端数報告6
画像:鈴木松美何か見つけられるでしょうね
と応えて分析を始める。で、〈4月24日の声〉を機械にかけるのだが、そこで、
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ナレーション「その時」
鈴木「ちょ、ちょっと待ってください」
ナレーション「とつぜん鈴木さんは、『年齢が違うのではないか』と言い始めた」
画像:鈴木松美ちょ、ちょっと待ってください
と、急に手を振り、驚いた調子で「声が若い」と言い始める。番組を録画したものか、DVDをお持ちの方はお確かめください。うんぬんかんぬんと説明して、
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鈴木「従って、30代ではない。この場合は非常に若い」
ナレーション「さらに、ひとつひとつの言葉の発音を詳しく調べた。すると、成人のように充分発達していない部分が残っていることがわかった。3、40代とされてきた女。鈴木さんは、『10代半ばの少女だ』と鑑定した。これまで警察は、見立てに重なる複数のグループを捜査してきたが、犯人の特定に至らなかった。しかし、今回の取材で、『子供が3人いた』という犯人像が浮かびあがってきた」
画像:10代の少女と鑑定
と言う。さらにこれを元警察庁幹部というのに持っていくと、
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ナレーション「当時捜査に関わった警察庁の元幹部が取材に応じた。音声テープの鑑定結果について報告を受けていた篠原弘志さん。今回明らかになった、警察の見立てと大きく異なる犯人像。どう受け止めるのか」
篠原弘志「まあそりゃちょっと今まで、あの、あまり想定してなかった話ではあるかなあと思いますけれども。まあ、子供が複数っていうのは特にやっぱり、あのう、なかなか、あのう、あの閉鎖的な血縁関係じゃないとなかなかむつかしいんじゃないすかね。あの、そっから話が漏れてこないってのはね。まあ科学の進展に合わせて、時間が経ったらもう一度、再度、何が可能かという検証というものはやるべきかなと思ってますけども」
画像:警察庁元幹部篠原弘志
といかにも口先だけの、当たり障りのない感じなコメントを受ける。しかし妙だろう。おれが図書館で借りた『闇に消えた怪人』の本には、奥付に、
画像:闇に消えた怪人奥付 画像:闇に消えた怪人表紙
こうあるのだから、時効成立まで何年もある時期にとっくに他ならぬ鈴木松美先生によって、
【4月24日の声は10代の少女】
という鑑定が発表されていたわけである。違うとは言わせない。市橋文哉という人間が知って本に書き2ヵ月で6刷も出たほど売れたのに警察が知らなかったというのはおかしいし、2011年にNHKの取材で初めて明らかになったというのはもっと話がおかしい。
嘘がある。
ということだ。誰よりもこの、
画像:鈴木松美
警察の技官だったという学者が嘘をついている。おれが思うにこの先生、1984年に【声は30〜40代】という鑑定をしたがその後、1996年までのどこかで新しい機材を手に入れ、誰に頼まれたわけでなく個人的に昔のテープを分析にかけてみたんじゃないかな。そこで【10代の少女】という結果が出たので大きな反響を期待しながら世に発表した。
しかしたいして注目されずに終わる。熱心に聞いたのは一橋文哉などごくわずかな者だけで、本に書かれても眼を止めたのはエンデンブシくらいだった。鈴木先生は前に見せたこの本のページに、
画像:捜査員の証言310-311ページ音響分析の鈴木 アフェリエイト:捜査員300人の証言
書いてあるのが読めると思うが、事件当時は《精力的にテレビにも出演》し、〈彼ら〉の手紙に名指しで《しっかりやってや》と書かれておそらく「侮辱された」と感じている人間だ。それを今でも「よくも」と根に持ってるに違いない。
そんなところに2011年、NHKから二十数年ぶりにテープの再分析とテレビ出演の依頼。自分が既に【10代の少女】という再分析を出しているのは知らないらしい。
そこで、
「しめしめ」
と考えた。嘘をついてもバレるわけない、と思って何食わぬ顔で、
「何か見つけられるでしょうね。相当あの当時よりも細かい分析が」
と応えて別にもらわなくても自分で持っているのと同じテープを受け取り、分析にかける。そこで、
「ちょ、ちょっと待ってください」
と、慌てた顔をして手を振り、年齢が違うと言う。驚くNHK取材班。
しかしすべては芝居だった。【10代の少女】という結果が出るのはあらかじめわかっていたことなのだ。番組の放映から十年も後に気づいて証拠付きでブログに書くおれのような人間が出るとはこの学者先生、思いもよらなかったのだった。
ということだろうな、どう見ても――と、いうわけだけどまあやっぱり、エンデンブシが言うように子供の未来が奪われているなんてことはないと思うね。〈彼ら〉がいろいろ音に細工した形跡があると言うならなおさら、幼い子達は誰ひとり、自分が声の主だなんて知らずに生きてると見るのが妥当だ。
〈4月24日の声の主〉もそれが大人だろうとJKだろうと、おれの考えが正しいならば〈彼ら〉から、
「グリコのネオン看板を世界的に有名にする」
のが目的の冗談半分、と聞いて笑って協力したと見るのが妥当ということになるから、当然『罪の声』のように、
*
「あのテープのせいで一生台無しや!」
画像:映画罪の声あのテープのせいで一生台無しや!
なんてことにはなりようもなく、もちろん殺されたりもしてない。
まあ、あくまでもおれの〈プロレス説〉が正しいなら、という話だけど、
「そっから話が漏れてこないってのはね」
と元警察庁幹部の篠原弘志という人物も言ってるように、いくらなんでも子供の人生が奪われながら他所に話が漏れないなんてちょっと有り得ないんじゃないの。たとえ閉鎖的な血縁関係だったりしてもさ。
密告とかする人間が出てもよさそうなもんじゃん。『罪の声』が当たった頃に出た例の無料電子本に、講談社の編集者だろう者が、
画像:罪の声無料試し読み本
画像:罪の声無料試し読み本表紙
https://books.rakuten.co.jp/rk/d92550f69eaa3f7ebac188b83495e3f2/?l-id=search-c-item-img-09
こう書いている。
《この作品が小説を超えたリアリティと説得力を帯びているだけに、もしかすると『罪の声』をきっかけに、なにかが動きだすのでは…と思えて仕方がないのだ。》
だってさ。ウヒャヒャヒャ。子供の人生が奪われている、なんて話を本気にして、本が売れることで〈その子〉を知る人間の中に名乗り出たり警察に密告したりする者が出るのを期待したわけだろう。『罪の声』で主人公の阿久津と曽根俊也が事件を調べ出すとすぐに情報提供者が次から次に出てくるみたいに。
映画版にも、小栗旬演じる阿久津が「今更調べてもなんにも出ませんよ」と言うと、
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「アホ! 今やからこそや。35年経つ今やからこそ、深淵から息苦しなって顔出して、口ひらく人間がおるかもしれんやろ」
画像:ワインレッドのベスト男