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端数報告6

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こんなことを言う。出たよ、【可能性がある】。この2年間、コロナでさんざん聞かされたのと同じ言葉だ。可能性がある。それも去年の秋くらいから、やたら聞くことが増えた言葉だ。可能性がある。可能性がある。コロナは減ったように見えてさらなる拡大をしている可能性があります。致死率も下がったように見えてこれから最初の頃以上に高くなる可能性があります。オミクロン株! これです。これこそワタシがもっとも恐れていた変異体の可能性があります。今日の東京の感染者が○人ということは、東京全体で○万人が感染している可能性があります。東京で〈波〉を起こす可能性が大であり、来月中に日本の半分、世界の9割が死ぬ可能性があります。黒人や日本人でない黄色人種はひとり残らず死ぬ可能性があります。
 
わかりますね。【可能性がある】ということはつまり【そうでない可能性がまったくない】ということなのです。完全に! その後に人々はワタシを見て尊敬し、ワタシの考えが正しいとわかってくれて、世界の支配者にしてくれるでしょう。可能性がある。可能性がある。可能性があるんですから。可能性があるんですから。
 
【可能性がある】というのはゼロに等しい可能性を100パーセントに見せかける言葉であってこれを使う人間を信用してはいけないと、おれは再三このブログに書いてきた。さらに言うとこのおっさん、画面には《可能性がある》とあるけど実際はさっき書き出して見せたように、
 
「可能性は捨て切れませんネ」
 
と言っている。ケーブルテレビの〈ヒストリーチャンネル〉というのでいつか放映されるかもしれないので、見れる方はそのとき確認してほしいが、
 
画像:にっぽん歴史鑑定ケーブルテレビ番組ガイド
 
とにかく、あなたがインターネットで〈アセトンシアンヒドリン〉を検索すると、おそらく、
 
画像:アセトンシアンヒドリンの説明
 
こんなのがまず出てくる。おれがやってみて最初に出たのがこれ(おれは帝銀事件そのものや平沢貞通なんかについてはインターネットを参照しないが、この程度なら見ることもある。つまり、周辺の情報で『話が歪められていないと考えられるものなら見てもいい』としてるってことだ)なんだが、どうやらこいつは、
【アクリルの製造に使う工業薬品】
なのだということがわかる。
 
【戦争中に日本陸軍が開発した暗殺用の毒物】
などとはどこにも書いてない。わかるだろう、そんなのまったくのデタラメなのだ。毒が青酸カリでないことにしたい人間が作った嘘で、セーチョーが『日本の黒い霧』に、
 
画像:日本の黒い霧97-98ページ
アフェリエイト:日本の黒い霧
 
こう書いて世に広まった。おれは最初にこれを定食屋で読んだとき、
「なんだよこれ」
とだけ思って、帝銀事件の話をすべて疑うようになったわけだが、このなんとかが遅効性で青酸カリは即効性というのも本当かどうか怪しいものだ。この毒ならば帝銀事件の通りになるなんてこと、知ってる人間はいない。いるわけがない。確かめるには人に飲ませてみる他になく、そんなことするわけにはいかないのだから。
 
なのにそれが確かな科学的事実のように語られて、このブ男のおっさんもセーチョーが昔書いたことを今もそのまま話している。しかしおれが『黒い霧』からここでスキャンして見せたものに書いてあることはすべて間違いである。
 
たとえばそれをセーチョーは、
《軍用語で「ニトリール」と呼ぶものであった》
なんて書いているけど、辞書を引くと、
 
画像:ニトリル
 
こうなっていて、軍用語なんかじゃないとわかる。ある種の青酸化合物の総称で、アセトンシアンヒドリンはそのひとつということのようでもあるけど、そこから先はおれにはチンプンカンプンでわからん。いずれにしてもセーチョーは誰かが作ったいいかげんな話をまんま信じて裏を取らずに本に書いているだけなのだ。
 
それに関しては確かだと言える。アセトンシアンヒドリンはアクリルの製造に使う薬品――アクリルと言えば、前にも見せた『カメラと戦争』という本に、
 
画像:カメラと戦争アクリルについて
 
こう書いてあるところがある。今はどこにでもあるアクリルも、大戦中は航空機の風防以外には見ることもできない貴重な軍用資材だった、と。アメリカ軍の〈P-51マスタング〉とか、〈F6Fヘルキャット〉といった戦闘機のキャノピー窓は、みなアクリルで出来ていた。アクリルは当時それ以外使われることのないものだった。
 
画像:F-15のキャノピーもアクリル
Jウィング1999年5月号
 
ちなみに、今の〈F-15イーグル〉なんかもキャノピーはアクリルらしい。その製造に使う薬品が、なんで日本が開発した暗殺用の毒になるのか。
 
変な話だと思いませんか。おそらくこの真相は、戦争中に米軍の〈P-38ライトニング〉などの飛行機のキャノピーがアクリルで出来ているのを知った軍部が日本国内での研究を命じ、その結果、
「アセトンシアンヒドリンという薬品が必要です。ニトリルと呼ばれるものの一種ですが、うんぬんかんぬん……」
というような話になった。元は外国のどこかが開発したものを、日本での製造に成功したのがセーチョーが『黒い霧』に書いているそのなんとかいう大尉。
 
なんてとこだろう。この話が帝銀事件と結びついて【暗殺用の毒だ】という嘘が出来上がり、遅効性だのなんだのいった口から出まかせが加えられた。
 
それがセーチョーが書いたことで世に広まり、誰も本当のところを確かめようとすることなく今に至る。
 
ってのがおそらく真相だ。そして今、松本零士の『ザ・コクピット アクリルの棺』なんかももちろん、
 
画像:アクリルの棺
アフェリエイト:ザ・コクピット5
 
この通り読んでるおれがあのおっさんの「可能性は捨て切れませんネ」って言葉と田辺誠一の鑑定士ヅラにムカついて、
「ひとつ調べてやろーじゃねーか」
という気にさせられてしまうとすぐにこの通りというわけだ。この通りというわけでもあるけど、しかしこんな話、普通の人間は知らないよなあ。知らなきゃウィキに《アクリル》とあるのを見ても何とも思いようがない。
 
なんなんだろね。おれは時々、このブログは神にでも書かされてるんじゃないのかと考えてしまうことがある。ここに再三書いてきた例の一件にしてもそうだ。2年前にテレビが一度、一度だけ、検査人数と割合を言ったことがあった話。
 
ニュースなんか普段は見ないおれがたまたまテレビをつけると、
 
「おとといは東京で七十何人、きのうは六十何人の感染が確認されました。数字だけ見ると減ったようですが、おとといは一千何人を検査しての70なので6%。きのうは九百何人を検査しての60なので7%。一日で1%増えてるんです。10%になったときに〈波〉が来るのですが、あと3%しかない。このまま行くと今日に8パー。あした9パー。そしてあさってに〈波〉が! 〈波〉が来てしまうのです。〈波〉が! 〈波〉があああああ」
 
なんていうのが画面に映って、スタジオにいる者みんながそいつの話を田辺みたいに信じていたが、おれはただ、
「10%で波が来るだと? 勝手に変な法則を作るな」
と、
作品名:端数報告6 作家名:島田信之