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端数報告6

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現場じゃなくて会議室で室井が起こしていた事件


 
刑事平塚八兵衛の話の続きだ。おれの記憶では2009年に渡辺謙の主演でドラマ化された佐々木嘉信・著『刑事一代』。これが放送される話を知るまで、おれは平塚八兵衛の名も「なんか聞いたことあるな」という程度で、帝銀事件の平沢逮捕にもかかわっていたなんていうのは知らなかった。知って「そいつは見なければ」と思ったのだが2夜連続の1夜目を見逃しちゃった。
 
という話は前回書いた。ずっと悔しく思ってたのだが、なんとまあ、どこかに神でもいるかのごとくについ最近ケーブルテレビでそれが放映されたのである。しかし2月の初回放送をまた見逃して3月末の再放送でやっと録ることができたのだが、
 
画像:ドラマ刑事一代第一部帝銀事件
 
これね。見たけど、やや期待外れだった。どうもこの事件ばかりは再現ドラマを作った者らも八兵衛の話を信じなかったフシが見られ、平沢の容疑に関する部分は例によってクニャクニャになってる。
 
まあ、おおかたそんなこったろうという気もしてたのでそれはいい。おれがこれまで見れなかったのも神の計らいかもしれん。今回は平沢逮捕に八兵衛がどうかかわったかの話なんだが『刑事一代』の本によると、どうやらまるで平沢の逮捕に際して警察内部で、
 
アフェリエイト:踊る大捜査線THE MOVIE
 
この映画そっくりのことがあったようなのである。『踊る大捜査線』劇場版第一作。いかりや長介演じる和久が犯人らしき者を見つけ、織田裕二演じる青島が身柄確保に向かうとそこで警察の最高幹部が、
 
   *
 
「19歳? 未成年だと?」
「根拠はないんだろ? 勝手に動くなと言いたまえ」
 
画像:踊る大捜査線会議室 アフェリエイト:踊る大捜査線THE MOVIE
 
と言う。しかしどうやらホンボシらしい。ヘタをすれば逃げられてしまうし、人質を取って立てこもりなんてことになりかねぬのは誰でもわかるはずのところだ。なのに会議室のバカどもは、
 
「ウチの捜査員を行かせた方がいいでしょう」
「いえ。ウチの二係を行かせますか」
「とにかく、所轄なんかにやらせないでよ」
と言い出して青島に、
「そこで待機だ。本庁の捜査員が行くまで待て」
と命令する。そこであの有名なセリフ。
 
「事件は会議室で起きてんじゃない。現場で起きてんだ!」
 
そして柳葉敏郎演じる室井が、
 
「青島確保だ!」
 
と叫ぶ。ああ何度見ても燃えるシーンだ。おれはこれを有楽町マリオンで、30歳という年齢で見れたのを神に感謝したい。しかし、これとそっくりなことが平沢の逮捕のときに起きていたようなのである。
 
――が、その前にこないだ見せた、
 
画像:のほほん人間革命高木一 アフェリエイト:のほほん人間革命
 
この画をもう一度見てもらいたい。平沢の取り調べでは刑事調べがすっ飛ばされて、高木一という検事が拷問まがいの訊問をやって自白させたものという。それはよく知られる話で、このオーケンと弁護士の対談からもわかると思う。後に小原保を落とす八兵衛が、平沢を逮捕した刑事のひとりであるというのに取り調べをしていない。
 
そしてまたこのことが、GHQ実験説を唱える者の間で陰謀の根拠とされている。警察と検察に圧力をかけてそうさせたというわけだね。
 
しかし八兵衛の話からおれが想像するところでは事情は違う。踊る大捜査線THE MOVIE(1)。「兵隊は犠牲になってもいいのか」。これだ。まさしくこれが平沢の逮捕と取り調べのときに警察の中で起きていて、それが元祖高木ブー伝説を生んだ。
 
というのがおれの考えである。すなわち官僚機構の弊害。それが禍根を残し、陰謀論者にバカげた説を唱えさせる余地を与える。帝銀事件の捜査はまさに〈副総監誘拐事件〉で、刑事平塚八兵衛はまさに青島俊作だった。
 
おれはそう考える。八兵衛はみずから捜査の本流を離れ、エリートぶった者達に笑われながら傍流の名刺捜査の班に加わる。そのキャップが居木井という人物で、彼らがたどっていた線から浮かんだのが画家の平沢貞通だった。
 
画像:ドラマ刑事一代名刺班へ
 
つまりその居木井が和久だ。居木井が平沢を見つけ、八兵衛が脚で歩いてそれまでの杜撰な捜査を洗い直す。「平沢を犯人とする証拠はただのひとつもなかった」とよく言われる話は嘘で、八兵衛が調べていくと証拠は山のように出てきた。上層部は初めのうちは、
 
「画家? それも大家(たいか)だと?」
「根拠はないんだろ?」
 
なんてこと言ってたのだが、「これは確実」とわかってくると、
 
「逮捕にはウチの○○を行かせましょう」
「いえ。ウチの□□を行かせますか」
「とにかく、そのイキーなんてのにやらせないでよ」
 
などと言い出してしまう。一方で捜査の本流は「毒は青酸パリダカラリー」と言っていて、「GHQの実験だ。それを暴いて国際社会に晒してやるのだ。オレ達でマッカーサーに吠え面かかそう」などと叫んで舞い踊ってた。おれが思うに、GHQがもし圧力かけてきたら外国の通信社にでもネタを売ろうと考えてたのが大勢いたのじゃないかしらん。
 
実際に平沢の逮捕や起訴の後で〈UP〉だのなんだのにそれをやった人間がかなりいるようでもある。わかるだろう。GHQが圧力をかけたとしても抜け道はある。津嘉山正種が記者会見で、あのいい声で「平沢が自白しました」と言った後でも抜け道があるのだ。セーチョーは、その抜け道を通って世に流布されたヨタをなんでもかんでも信じ、
 
「ホラ見ろ、やっぱり〈三本脚〉を見たって人が! 火星人はやはり来たのだ! 火星人はやはり来たのだ!」
 
と言っちゃってるだけに過ぎない。
 
たとえばおれが後に読む『小説帝銀事件』には、〈小説〉の主人公が最初の章で、
 
画像:小説帝銀事件16ページイギリスの新聞が アフェリエイト:小説帝銀事件
 
こんなことを考えるところがある。帝銀事件は外国でも大きなニュースとなっていた。外国の記者は情報を求めていた。外国から日本に送られてきていた記者が「日本の刑事に直接聞いたことだから」と青酸パリダカラリーだのなんだのかんだの書いて送ってその母国の新聞や雑誌に刷られて読まれるために、世界中でGHQ実験説が信じられた。実験なのだ。実験なのだ。実験なのだということになってしまってそういうことにしたい者らにそういうことにされてきている。世界中で。
 
それがおれの考えるこの大ガセの真相なのだ。バカバカしい。松本清張という男は、自分が何を書いてるかわかってないのだ。おれの頭ではハッキリとそれがわかるんだけど、とにかく今は警察トップの話である。上層部がそうなることで、和久と青島、いや、居木井と八兵衛が、
 
「ふざけんな。おれ達で平沢を逮捕に行くぞ」
 
と声を上げるのだけど、そこでやっぱり室井のような人間が出てくる。
 
出てくるのだけどそこからちょっとあの映画とは違ってくる。平沢を捕まえに行く準備をしていた居木井と八兵衛らの許に、庶務係の主任というのがやってきて「キミ達でなくこの自分に逮捕に行かせてくれないか」と言ったというのだ。ここは再現ドラマから見せるのがいいと思うが、
 
   *
 
作品名:端数報告6 作家名:島田信之