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端数報告6

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ハンバーガーのいいイメージと悪いイメージ


 
マリア「彼らはひとつ事実を認めたらすべてを認めることになると恐れてる」
ランディ「たとえば?」
マリア「勝者にへつらったこと。ナチスの兵士に花を投げ、腕を広げて、彼らをこの国に迎え入れたのよ」
テレビの女「大変喜ばしい報告があります。クリムトの『アデーレ』は、オーストリアに留まることになりました。この国の国民全員にとっての勝利と言えるでしょう」
マリア「テレビを消して」
 
画像:映画黄金のアデーレ 名画の帰還 アフェリエイト:黄金のアデーレ名画の帰還
 
大槻ケンヂが「なんちゅう面白い本か」と言った弁護士・遠藤誠の本にも朝鮮戦争の話は出てくる。ただしこれだけ(下の画左)。これだけだけど、《アメリカ帝国主義およびその傀儡軍である南鮮軍》って、ものすごい書き方だなあ。この本が出たのは平沢が死んで2ヵ月後の1987年7月で、ソウルオリンピックも翌年に控えてるときにまだ韓国を「南鮮」と呼んでる。アメリカと中ソどちらが悪かと言えば完全に中ソが悪で破裂寸前。民主化運動も激化の一途をたどるばかりとなっていたのに何も感じてなかったのか。
 
画像:遠藤誠『帝銀事件と平沢貞通氏』池上彰著『そうだったのか!朝鮮半島』朝鮮戦争
画像:帝銀事件と平沢貞通氏表紙
アフェリエイト:池上彰そうだったのか!朝鮮半島
 
この本で1億くらい儲けられるもんと思って頭が一杯だったのかしらね。こういうのが見せておもしろい文でもあるが、これだけではなんだから池上彰の本を横に置いてみた。比較が明瞭になり、公平になったんじゃないか。
 
北朝鮮の兵士は南に攻め込めば、南の民は旗を振り迎えてくれると聞かされていた。しかしそうはならなかった。世界は前の大戦の後でまったく変わっていたのだ。
 
太平洋戦争の開戦直後はマライやフィリピンで、日本兵が日の丸の旗を振って迎えられた。オーストリアでは戦争が始まる前から人々がハーケンクロイツの旗を振ってナチを迎えた。この国が当時ドイツに併合されてた話を前に書いたけど、それは「併合されてた」のでなく「併合してもらってた」と言うのが正しい。ユダヤなんかを除く国民ほとんどが、〈ヒトラーの民〉になるのを望んでみずからナチを迎えた結果だという。
 
おれはもちろん知ってたし、金日成も知ってたろうから行けば「あなたの民にしてくれ」と南の人々が言って迎えてくれるもんと思っちゃうのもわからなくない。アメリカ人はこんなやつらという、
 
画像:サムライチャンプルー目には目を アフェリエイト:サムライチャンプルー
 
イメージがかつてはあって、ベトナム戦争が終結し日本で『ガンバの冒険』というアニメが作られる1975年頃まで広く浸透していた。
 
らしい。おれはその年に7歳なんでよくわからない。でもねえ、同時にコーラとハンバーガーの国で、野球とエルビス・プレスリーの国で、『ポパイ』と『マッハGO!GO!GO!(おれはアメリカのテレビアニメだと思っていた)』の国というイメージもあったからさ。ニュースがベトナム戦争だとか帝銀事件の平沢がとか言ってもなんだかわからない7歳の子供でもわかるよな。
 
対してソ連・中国に北朝鮮て何があるねん。中国はまあパンダにラーメンとしても、広場があって軍隊が脚を上げて行進してて、ミサイルを積んだトレーラーもズズズとしてる。それ以外のイメージがない。『サンダーバード』のジェットモグラと違ってあれはオモチャが欲しくないよね。
 
7歳のおれがそう思うよ。共産主義が来たら逃げるよ。そんな子供でもわかることが、赤旗左翼思想の人にわからない。松本清張はこの前見せた『謀略朝鮮戦争』の文で〈公平〉という言葉を使い、《(北朝鮮側の資料が公開されればもっと)公平になるだろう》とか、《(北朝鮮が国を宣伝して言うことは)公平に考えてあまり間違いはないように思える》と書く。北朝鮮が好きなので、北朝鮮を信じるのだ。
 
それに対してアメリカのものはなんでも嫌い。ハンバーガーを見てもおそらくこんな感じで、
 
画像:ハンバーガーと海原雄山 アフェリエイト:美味しんぼ
 
青酸パリダカラリーとかなんとかいったものもたくさん含まれてるに違いない、などと言ってひとりで怒る。それがセーチョーの〈公平〉だ。
 
まあハンバーガーはね。そう言われてもしょうがないとおれも思うが、遠藤誠の本に朝鮮戦争でアメリカが細菌兵器を使っただとか書いてあるのも見せたでしょう。それにはそう書いてるだけだが、これがセーチョーの『黒い霧』ではこのようになる。
 
画像:日本の黒い霧アメリカ軍は朝鮮で細菌兵器を アフェリエイト:日本の黒い霧
 
《北朝鮮と中国側の発表によると》アメリカが使ったと言って、《アメリカ側ではそれを、中国や北朝鮮の巧妙な宣伝だ》と言ってると。で、セーチョーは北朝鮮の言い分の方を《ある程度信用していいのではないかと思う》と。
 
なんで信用していいことになるかと言えば戦時中に〈七三一〉が細菌兵器を作っていてアメリカがそのデータを求めた話があるからだ、と言い出すのだが、証拠としては見せたものにあるように、蚤と細菌と入れ物の破片を撮った写真があるというだけ。
 
つまり壺のようなものに細菌を感染させた蚤を詰めて飛行機から落としてそれが割れたのだと言ってるわけだが、その破片がその辺にあった割れた陶器のかけらを撮ったものではないと言える根拠があるのか。
 
だいたい、ヒトノミの集団が発見されたってだけなのか? 事実としてもこんな子供でも、
 
画像:この世界の片隅にノミの子供 アフェリエイト:この世界の片隅に
 
そこにいたのかもしれんだろうが。戦争になってりゃよう。朝鮮戦争と言えば『あしたのジョー』の金龍飛(きんりゅうひ)だろが。金龍飛がいればヒトノミも出るだろが。
 
写真だけでは犬や猫や猪の蚤との区別もできんのじゃないのか。ペストやコレラの菌をそいつらが持ってたと言うが、「患者が出た」とは書いてねえじゃん。ならどうにでも言えるじゃん。敵の後方に細菌を撒いても結果を確かめられないことをなんで軍が作戦としてするというのか。
 
――と、そうした点を考えたらこれはアメリカの言い分に理があるとすべきじゃないかとおれは思うが皆さんはどう思いますか。
 
なんてことを佐藤一なら書くんじゃないかとおれは思う。パラパラとめくっただけなんで知らないけどね。セーチョーはそういうことにしたいからそういうことにしてるだけで、公平になんか考えてない。
 
『それは違う。21歳の男が見る映画としては、「パンダ・コパンダ」などという子供向けのアニメより実写映画の「柳川掘割物語」の方が公平に見てふさわしいのではなかろうか』
 
え? ななななな、なんだって?
 
『あのチラシの裏を見るとそのイベント上映で「パンダ・コパンダ」と「となりのトトロ」は2月24〜26日、土・日・月曜の3日間。対して「柳川掘割物語」と「セロ弾きのゴーシュ」は3月2日金曜1日限りのスケジュールとなっている。これは公平に考えて、「柳川」の方がその劇場に足を運びやすいと思える』
 
おい! どこが公平なんだ!
 
画像:チラシの裏
 
作品名:端数報告6 作家名:島田信之