小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

端数報告6

INDEX|16ページ/66ページ|

次のページ前のページ
 

しかし決してテレビは分母を見せないし、厚労省も明かさない。なぜなのか、と最初からおれは変だと思っていた。【最初】と言うのは2020年3月、志村けんがまだ生きてた頃だ。テレビがたった一回だけ、検査数を言うのをおれは聞いたのである。なんて番組でなんてやつが言ったのかはわからない。細かい数も憶えてないが、
 
「おとといは東京で73人、きのうは65人の感染が確認されました。数字だけ見ると減ったようですが、おとといは1211人を検査しての73なので6%。きのうは929人を検査しての65なので7%。一日で1%増えてるんです。10%になったときに〈波〉が来るのですが、あと3%しかない。このまま行くと今日に8パー。あした9パー。そしてあさってに〈波〉が! 〈波〉が来てしまうのです。〈波〉が! 〈波〉があああああ」
 
と、こんなふうに言った。重ねて言うが細かい数字をちゃんと憶えているわけじゃないが確かにこのような言い方をした。しかもなんだか〈波〉が来たならば人類絶滅みたいに言って、スタジオで聞く全員が話を信じ込んでいたが、おれは見ながら、
 
「10%で波が来るだと? 勝手に変な法則を作るな」
 
とだけ思った。バカバカしい。同時に、
「なるほど、日に1千人前後を検査して割合を出しているのか。ふうん」
とも思ってそっちはいいにしても、【感染の拡大によって〈波〉が来る】なんて話はそもそも狂ってるとしか思えなかった。科学的に間違ったことを言っている。コロナが意志を持っていて、中国だかで発生したときから日本を標的にしてて、東京の感染者が10%になったときに猛毒を出して世界に広げて人類皆殺し――そういう戦略であることがゲノム解析とかなんとかいった方法で判明しているとでも言うのか。
 
そんなことでもみんながみんな信じちゃってるようにしか見えないが、それは狂気の沙汰である。テレビが流す話のすべてを、おれの頭は詐欺師が、
「安全のためです、安心のためです」
と言いながら消火器を売りつけてきてるようにしか感じなかった。試しに、
「確認ですが、あなたは消防署の人なんですよね」
と訊いてみると、
 
「はい。消防署の方から来た者です」
 
と応える。
「さっきハッキリ、『消防署の者です』と言ったように思うんですが」
とふたたび訊くと、
 
「はい。消防署の方から来た者です」
 
ともう一度言う。そいつの横で池上彰がニコニコ笑って、
 
「消防署の方から来た人だということは消防署の人だということですよ」
 
と言っている。そんなふうにしか感じなかった。
 
専門家が感染者数を見て言うことは週刊誌のナンバーくじ予想ページの文句のようだ。当たった人がいるんだからナンバーくじは当たるんです。ボクもアナタもみんながみんなこの数字で当たるんです。専門家のボクが言うからこんなに確かなことないでしょう。ボクが見つけた法則によればこの数字こそ。この数字こそ。
 
そういう種類の専門家が言うことのようにしか感じ取れない。おれに言わせりゃ【感染の拡大によって〈波〉が来る】なんてのは一等の玉が入っていない福引の車箱をガラガラと「今度こそは、今度こそは」と言いながらまわしてるようなもんである。そして人間というものは、グリム童話の『はだかの王様』の町人だ。WHOの長官がある日ハダカで現れて、
 
「私の服はバカには見えない服だ」
 
と言えば、専門家が聞いた情報を頼りにして、
「それはおそらくテーラー仕立ての英国調スーツでしょう。ぜひこの眼で見たいものだ」
とか、
「映画の『アウトブレイク』でダスティン・ホフマンが着たようなウイルス防護服でしょう。見える頭脳の持ち主は世界に10人といないものです。ワタシはそのひとりですが、見に行けないのが残念ですね」
なんてことを口々に言う。するとそこで池上彰が、
 
「WHO長官の服が何かについては専門家の間でも意見が分かれています。ある専門家はテーラー仕立ての英国調スーツと言い、別の専門家はウイルス防護服だと言う。ワタシは専門家でないので詳しいことはわかりませんが、しかし長官の着ている服が見えますし、それが素晴らしいものであるとわかります」
 
と言う。【バカには見えない服】が学者に【世界で10人の天才にしか見えない服】に変えられた後、池上彰に【エリートが見える服】に変えられたわけだ。後は政治家やその辺にいる酔っ払いのおっさんが「見える、見える」と言う服になる。専門家の言うことはだんだん怪しくなっていき、
 
「色は赤か緑か黄色、青もしくはピンクの可能性があります」
 
だとか、
 
「値段は当初は300ユーロくらいと考えていましたが、5千ユーロか6万ユーロ、800億ユーロの価値があるかもしれないと見直しました。しかし今では値下がりして、20ユーロになっているかもしれません」
 
なんて具合になっていくが、それでもWHO長官の服がバカには見えないのは確かだ。
 
あの素晴らしい服が見えんならそいつはバカだ、という前提は変わらない。専門家の誰も彼もが左右に眼を泳がせながらそう言うのだから――という、テレビが言うコロナの話はおれにはすべてがそうだとしか感じられない。そしてずっと疑っていた。一日の検査人数と計算で出た割合をあの一度しか聞かないが、その後なんで言わないのかと。
 
【感染者数】は感染者数なんかじゃない。【感染の確認数】に過ぎないし、このふたつは【消防署の方から来た人】と【消防署の人】が違うように違う。前者は詐欺師が使う言葉で、嘘を本当に見せかける言葉だ。あの話から志村けんが生きてた頃に東京で千人前後を日に検査してたのがわかるが、その後に検査人数と割合を聞かぬのはなぜか。今も一日に千人なのか。
 
ひょっとして、7%で変わらないのに、2千を検査することで、
「今日は140。感染拡大!」
3千検査することで、
「今日は210。感染爆発!」
と言ってるんじゃないのか――そんな疑いを持ち始めた。厚労省の役人はコロナが意志を持ってるものと思ってる。自我に目覚めて人類を【抹殺すべき対象】とみなし、東京で〈波〉を起こすべく戦略を練っているのだが、【自我に目覚めている】と言ってもまだたいしたことはない。日本語を理解し日本のテレビを見ているけれど【理解している】と言ったところでおぼろげで、ワープロと同じで《感染》と《艦船》の区別もつかない。
 
とでも思ってるんじゃないのか。だからたいしたことはできんが、いずれ次の段階に進化し、猛毒を出してくれるだろう。〈選ばれし者〉である自分や自分に都合のいい池上彰は助かるが、しかしたとえば芸能人の草?剛なんかは死ぬ。ああいうのは見せしめのために死んだ方がいいのだから死ぬ。
 
とでも思ってるんじゃないのか。日本人の半分と世界の9割がそこで死ぬ。それでいいのだ。そのときこそ、「だから言ったろ」と言ってやれるときなのだから。オレがあれだけ止めようとしたのに、聞かない者がいたからだ。今後はオレ様の言うことに、絶対服従、逆らうことは決して許さんと言ってやれるときなのだから。
 
作品名:端数報告6 作家名:島田信之