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端数報告6

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ターミネーター2022


 
グリ森事件はグリコの社長がハダカで拉致されることから始まる。映画の『ターミネーター』はハダカの男が街に現れるところから始まる。2年前の2020年初め、WHOの長官が記者団の前にハダカで現れ、
「私がいま着ている服は、バカには見えない服だ」
と言った。この愚かな物語はそうして始まる。
 
アフェリエイト:はだかの王様
 
ひとりの服の専門家は、
「あれはテーラー仕立ての英国調のスーツだ」
と言った。しかし別の専門家は、
「黒のトレンチコート」
と言う。また別の専門家は、
「『北斗の拳』に出てくる未来のワイルドな服だ」
と言い、はたまた別の専門家は、
「映画『アウトブレイク』でダスティン・ホフマンが着たウイルス防護服だ」
と言って、100人の専門家の述べることがそれぞれ違う。
 
画像:4つの服
 
100人が言うこと全部バラバラってことは、ひとりにだけ見えていて他の99人が嘘をついてるか、あるいは100人全員が嘘つきだということだ。他の解はない。論理的に有り得ぬのだが、しかしここでマスコミや、〈識者〉と呼ばれる人間達が、
 
「ワタシは服の専門家でないので専門的なことはわからない。しかし長官の服が見えるしそれが素晴らしいものなのがわかる」
 
と口々に言う。そしてもちろん、
 
アフェリエイト:池上彰共存
 
この男もそのように言って、『そうだったのか!WHO長官の服』という本を出す。そこには、
「WHO長官の服が何かについては専門家の間でも意見が分かれています。ある専門家はテーラー仕立ての英国調スーツと言い、別の専門家は黒のトレンチコートと言い、別の専門家は『北斗の拳』の服、別の専門家は『アウトブレイク』の服だと言ってさまざまですが、ワタシにも服が見えますし、それが素晴らしいものなのがわかります」
と書いてあるために、エリート志向の、
 
画像:罪の声無料試し読み本表紙
https://books.rakuten.co.jp/rk/d92550f69eaa3f7ebac188b83495e3f2/?l-id=search-c-item-img-09
 
こんな感じの大学生なんかが読んで本気にすることになる。
 
童話と同じく、愚かな大人に事実を指摘できるのは、
〈最も聡明な人間〉
だけだ。いずれ全国のあちらこちらで、子供達が大人に訊くのをおれは期待している。
「ねえ、今日学校の算数で分数を習ったんだけどさ、〈感染者数〉って〈分数の分子〉じゃないの? 分母なしには意味を持たない数字なんじゃないのかな。テレビは『今日は東京で新たに6千人を確認』と言ったけど、それは何人を検査しての数字なの? 6万人を検査して6千だから10分の1なの。6千人を検査して全員妖精だったから、東京都民全員が今ではみんな感染してる計算になるっていうことなの。まさか60万検査して6千だから100分の1というのはないよね。なんだかテレビの言うことが、ボクにはほんとは600人しか検査してないのに『6千人』と言っている。【分母を秘密にしておけば嘘がバレない】という考えで――そんなふうに聞こえるんだけど」
と言い出してその声が、広がるのを期待している。
 
それが真実であることに、疑いの余地がないからだ。しばらく新聞の妖精率の記事をここで見せなかったが、もちろん毎週図書館で撮っていた。見せよう、
 
画像:コロナ新聞記事2021年末3週間分
 
こうだが、しかしこれは去年の年末3週間分で、今年に入って、
 
画像:2022年1月カレンダー
 
このように1月2日・9日・16日と日曜が3回あったがデータは載らなくなっている。まあ2日は休刊だったんだがとにかく9日と16日の掲載はなかった。
 
どーゆーことでしょーねー。で、皆さんご存知のように今年に入ってテレビが、
「今日は千人! 2千! 3千! ああ、今度こそ! 今度という今度こそ〈波〉が! 〈波〉が来て百万、千万が死ぬに違いありません。そうに違いないのです!」
とわめき出したわけだがその「2千」とか「3千」というのはだから東京で何人検査しての数字なのか、と。
 
ここに一体何万回、おれは書いたかわかんねえよな。そりゃ分数の分子だろ、分母を言えよと。しかし言わない。テレビは決して、一日の検査人数を明かすことなく妖精の数だけ挙げる。さっき見せた記事の画で分かると思うが去年の暮には東京で週に4万2千、日に6千を検査して妖精は30人くらいだったから0.3とか0.4パー。千人あたり3か4人という数字になっていた。
 
検査件数は今でも日に6千なのか。だったら、
「今日は4000人を新たに確認」
なら6分の4。3分の2と同じだから率は66%。
「今日は4500人を新たに確認」
ならば75%。東京都民4人のうち3人が感染してる計算になるのか。なるんだったらそう言わなけりゃおかしいよな。
 
しかし言わない。テレビはただ、
「4500人ですよ! 4500人ですよ! わかりますよね、これがどういう数字なのか。そうです、今度こそ〈波〉が来るのです。何百万、何千万と人が死ぬということなのです。今度こそ、ああ今度こそ! だって4500ですから! 4500なんですからああああああ」
と言うだけだ。もちろんこれから、
「今日は7千人を確認! 今日は8千人を確認!
9千! 1万! 1万2千! 1万5千!」
となっていくに違いない。
 
東京で日に検査する数が6千なのに。だがエリートはコロナウイルスを〈スカイネット〉だと思い込んでる。嘘でも妖精を多く言えば、自我に目覚めて人類をこの地球から抹殺すべきとみなすもの、〈ターミネーター〉になるものと信じ込んでしまっている。そのとき自分はジョン・コナーになるのだから、まずは〈スペイン風邪〉を超える6千万にどうしても死んでもらわなければならぬと決めてしまって変える気がない。
 
本当はあの映画のように、30億に死んでもらいたいところなのだ。だから最初はそのように言ったが、すぐ致死率は落ちてしまった。もう今ではテレビでしゃべる誰でもが、コロナに向かって、
「どうかどうか6千万。6千万人殺してください、コロナさん。あなたは〈スカイネット〉なんでしょ。ボクをジョン・コナーにしてくれるんでしょ。だからせめて6千万。ろくせんまんにん。ろくせんまんにーんっ」
と泣きながら祈るようになっている。
 
だから本当は東京で日に30の新規確認数を、
「今日は千人! 2千人! 3千! 4千!」
と言い出した。それでコロナが自我に目覚める、嘘がバレることなんか絶対にないと思い込むゆえにだ。
 
しかしどうだろう。おれとしては、さっき書いたように『はだかの王様』の童話と同じく、そのうち子供が素朴な疑問を親にぶつけるのじゃないかと考え期待している。「今日は1万、2万、3万」とテレビが言えばそのうちに、
 
  「どこで検査しているの?
   何人を検査しているの?」
 
と。学校で分数を習ったけれど、これって分数の問題だよね。〈感染者数〉は分子だよね。分母はいくつ? いくつなの?と。誰も質問に答えられない。
 
作品名:端数報告6 作家名:島田信之