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端数報告6

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「なるほど、日に1千前後を検査して割合を出しているのか。ふうん」
とだけ思ってすぐに消した。
 
この話は何万回書いたか知れんし、
「志村けんが死んだ頃だと思うが定かには憶えていない」
とも再三書いてきたけど、図書館で新聞の縮刷版をめくってみるに、たぶんおそらく、
 
画像:2020年4月1・2日の新聞
 
この日ではないかと思う。2020年4月2日だ。3月31日に東京で78人を確認して「過去最大を更新」と言い、その翌日66人。
 
この翌日に90を超え、その翌日に100を超え、どんどんどんどん増えていく。感染拡大が止まりません。感染拡大が止まりません。
 
そう言ってたがこの頃から、おれは話を疑い出してた。いやその前から「どうもおかしい」と感じていたけど、ますますだ。本当に増えているのか。率は7パーで変わらないのに昨日1100、今日1200、そして明日は1300人と、検査する数を少しずつ毎日増やしてんじゃねえのか。
 
それをやったら確認数が増えるの当たり前じゃねえかと。そう思うのもあの一件がずっと頭にあったからで、でなけりゃおれにも思考のめぐらしようがない。ひょっとしてあの番組は、神がおれに見せたんじゃないのか。
 
そんな思いになることがある。あの日にテレビがあんなことを言い、おれに見せればふたつのことを考えて、ずっと憶えてやがてブログに書くなんてこと、わかる者がいるとしたら神だけだ。おれが出してる帝銀事件の話を盗んで自分が書いたことにしようとする人間だけがコッソリ読んで、静かに世に広まっていく。
 
そしていつか、蝉が一斉に地から出て飛び立ち合唱するようにして、騒然となる時が来る。コロナの嘘から世を救うにはそれしかない、と考えるものがいるとしたら神だけだ。なんだかタチの悪い神におれは見込まれてるんじゃないのか。
 
そんな気になることがある。そうとでも思わなければやっていけないところもあってそう考えるわけでもあるが、人間は実は魚より頭が悪い生き物だ。自分が置かれた状況にすぐに呑まれて理性を失う。
 
科学者は決して直感や希望的観測で物事を決めつけてはいけないものとされている。されているけど、実際にそれができる学者はいない。特にカメラなど向けられると、
「あー、全くわかりませんがぁ、その線もぉ、捨てられないということですよね? どれも推定の範囲を出ませんがぁ、その線もぉ、捨てるわけにはいかんというゴニョゴニョゴニョ……」
と誰もが声を張り上げて言ってしまい、そういう方へ話を持っていきたがるマスコミや政治家や田辺誠一の鑑定に利用されるだけのものになる。新型コロナは中国軍が極秘に開発していたものがCIAの陰謀で世に放たれたものにされる。田辺は言う。その可能性があるんですね。その可能性があるんですね。
 
「あー、全くわかりませんがぁ、その線もぉ、捨てられないということですよね? どれも推定の範囲を出ませんがぁ、その線もぉ、捨てるわけにはいかんというゴニョゴニョゴニョ……」
 
そしてまた、アセトンシアンヒドリンは日本軍が極秘に開発していたものがGHQの陰謀で世に放たれたものにされる。田辺は言う。その可能性があるんですね。その可能性があるんですね。
 
「あー、全くわかりませんがぁ、その線もぉ、捨てられないということですよね? どれも推定の範囲を出ませんがぁ、その線もぉ、捨てるわけにはいかんというゴニョゴニョゴニョ……」
 
そうしてマトモな線が捨てられ、陰謀論が世に広まっていくことになる。田辺は自分はカイル・リースのつもりであり、それには神輿に載せて担ぐジョン・コナーが必要になる。居木井警部補の占いの話は、まず間違いなく実際は、その占い師が居木井の名前の名刺を自分でこしらえて裏に《名鑑を感謝す》と書き、客に見せていたものを、
 
画像:サライ東スポの記事
サライ1992年3月15日号
 
こんなような新聞が記事にしただけのもんである。○○湖に謎の生物が現れた。それは遠い過去から来た首長竜の可能性があるんですね。あるんですね。
 
その可能性があるってことは、そうではない可能性がまったくないってことなんですね。そうなんですね。そうなんですね。
 
「そうです。目撃情報によれば、陸に出て2本の脚で立って歩いていると言います。その全長は50メートル。60、70、80メートルとどんどん大きくなっていると言います。この生物はその大きさでも自重を支えられるのだと考えられます。そしてまったく別の形態に変異して、口から火を吐き街を破壊。120メートルの大きさになって、地中貫通型爆弾でも、それどころか核によっても、殺せぬものになる可能性が捨て切れぬ可能性が捨て切れません」
 
「その可能性があるってことは、そうではない可能性がまったくないってことなんですね!」
 
「そうです、その通りです!」
 
となってテレビに映る誰もが『シン・ゴジラ』って映画のように早口でしゃべるようになる。オミクロン株! オミクロン株! それはゴジラだーっ! ゴジラなんだあーっ! 遠いフランス領の海から、水爆実験に怒って現れ、人を滅ぼしに来たものなんだーあっ!!
 
と。○○湖の湖畔には、こんな、
 
画像トレマーズ水平二連銃 アフェリエイト:トレマーズ
 
銃で熊を撃とうとして返り討ちに遭った密猟者の死体がひとつ転がっているだけなのだが。
 
画像:シン・ゴジラ尾頭ヒロミ アフェリエイト:シン・ゴジラ
 
しかし政府はこんな女を専門家として扱って、話を聞いてしまっている。主役の男が、
 
「(その生物に)もし脚があるなら、上陸の可能性はありますか」
 
と訊いたら、彼女は、
 
「はい。可能性は捨て切れません」
 
と応える。出たよ、【可能性は捨て切れません】が。しかもまだまだ若い女が、あのブ男のおっさんと同じ顔してよくも言うよな。これを言ったら顔が崩れてああいう面相になっちゃうことが、見てよくわかる感じでもあるけど、しかしそもそも、これは男の質問の仕方が適切でない。田辺誠一が使ったのと同じトリックを用いている。
 
海中生物に脚がある可能性などゼロに近いし、タコに足があるからと言って、上陸の可能性がわずかでもあるか。ない。これは最初から、
「はい。可能性は捨て切れません」
とこの女に言わそうとしている。
 
それ以外の答ができない質問の仕方を相手にしている。検事だったら「異議あり!」と裁判官に言うところだ。
 
検事だったら。
「もし人間に翼があるなら、空を飛べる可能性はありますか」
「そりゃ『ある』としか答えられんが、バカな質問すんなよお前」
「もし人間にエラがあるなら、エラ呼吸できる可能性はありますか」
「そりゃ『ある』としか答えられんが、バカな質問すんなよお前」
「もしワタシに瞬間移動能力があれば、瞬間移動できる可能性はありますか」
「そりゃ『ある』としか答えられんが、バカな質問すんなよお前。おれに何を言わそうとしてんの」
作品名:端数報告6 作家名:島田信之