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端数報告6

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そして嘘が始まった。セーチョーが書いたものはマトモな頭の持ち主が読めば「イカレてる」と言うだけのものだ。だから話を作り変える。70年安保の頃にはまるで違ったものに変えられ、成田闘争なんかやるのがまたやっぱりそれを信じる。
 
1970年代。それがどんな時代と言えば、
 
画像:封印中共の核はいい核だ 封印表紙
 
たとえばこんなような時代だ。ここに《78年当時》とあるのは宮崎駿が『未来少年コナン』を作っていたのが1978年てことで、《総会》というのはたぶん一緒に撮ってみせたのにある77年に広島で開かれた世界大会のことだと思う。〈原水協〉と〈原水禁〉というふたつの組織のトップが会って「この統一大会で今年じゅうに日本国民みなの考えをひとつにまとめ」なんて話してやったはいいけど、フタを開けたら岡田斗司夫が言ってる通りの結果になってもの別れに終わったとかいう。なんでも「中共の核はいい核だ」と言うのが10万人に対してそうでないのは1万くらいで、まるでかなわなかったとか。
 
帝銀事件のGHQ陰謀論はその時代にそんな者らがこしらえ大きく育てたものだ。しかしウドの大木だ、というのが事件についてほんとのところを知ったおれの結論である。そして今も、本に書かれテレビ番組で描かれるたびに話が作り変えられていると。
 
嘘の上に嘘が塗り重ねられている。帝銀事件はGHQの陰謀ということにしなければならないのだ、そのためには嘘をついていいのだ、という考えの人間が新しく次々に生まれ、元の話を知らないままに他人の嘘に自分の嘘を上乗せしてる。そうして話が事実とますますかけ離れたものにされてる。
 
それがおれの考えだ。昭和が終わった1989年に〈ベルリンの壁〉が崩されて、中国でも〈天安門事件〉が起きた。共産主義の幻想もそれで崩壊したかに見えたが、帝銀事件のGHQ陰謀論だけは残った。
 
ネス湖にはネッシーがいてほしい。
 
そう思う人の心がネス湖にはネッシーがいてほしいと思わせる。ネッシーのいないネス湖はただの湖じゃんと言わせる。それと同じように、帝銀事件はGHQの実験であってほしいと人に思わす妙な力があるようだ。
 
だから信じられてきた。GHQの実験でない帝銀事件はただの帝銀事件じゃないかという考えで人は信じる。それはつまらないだろう。帝銀事件がGHQの実験でなかったならばつまらんじゃないか。
 
人はそういう考えを持ってしまう生き物だ。だからよく見りゃバカげてるとわかりそうな陰謀論がよく見られずに信じられたが、おれに言わせりゃ隠されてきた事実の方が、つまらんどころかもうメチャメチャにおもしろいんだけれどもなあ。断然こっちのがおもしろいって。つまらないのは陰謀論の方だって。
 
マジに思うね。こんなにおもしろい話が書けてだからうれしくてうれしくて。だからあなたも野次馬気分で続く話を読んでください。と言ったところで今日はおしまい。

作品名:端数報告6 作家名:島田信之