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端数報告6

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ヤツの名前はウナ原雄山


 
画像:美味しんぼ1か……海原雄山!! アフェリエイト:美味しんぼ2
 
『美味しんぼ』初期の海原雄山は最低の人間である。ちなみにおれは最初の頃、〈海原〉の字を「うなばら」と読んでて、だから上に見せた画もセリフを「か……うなばらゆうざん!!」と読んでいたのだが、とにかく文庫版の第2巻にウナ原雄山が出る話はふたつ。ひとつめの『幻の魚』という話は、
 
画像:美味しんぼ2車内の雄山
 
こう始まって、料亭で東西新聞の面々と出くわすのだがするといきなり、
 
画像:美味しんぼ3豚や猿呼ばわり
 
この調子だ。しかし、
 
画像:美味しんぼ4雄山の器
 
こうなる。もっとも読む限りでは、雄山が優れた器を焼いていたのは若い頃という印象を受けるが、設定ではどうなってるのか。
 
まあさておき、この席で、
 
画像:美味しんぼ5その鯖を持ってこい
 
こんな展開になるのだが、結局のところ息子に敗けて、
 
画像:美味しんぼ6よくもこんな器を
 
こんな結末。これが「先生」と呼ばれる人と言っていいのかというところである。
 
だが、続く『料理のルール』という話は輪をかけてひどい。カモ料理で有名なフランス料理のレストランが東京に支店を出したその祝賀に士郎達も招かれるのだが、そこにまたもやウナ原雄山。店の料理にケチをつけ、聞こえよがしに、
 
画像:美味しんぼ7なんという傍若無人な
 
この調子だ。おまけに勝手に持ち込んだ醤油とわさびで店の料理を食べ始め、
 
画像:美味しんぼ8この方がうまい
 
こんなこと言う始末。士郎が諌めの言葉を放つとそれに向かって、
 
画像:美味しんぼ9勝負だ
 
こうなってしまう。だがまたもや息子に敗れ、
 
画像:美味しんぼ10あとは勝手に食べて帰るがいい
 
となるのでありました。この頃の雄山はこんなキャラクターだけど、この後に料理屋〈岡星〉店主の弟の良三が〈美食倶楽部〉の若き板前として話に加わり、そこから少しずつ変わっていく。その後も初期のこのようなエピソードがないでもないが、その描き方も異なって、何年かすると別人になる。
 
――が、おれは別にここで、海原雄山の話がしたいのではない。このウナ原雄山は実は当時の日本人を描いているのではないか。そしてさらに前の時代の日本人もそうだったのじゃないか。ウナ原雄山も最初からウナ原雄山だったわけではなくて、
 
画像:美味しんぼ11雄山におもねる者達
 
こんな者達がいることでツケ上がった人間であり、だから本当に悪いのはこの者達の方、と言うか、ウナ原雄山のような輩に騙され、おもねてしまうヒトという種の心理にこそ問題がある。それが新たなウナ原雄山を生んでいく。帝銀事件の愚劣きわまる〈GHQ実験/平沢冤罪説〉が世にはばかってきたのもそこに要因があるのじゃないかとおれが考える話をこれからしたいわけなのだ。
 
が、まずは海原雄山。ひょっとしてこの男には、モデルとする人間が存在しているのじゃないか。あるいは、そのものじゃないにしても、フランス料理のレストランに醤油を持ち込んだおっさんがいて、「先生」と呼ばれる者であったためにまわりの人間がおもねった。そんな話が実際にあったか、原作者の雁屋哲がじかに見ていたりして、それがマンガのネタになってる。
 
ということはないかしらん、と今に見て思ったりする。1980年代は日本人が世界から、〈経済侵略者〉と呼ばれた時代だった。黄色と黒は勇気のしるし、24時間戦えますか、なんて歌を歌いながらやって来る変なやつら、日本人。当時におれは中高生で、外国のどこで日本の外交官が傍若無人なふるまいをした、なんて話をずいぶん聞いた憶えがある。何をしたのか細かいことはいちいち憶えてないけれど、たとえば当時に景山民夫が出した本に、
 
画像:景山民夫休暇の土地普通の生活食わせろ
 
こんなことが書いてあったりして、相当に目にあまるものがあったらしい。ゴッホの絵をそれがゴッホが描いた絵だというだけの理由で日本企業が値を吊り上げ、1979年に1億円だったのが2億4億8億円、16億に32億、そして64億円となったところでバブルがはじけて何もかもがヘナヘナになった。
 
と言うけどその頃に比べて今の日本人は少しはマシになったのか。わからないけど、それより前に、もっとひどい時代があった。かつて日本が本当に侵略国家の時代があった。1930年代。その頃にウナ原雄山になろうとしてなれなかったのが、
 
画像:平沢貞通
 
この平沢貞通で、人の本質はあまり変わらず、自分を偉く見せることに長けた人間が偉そうにしているのに出くわすと、ついつい「この人は偉いんだからへつらわねば」と思ってしまって神輿を担ぐ集団に加わってしまったりまでする。
 
だから平沢は冤罪で、帝銀事件はGHQの実験ということになる。みんなが言ってるらしいからそれは確かなことなのだと。平沢の絵を見もせずに、平沢の絵は素晴らしい、だって文展無鑑査なんだ、だから無実だ、と言うことになるが、こないだ見せたこの本のページの、
 
画像:福田洋現代殺人事件史帝銀事件2ページ目
画像:福田洋現代殺人事件史表紙
 
下に見える獄中の平沢。この写真を撮ったのが新藤健一という人物で、そのときのことを本に書いているのだが、その一部を見せると、
 
画像:写真のワナ32-33ページ発表できないとわかっていても私は撮った
画像:写真のワナ表紙
 
こうだ。まるきり聖人君子。しかしおれはこの本を大槻ケンヂの『のほほん人間革命』を読んだ後で手に入れたのだが、書いてあることのひとつひとつが怪しく思えて仕方がなかった。
 
たとえばこれの前のページに、この撮影に使ったカメラを《28ミリワイドのレンズをつけたニコンSP》と書いてるのだが、ニコンSP? それ、結構大きいうえにシャッターの音も響くんじゃなかったっけ。でもってすごく高価(たか)いんじゃなかった? 見つかって没収されたり壊されたりしたらえらい損害じゃねえのと思った。なんでこの、
 
画像:オリンパスペン
 
〈オリンパス ペン〉だとかにせえへん。いやそんなのはいいとしても、どうやらこの人、通信社の仙台支社に転勤したのをきっかけに宮城刑務所の平沢に手紙を出し始めたらしい。文にはっきり書いてないけど、「自分はあなたの親戚だ」とでも素性を偽ってたようだ。で、撮って見せたページに書いているようにその行為に理屈をつけて正当化している。
 
そうして面会にこぎつけた。これこの通り百パーセント素晴らしい人格の持ち主なのが会ってわかったと言わんばかりの調子だが、こいつは写真撮りたさにこのとき一度ガラス越しに会っておしまいになる男だし、「絵の大家(たいか)だから無実」ともいう調子だけれど『美味しんぼ』の初期にあのマンガの主人公が父親を指して、
 
「あの冷酷無残な男が、このように芳醇な作品を作る…芸術の魔性というやつだ……」
 
と言う場面がなかったかな。だいたい、《富士山の絵は一流》なんて書いているけどただそう書いてるだけのことじゃね。
 
作品名:端数報告6 作家名:島田信之