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端数報告6

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「事案が事案だから、ヘタに新聞を騒がせてはまずい。ワタシなら新聞記者に顔を知られていませんし、穏便に事が運ぶ」
 
画像:刑事一代庶務係主任
 
というのが8月に白いスーツのこのエリートらしき男がおっしゃりたもうた言葉。
 
ここで八兵衛がどうしたかはこのドラマをなんとかして見るか『刑事一代』の本を手に入れて読んでほしいが、おわかりだろうか。この男は室井慎次なのだけれども室井慎次そのものでない。〈室井慎次を腐らせた人間〉と呼ぶべき者だ。警察組織に室井のような人間はいるが、室井のような人間はいない。室井慎次を腐らせた人間だけがウヨウヨといて、組織の中で上に行こうとイモリのように壁に張り付き出世のチャンスを窺っている。
 
この男はそれである。あの映画で筧利夫が演じていた役名はえーとなんつったっけ、忘れちゃったが柳葉敏郎演じる室井に、
 
   *
 
「私は、これ以上点数取らなくても上に行けます。長官が東大閥ですから。東北大でしたね、室井さんは」
「そうだが」
「この辺で手柄立てといた方がいいんじゃないですか」
 
画像:踊る大捜査線筧利夫 アフェリエイト:踊る大捜査線THE MOVIE
 
と言う場面があるが、そんなことの積み重ねで腐ってしまった警察官僚。官僚の中では下っ端で、小さな部屋をあてがわれてその室長とかになり、それより上には行けそうにない。
 
そんなイモリのひとりなのが、組織の最高幹部達が、
 
「ウチの☆☆を行かせましょう」
「いえ。ウチの◎◎を」
「とにかくそのイカリヤに、カトーだとかナカモトだとか、それに後から入ったのがシムラ? そんなのにはやらせないでよ」
 
という調子であるためにドリフから手柄を奪うチャンスが生まれる。だがさすがにそうは問屋が卸すことなく居木井達が平沢を捕まえ、東京に連れてくるのだが、しかしそこでイモリズがワッと群がってきて、
 
「取り調べはどうかワタシに」
「いえ、ワタシこそ適任です」
 
とやり出してしまう。そういうことがあったとおぼしい。
 
だがもちろんイモリどもの誰ひとり現場なんか知らないし取調べなどしたことがない。無理なのはわかりきってるのだが、それでもトップが「ウチの井森に」「ウチの伊守に」と言い張って譲り合わない。結果、居木井と八兵衛らは取り調べできず、刑事調べを飛ばして検察がやることになり、高木ブーが拷問まがいの訊問で平沢に「やった」と言わせた……。
 
というのがおれの見るところ、この話の真相なのではないかと思う。『刑事一代』を読んでおれは、そう考えることになった。前回見せたように再現ドラマの八兵衛は、〈吉展ちゃん事件〉ではこんなものを、
 
画像:刑事一代八兵衛の書類
 
何枚も書いて小原保の調べに臨んだ。『刑事一代』の本には〈文庫本あとがき〉に、
 
画像・刑事一代文庫本あとがき八兵衛の手帳 画像:刑事一代表紙
 
こんなことが書いてある。だからあながちドラマのあれは脚色でもないと思える。八兵衛が取り調べをしていれば、平沢から全面自供を取れた見込みはあるのじゃないか。
 
全面自供であるならば、後で文句が出ることはない。いや、やっぱりセーチョーなんかは実験だ陰謀だと言うかもしれんがマトモな人間が聞くことはなかろう。平沢はすぐ吊るされて、クニャクニャ冤罪説が幅を利かせることにはならなかったはず。それがこうなってしまったのは、あの事件は現場でなくて会議室で室井を腐らせた人間達が起こした事件だったからだ。
 
おれは『刑事一代』を読んでそういう考えに至った。それが2009年だが、それと前後して別の本を読んで「うん!?」と思うことになる。『英米超短篇ミステリー50選』という、10ページほどのショート・ショート・ミステリを集めた本なのだけど、ページの隅にある一篇の原題として、
 
《Caught in the Act》
 
とあるのが目に止まったのだ。突然に、十数年前の記憶が甦った。コート・イン・ジ・アクト? そう読むんだよな。あのCDの題名だよな。でも、一体どういう意味だ? コートとアクトはなんとなくわかるが……。
 
〈コート・イン・ジ・アクト〉となるとわからない。本をめくって短篇の第1ページを見るとそこに、
 
画像:ビル・プロンジーニ『現行犯』 画像:英米超短篇ミステリー50選表紙
 
《現行犯》とあるのを認めて、アッと思った。そういう意味か! そしてまた、そこからすぐに『マイノリティ・リポート』のことを思い出した。
 
あれは現行犯逮捕でやればいいんじゃないか、と思ったのである。〈女子高生コンクリート詰め殺人事件〉。女の子はそれまで40日間も凌 辱の限りを尽くされていた。殺人予知で死の直前に踏み込んで命だけは救い出し、〈未来殺人罪〉なんてバカバカしい罪じゃなく、拉致と40日間の凌 辱の罪で逮捕し起訴するのだ。〈有罪・無罪〉は陪審員とか裁判員とかに決めさせる。
 
それでよかろう。これが正しいやり方であり、廃止だなんて言うやつはバカだ――そう考えてこのアイデアをもとにおれは小説を書き始めた。タイトルはひとつしか有り得なかった。これが出来上がったら次に帝銀事件について書いてみるのもいいな、なんてことを考えながら。
 
画像:コート・イン・ジ・アクト表紙
https://novelist.jp/88772.html
 
結局のところいろいろあって、ブログとして書き始めたのが2020年2月。その割にはセーチョーの『小説』にざっと目を通しただけの見切り発車だったのが、始めた矢先にコロナのせいで図書館が閉鎖になって「えーっ?」と慌てることになるけど、しかしどうやらそのおかげで、さらにいろいろあった結果、今こうして書き直しができている。すべては神の計らいで最後はすべてうまくいくことになっているのではないか、とちょっと期待してるところだ。
 
そうとでも思わなければやっていけないところもあってそう思っているのだけれど、とにかくこれでこの書き直しの序章は終わり。ここまでが〈おれはいかにして事件の犯人は平沢だと確信することになったか篇〉で、次から事件をふたつに分けて、まずはGHQ実験説を一から順序だてて書き直していく考えである。
 
それが終わったら次に平沢冤罪説をあらためて書き直していく。同時に、
 
画像:粧説帝国銀行事件表紙
https://novelist.jp/90724.html
 
この〈粧説〉も書いていく考えなのでどうぞよろしく。それではまた。

作品名:端数報告6 作家名:島田信之