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端数報告6

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「そうだよな。言い切れないよな。謀略でなかったと言い切れないってことは謀略があったと言い切れるってことだよな。だから謀略があったという、この考えそのものは文句のつけようがない。これを指して清張を「陰謀論者」と言うやつがいたらそいつはおかしいよな」
 
と自分に言い聞かせてる感じも如実に伝わってくるのがおかしい。この本はすべてのページがこんな具合で、半藤が【朝鮮戦争は韓国が先】以外は完全清張信者といった調子であるのに対し、保坂は煮え切らず言うことがゴニョゴニョ。
 
『黒い霧』は発表当時からかなり批判を受けており、近年にも佐藤一なる者の本で十二話中半分の六話を特にボコボコにされてるようだ(『松本清張の陰謀』という本で2005年発行。図書館にあったのでおれはパラパラめくってみたけど、そこで戻してしまったので「撮って見せてもおもしろくなさそうだった」としか書けない。内容がヘタにちゃんとしてると逆につまらなくなるんだよな)。その本には見せたページの『革命を売る男・伊藤律』のようにその言い分を保坂も認めるしかない論まであったりするようだが、それでも彼はセーチョーを讃え、『黒い霧』を日本人であるならば必ず読んで間違っていると思っても思っちゃいけないものであるかのように書く。これを原理主義と言い、心の弱い人間が妙ちくりんなものにしがみつくありさまを指す言葉である。
 
陰謀はなかったよりもあったとする方がいい。
 
朝鮮戦争は北の攻撃が先だったけど、南が先の方がいい。
 
そのように思う心を清張がボクに与えてくれたのだ。清張がいるから今のボクがあるのだ。清張。清張。それはせえ〜ちょお〜。というような心の叫びが、この本のありとあらゆる行間からおれに聞こえる。うひゃひゃひゃひゃ。【下山事件替玉説】。清張が唱えたこの説はいくらなんでも無理があり、佐藤一にバカにされて当然だとボクも思うがしかししかし……。
 
というようなね。ちなみにこの事件にも平塚八兵衛は関わっていて、『刑事一代』でこう言っている。おれも読んで納得で、なんでこんな単純な話にわけのわからん解釈をつける人間がいるのかてんで理解できない。
 
画像:刑事一代』下山事件
 
思想的に事件を論じる者らに論じられる事件。
 
事件を政治に利用する者らに利用される事件。
 
それが陰謀論者の事件だ。人はパンダを思想で論じ政治に利用する。中国は偉い。中国から来た動物はもっと偉い。さっきの四人の座談会本で保坂が「共産党筋から清張に情報が流れるということはあったのか」と問うと半藤が「あったようだ」と応える部分があるのも一緒に撮って見せたが、それは清張が共産主義の客寄せパンダに利用されたということでもある。共産主義の動物だからパンダは偉いのに、パンダの国で1989、天安門事件が起きた。
 
共産主義の思想に反する。裏切ったな! ボクの気持ちを裏切った。ポル・ポトと同じに裏切ったんだ! 中国政府は人民の虐殺を止めよ! 中国政府は人民の虐殺を止めよ!
 
なんてことを紙に書いて日本のスタジオジブリの窓に貼ってもしょうがなく、中国でやらなければ意味がない、か。その通りではあるけれど、今ならスマホとインターネットの時代だから誰かが撮って世界に流せば少しは、いや、どうかなあ。
 
まず第一に日本語が読めなければしょうがないよな。翻訳ができてもさ。機械に〈止(や)めよ〉と〈止(と)めよ〉の区別がつくかどうかもわからず、「とめよ」で訳すと意味が全然変わりもするでしょ。中国語と英語でも次は一緒に書いてください。
 
なんてところでまた終わりだが、しかしまだまだ話は続く。
 
作品名:端数報告6 作家名:島田信之