは宮崎学だと考え自分の思いつきを信じ込んでいるのかもしれない。〈その可能性がある〉ってことは、〈そうではない可能性がまったくないということなのだ〉と決めてしまって疑ってない。
 
のじゃないか。おれはバカだと思うけれども。エンデンブシが、
「時効なんか関係ない。たとえ法で裁けなくとも、真実を暴いて世にさらしてやらねば」
という考えでいるのにも疑いはなく、主犯は宮崎学だと信じ込んでいるのであれば、『罪の声』が売れて映画になったことで自分にこのページのように、
 
画像:罪の声140-141告白の手紙
アフェリエイト:罪の声
 
告白の手紙を送ってくれる人間が出るのを期待してたんじゃないかね。
「すべてあなたの本の通りです。主犯は宮崎学で、子供がひとり殺されています。証拠の品を同封します」
とか言っちゃってさ。
 
しかしそんなの、なんにもなかった。なんで? オレの考えに間違いなんてあるわけないのに、という。
 
おれはバカだと思うんだけどね。そんなところで今日はおしまい。それではまた。
 
作品名:端数報告6 作家名:島田信之