端数報告6
などということを考えたりした。そうだ。おれはこのあいだ平沢という人間について、『刑事一代』の本を読んで初めてみたいなことを書いたけれども、実はそれ以前から、こんなものを読むことでその絵の大家と呼ばれる者に何かウサン臭いもの、ウナ原雄山的な匂いを感じていたと思う。それが八兵衛の語る話で得心がいったというのがより正しい言い方になろう。またここに、
「所内での生活はどうですか?」
「梅雨時なので神経痛が出ますが、建物も新しくなり、宮城県は気候もよいので快適です。夏は涼しく冬は湯タンポを入れますので、まったく“別荘”のようなものです」
などと書いてあるけれどオーケンの本には、
画像:のほほん人間革命248ページ牢屋というところは生活環境として アフェリエイト:のほほん人間革命
こう書いてあって、「どっちなんだよ」と思ったりしてた。どうも普通の死刑囚は遠藤誠が言うように小さな窓がひとつきりの陽も射さず風通しも悪い部屋で夏は扇風機もなしの蒸し風呂、冬は暖房なしという生活を強いられるものらしいが、しかし平沢に関しては、遠藤は嘘をついている。〈獄中の画家〉である平沢だけは特別扱いを受けていて、ここで新藤に言った通りの〈“別荘”のような〉暮らしをしていたとしか思えない。
一方で「百パーセント素晴らしい人格の持ち主でなかったことは確かです」というのは遠藤が言うのが本当で新藤健一は平沢にたぶらかされているとしか思えん。おれがそう思いたいから思うのでなく客観的にどう見てもそうだ。
そしてその後、セーチョーの『小説帝銀事件』を図書館で借り、ざっと目を通していくと最後の方に、
画像:小説帝銀事件275・277ページ平沢貞通は性格が異常で アフェリエイト:小説帝銀事件
こう書いてあるのなど見て「はん、やっぱり」と考えてブログを始めることになる。これが真実の平沢貞通。ウナ原雄山のなりそこない。よく言われる話と違って1950年代に平沢の無実を信じた人間というのはほとんどいない。〈出所不明の大金〉などなどといった話によって頭がマトモな人間は誰もが犯人と納得していた。
それが変わるのはセーチョーのこの本などもあることながら〈60年安保〉のせいが大きいだろう。安保反対のアンポンタンがドッと増え、安保に反対するためにあの事件をGHQの実験だということにしようとした。それまでは、イカレた説を唱えていたのはセーチョーのようなトンデモ陰謀論者だけで、いま見せた『小説』に、
《しかし、帝銀事件は、もっと頭脳的な、冷徹な計画性をもつ男でなければならない。逆説的に言い方をすると、平沢は嘘吐きだから、帝銀の犯人としての適格性が無い、と言えるのである》
なんて書いてるのはおれに言わせればバカバカしいにも程がある。
帝銀事件はおれには前にも書いた通り、
画像:トリック山田奈緒子のインチキ商売 アフェリエイト:TRICK
これと同じでイカサマ師による危なっかしい犯行に見える。毒を飲んでも自分は無事だが他の者はぶっ倒れる、そんなトリックを思いついた手品師の仕業だ。だがそれだけでやってるから、危なっかしいことこのうえない。「よくそんなのが成功したな」と思うような話であって、運よく成功してはいるが失敗してその場で取り押さえられてるおそれが多分にあったもんに見える。
16人中12人が死んだというのも結果がそうだというだけで、人を殺す気は実はなかった。〈荏原〉では毒が少な過ぎたのが、毒を増やして今度は多過ぎたんじゃないのか。計画性がないから人が死んだんじゃないのか。その疑いが強そうに見える。
セーチョーは最初の未遂である〈安田銀行荏原支店〉では怪しまれて巡査を呼ばれ、二度目の未遂の〈三菱銀行中井支店〉では支店長が毒を飲むのを拒んだ点を無視するからこんなことを考えて、〈小説〉の主人公である仁科俊太郎の思いとして書くだけだ。いーや、これをやらかすのは、『TRICK』の〈山田奈緒子の母〉のような奇矯な人間、つまり平沢、そのくらいしかないだろう。
そう考えたがゆえに2年前の2月、見切り発車でブログを始めたというのを説明したところで今回は終わり。次回から、いよいよほんとにGHQ陰謀説がいかにデタラメかをあらためて検証し直すことにします。刮目して待て。