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端数報告6

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アーノルド・シュワルツェネッガーを1時間20分のところで殺せ


 
「帰るって? まだ帰りゃしないんだろう」
「帰らなくちゃならないんだ、マア。しなければならないことがあるんだよ。でも手紙は書くよ、お金も送るよ」
「じゃあ、いつ戻ってくるの?」
「わからない――まだ。でも行く前に、これをあげたいんだ」
「雑誌なの?」
「雑誌ではないけれどね。ぼくが書いた科学の論文なんだ。とても専門的なものでね。ほら、アルジャーノン・ゴードン効果って名前がついているだろう。ぼくが発見したから、ぼくの名をとってそう呼ばれているんだ。これをとっておいてくれれば、あんたの息子が、もううすのろじゃないってことをみんなに教えてやれるんだよ」
 母はそれを手にとって、おそるおそる眺めた。「これは……これはおまえの名前だね。こうなるってことはわかっていたよ。いつかはこうなるって、あたし、いつもそう言っていた。あたしはできるかぎりのことはしたの。おまえは小さくておぼえていないだろうけど、あたしはやったのよ。みんなに言ってやったっけ、おまえはいつか大学に行って専門家になって、世間へ出て名をあげるだろうって。みんな笑ったけれど、でもあたしはそう言ってやった」
 
アフェリエイト:アルジャーノンに花束を
 
久しぶりの投稿だが、しかし話はこれまでにしてきたことの繰り返しだ。図書館に去年12月分の朝日新聞の縮刷版が入ったので、最近の新聞と一緒に撮ってきた。次に見せる画の通り、東京のコロナ感染者の累計が遂に百万を超えたという。
 
画像:コロナの感染者東京で百万超え
 
去年の末に383020人。2年かけて38万3千だったのがわずか2ヵ月で1.6倍の62万がプラスされた。日本全体では173万から507万。2倍近くの334万がプラスされた。わけだが間違えてならないのは、これは【公式に確認された数】であるということだ。【公的機関が検査した結果、〈陽性〉の結果が出た人間の数】なのである。感染者の実数ではない。たとえばあなたが個人的に検査キットを買って試して〈陽性〉という結果が出ても、あらためてしかるべき場所で検査を受けてやはり〈陽性〉と出ないことにはこの数には入らないし、あなたの近所のタナカさんやサイトウさんがコロナに感染してたとしても、検査されなきゃ同じく数に入らない。
 
そこを間違えてはいけない。【1200万人中の60万】は20人にひとり。この2ヵ月に東京で20にひとりが東京で検査を受けて結果〈陽性〉と確認された。つまりあなたが東京の人なら、5%の確率でそのひとりということになるし、そうでないならあなたのまわりに20にひとりの割合で、今年になって検査を受けて「陽性」と言われた者がいることになる。
 
間違えてはいけない。【コロナの感染者が20にひとり】でなく、【今年になって検査を受けて結果「陽性」と言われた者が20人にひとり】だ。撮って見せた新聞の記事でそういう計算になるのがわかると思うが、しかし本当にそんなのがそんな数でいると思うか。
 
検査で「陽性」と言われるためには、まず検査を受けることが必要だ。コロナに感染していても、検査されなきゃ確認されず、「今日は○人」の数に入れられることはない。わかりますね。では訊きますが、今年になってあなたは検査を受けましたか。あなたのまわりに今年になって検査を受けたと言う人間、言わないけれど受けたらしき人間や、受けたかもしれないらしい人間がどのくらいの割でいますか。
 
ひょっとして、ほとんどいないんじゃありませんか。せいぜい100にひとりとか、50にひとりの割でしかいない。あなたは検査を受けていないし、まわりに「○○で検査してます。ワタシは幸い陰性でしたが、アナタもぜひ安心のために」なんてことを言うのもいない。テレビでは専門家や政治家や池上彰が、
「検査を受けましょう、安心のために! 安心のために!!」
と叫んでるけど、たとえ今日に検査を受けて〈陰性〉という結果が出ても、あしたどこかで感染するかもしれないじゃん、意味ねえよ、やったところで安心にならんよ、と思うからしないし人にも勧めない。検査を受けたら【検査を受けた】というだけで、「アイツ検査受けたらしいぜ」と言われてしまうし【陽性だった】と決めつけられてしまう。「心当たりがあるから検査を受けたんだろう。なら陽性に決まってる」と言われるだけだ、誰がするか、と思ってませんか。それが正解。コロナの検査は何かの理由で断れなくて強制的に受ける者だけが受けるもので、自分から受けようとする人間がいたらよっぽどのバカです。
 
ですよね。ふたたび訊きますが、今年になってあなたは検査を受けましたか。あなたのまわりに今年に検査を受けたと言う者、言わないけれど受けたらしい人間がどれだけいますか。身近で誰かが検査を受けたという話をどれだけ聞きますか。
 
重ねて言いますが、【今年になって】です。そんなの、全然いないんじゃありませんか。いたとしてもせいぜい百人にひとりの割で、「こういう理由で断れなくて無理矢理検査されたんだけど幸いにして陰性だった」と言うのがいるくらい、とか。
 
そんなとこなんじゃないですか。としたら、おかしいと思いませんか。20にひとりの割合で、今年になって検査を受けて「陽性」と言われた者がいなけりゃいけない。しかしいない。検査しないと〈陽性〉か〈陰性〉かの確認はできぬわけだがされていない。自分も誰も。
 
話が合わないと思いませんか? テレビが言う「今日は東京で○人を確認」というのは東京のどこで確認してるのでしょう。上に見せた記事では3月1日に11813人です。それは【確認数】ですが、何人を検査したうちの11813人なのか。
 
検査して〈陽性〉と出たのは11813人。それはまあいいとして、しかし〈陰性〉だったのは何人なのか。
 
「そっちの数字に意味はない、だから聞いてもしょうがない」
とあなたはお思いになりますか。そうだとしたら、その考えはおれは間違いと思います。【陽性と出た人間の数】は【検査した数】が何人なのかわからなければ意味がない数字であると考えるからです。
 
テレビが言う「今日の感染者は○人」という数字はなんの意味もない。検査した数が何人なのか明かすことなくそれだけ見せる数字だから。東京で今日に2万を検査してそのうちの11813人が陽性ならば割合は59%。東京都民1200万人のうち708万が感染してると推定を出すことができる。
 
検査した数をちゃんと明かしているからね。これがもし、日に5万を検査しての数字ならば割合は24%。東京都民の288万人が感染してる計算になる。10万人を検査してなら12%の144万人。
 
それとももしも、日に1万2千人を検査しての11813人だったとすると割合は98%。東京でコロナに感染してない者はほとんどいない、つまり自分も98パーの確率で感染してる計算になるということになるが、その推定が出せるのも検査数が明かされるから。【感染の確認数】は分数の分子であり、分母である【検査総数】なしには意味を持たない数字と呼ぶしかないものなのだ。
 
作品名:端数報告6 作家名:島田信之