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出たがり男の本当の嘘

 
 
最近の映画はどうもおもしろくない。『アバター』も続編をやるそうだけど、前作だってCGがすごいばかりで話がおもしろいわけじゃなかったからな。おれは全然期待してない。J・キャメロンの映画で何が一番おもしろいかと言えば、おれとしては結局のところ、『トゥルーライズ』だ、という結論になる。
 
アフェリエイト:トゥルーライズ
 
あれはおもしろかったなあ。キャメロンが唯一肩の力を抜いて撮った作だが、肩の力を抜いてあれだ。なんでも、元はフランスのアイデアがいいだけの映画にアクションをドカドカ入れてリメイクしたらああなったそうだが、素晴らしい。映画というのはああでなきゃいけない。
 
そのちょい後に日本に来たのが『スピード』だが、これも日本のアイデアはいいが話がグダグダの映画をリメイク、アクション劇にしたものだった。日本のオリジナルは爆弾犯グループが仲間割れする展開が暗いばかりでおもしろくなく、自滅するのを見せられておしまい。しかも事件は現場でなく会議室で起きていて、主人公はこいつみたいに何やら書いて見せたりしながら、
 
   *
 
「ギン萬事件で使われた声は3つ。ひとつめは、ギンガの脅迫に使われた女の声。(略)最新の声紋鑑定で、ひとつめの声は、16歳前後であると年齢が訂正されました」
 
画像:小栗旬年齢が訂正されました アフェリエイト:罪の声映画版
 
なんてことを口で言うだけ。だからてんでつまらんものを、若い女のコがキャーキャー言いながらバスを運転し、体を張って男が救けるもんに変えた。だからおもしろいのであり、映画というのはああでなきゃいかん。
 
アフェリエイト:スピード
 
『罪の声』もグリ森事件で声を使われた子供のひとりが大人になってそれを知る、というアイデアはいいけれど、それをおもしろい話にする力のないやつが書くからあれだ。暗い。グダグダ。尻すぼみ。それを〈社会正義〉だの、なんだのいったお題目でごまかしている。
 
そんなもんは映画じゃないし小説でもない。だからやるんだったらなあ、主人公は若い女の子にして、秘密を知ったことで命を狙われる。クルマに轢かれそうになり、家は目の前で爆発し、ナイフを持った男に襲われ、さらにライフルで狙撃される。キャーキャーと悲鳴を上げて逃げてこそ、映画になるし小説になるのだ。
 
そこに男が救けに入り、2000年2月14日を〈毒のバレンタイン〉にする計画を突き止めるが、あまりのバカバカしさゆえに誰にも信じてもらえない。最後は道頓堀のグリコのネオン看板の、〈300メートルの男〉の顔の前あたりで上からなんかに吊り下げられて悪者と闘い、大阪市民がなんやなんやと見上げるという、そんな話にできんのかいな。
 
ならやんなや、と言いたい。何か間違ってますか。おれが書くならそうするし、悪役にも読者が納得できる理由をちゃんとつける。でないと話がグダグダで、尻すぼみで終わるのがおれはわかってる人間だからね。
 
理由がつけられないなら書かない。だから間違っても、
「日本国民に空疎な社会を見せつけたい」
を動機とし、
「株価操作で儲ける」
を目的としながら、
「カネがほしいわけではない」
なんてチグハグなもんにはしない。
 
とりあえず、おれがやるなら再三書いてきた通り、
「世間をアッと言わせるようなでっかいことをやってみたい」
を動機とし、
「グリコのネオン看板を世界的に有名にする」
を目的とし、
「結果的に企業の宣伝になるんやったら1億くらいもろうてもええやん」
という了見で行った、だ。チグハグじゃないと思う。だからもし、おれが話を作るとしたら、グリ森事件犯人一味が別のマジモンで悪いやつらから子供を護って戦うためにふたたび社会を〈劇場〉にする、というものにせにゃならんことになるな。
 
まあ考えとこう。それより今回の本題は、さっき見せた小栗旬の、
「ギン萬事件で使われた声は3つ。ひとつめは、ギンガの脅迫に使われた女の声。最新の声紋鑑定で、ひとつめの声は、16歳前後であると年齢が訂正されました」
というセリフだ。エンデンブシが大学時代に読んでアイデアを思いついた本というのはこの、
 
   画像:闇に消えた怪人表紙
 
一橋文哉・著『闇に消えた怪人』に違いないという話を前にしました。例の無料電子本でエンデンブシは、
《使われた子どもは3人いて、そのうち一番下は僕とほぼ同い年だった。じゃあ、その子は今、どんな人生を送っているんだろうと考えるうち、「関西に住んでいるのなら、もしかすると自分とすれ違ったことがあるかもしれない」と思い至りました。その瞬間、これは小説のネタに使える」と気づいて鳥肌が立ったのです。》
と書いている。おれはこないだ、これについて、
《おれの考えが正しければエンデンブシの最初の構想では、それは、
【小学2年の男子と女子、それに小学1年の男子】
だった見込みがあることになる。》
などと書いたが、あらためて『闇に消えた怪人』を読み直すと、
 
画像:闇に消えた怪人36-37ページ声の鑑定
画像:闇に消えた怪人表紙
 
こんな記述があった。おやおや、読み落としていたが、どうやらこれが本当の、『罪の声』のアイデアの元となったものらしい。
 
15、6の女の子とその弟。女の子は殺されて、弟は地を這うような人生を生きてる、というのをここから思いついたとわかるが、暗い。普通は考えねえよな。実は見せたのにもうひとつ、
《別々の非常に短い文章の朗読テープを繋ぎ合わせて編集し、録音し直した形跡が見られる。吹き込んだ児童にはおそらく、全体の内容は把握できておらず、脅迫文を読んだ認識はないだろう》
とあるのでもわかると思うが、犯人一味は子供の未来を壊したりせぬよう気を配っていたフシが多々ある。だいたいがどれも、これまでに見せた通り、
「茨木市上穂積のバス停看板の横の電話ボックスの物置台の裏」
とか、
「京都へ向かって一号線を2キロ、バス停城南宮のベンチの腰掛の裏」
なんていう短い指示を繰り返すだけで、別に、
「カネを持ってこい。さもなくば毒を――」
みたいなことを読ませているわけではないのだ。こんなので、「読め」と言われて読んだだけの子供に罪を背負わすことにどうしてなったりなんかするのか。
 
とおれは思うのだけど、エンデンブシは自分に都合悪いことは本を読んでも読まなかったことにするし曖昧にごまかしたうえで大げさに言うのであろう。
 
それがエリートというもののエゴだ。が、それより妙なのはむしろ、
 
画像:鈴木松美
 
この鈴木という学者だ。『闇に消えた怪人』の初版発行は1996年7月だが、スキャンして見せたものにはこの先生の鑑定として、
《四月二十四日の江崎グリコへの電話の主は中学二、三年生の女子。(略)当初、三十代の女性と見られたが、》
うんぬんとあるね。しかし、2011年7月つまりそれからちょうど15年後放映のNHKの番組の取材で、「テープの再分析を」との依頼に対し、下に見せるように、
 
   *
 
鈴木松美「何か見つけられるでしょうね。機材が相当違ってますし、精度も違ってますし。ですからまあ、相当あの当時よりも細かい分析ができると思います」
 
作品名:端数報告6 作家名:島田信之