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端数報告6

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こんな顔して叫びながらコロナが自我に目覚めるときを待っている。東京の感染者が〈ある数字〉に達したときだとわかってるけどその数字がいくつなのかわからないので困ってもいる。専門家は毎日これだこの数字だと言うけれど、どんな理屈でそうなるのか聞いてもサッパリ理解できない。昨日と今日と一昨日で言うこと全然違う気もする。
 
――と、まあとにかくエンデンブシの頭の中身もそれと同じだ。曾根達夫は宮崎学だ。『闇に消えた怪人』に主犯は〈最重要参考人M〉に間違いないと書いてあり、自分にはそれが正しいとわかるのだから、曽根は宮崎学なのだ。
 
画像:罪の声無料小冊子表紙
 
とこの顔に書いてある。きっと子供の人生が奪われてるに違いない。『罪の声』が売れて映画になることで、手紙をくれる者が出る。
「あなたの本の通りです。主犯は宮崎学です。これがその証拠です」
と、
 
画像:テープと手帳
 
このようなもの同封で。そのとき自分はグリ森事件のジョン・コナーになれるのだ。時効なんか関係ない。宮崎学がしたことを衆目に晒し、断罪する。それがオレの果たさなければならないフェイト(運命)だ。
 
と、本を読んで変な思い込みをしただけなのに考えている。さて図書館でおれはまた、本を返してまた借りついでに、
 
画像:グリ森本5冊と突破者上下巻
 
この通り、『突破者』っていうのを借りてみたんだけどね。パラパラとめくってみるに何が書いてあるんだろうなこれは。下巻を開くと最初のページに、
 
画像:突破者下巻9ページサラ金地獄 画像:突破者下巻表紙
 
この通り、なんかどっかで見たようなことが書いてある。エンデンブシは例の無料電子本で、
 
   *
 
 最初に取り組んだのは、1984年から1985年までの新聞記事すべてに目を通すことでした。事件のみならず、時代背景を立体的に描きたかったからですが、読んでみると当時はサラ金関連の記事が非常に多くて、「世の中カネや」という風潮だったことがよくわかりました。
 
画像:小冊子表紙
 
こう言っている。しかしサラ金地獄というのは、いま見せたのに《昭和五二年》、つまり1977年と書いてあるようにグリ森より何年も前の話だったはずである。ここで何度か見せているおれの書棚の『早わかり20世紀年表』って本にも、
 
画像:1978年この年サラ金
画像:1984年グリ森始まる・サラ金会社倒産相次ぐ
画像:早わかり20世紀年表表紙
 
こうあり、グリ森当時のサラ金関連記事と言えば、
【サラ金会社の倒産相次ぐ】
というものだったはずとわかる。そう言えば、その頃におれが読んだ、
 
画像:コピー人間の復讐表紙
 
この加納一朗先生の本が悪辣なサラ金業者を青井是馬と荒馬の兄弟がやっつける話だったと記憶するが、驕れるサラ金久しからず。1984年はサラ金の時代の終わりの年のはずなのである。
 
「世の中カネや」と言う人間が懲らしめられた年なのだ。もっともそれは、宮部みゆきの『火車』に描かれる闇金の時代の始まりでもあるのだが、エンデンブシはどこに目をつけてやがるんだ?
 
1980年代はバブルの時代と呼ばれ、日本人すべてがカネに狂ったように言われる。〈識者〉は眉をひそめて見ていて、マスコミも警鐘を鳴らしていたように言われる。当時を知らない人間はそれを信じているかもしれんが、嘘だ。『突破者』には、
 
画像:突破者252-253ページバブルの時代
画像:突破者下巻表紙
 
こう書かれる。バブルというのは1985年9月、つまりグリ森事件の最後の手紙、
《悪党人生 おもろいで》
の翌月に始まった。おれにはようわからんが、それはここに書かれるような空疎な世界だったらしい。しかしおれにわからないのは、おれはまったく関係のない『めぞん一刻』の世界に生きていたからで、日本人の大々多数は同じ堅実な世界にいたのだ。バブルに狂って「世の中カネや」と叫んでいたのは〈識者〉ぶったクズどもやマスコミばかりだったのだ。
 
それが事実だ。だがエリートに都合いいよう話が変えられてしまっている。バブルの時代に経済学者は、
「これは永遠」
と叫び立てた。損はさせない、損はさせない、決して損はさせませんと、
 
画像:ユージュアル・サスペクツマクマナス損はさせない
 
こいつのように専門用語を並べて言った。それがいつかはじけるのを予想した者はいなかった。
 
ただのひとりも。今はコロナの専門家が、
「〈波〉が来る、〈波〉が来る、〈波〉が来ます」
と、専門用語を並べて言ってる。感染者が今日は東京で7千、8千、9千人。これです、この数字です。自我に目覚めて人類を【抹殺すべき対象】とみなす。そのときまでもう一歩です。
 
そう叫んでる、ひとり残らず。しかしおれが見るところでは厚労省は、遂に分母より大きな数を言い出したというところだね。検査件数は日に6千。それを変えているとは思えん。
 
本当は日の確認数はもうひと桁になってんじゃねえのか。だからもう、嘘でも多く言うしかない。嘘でも数を多く言えばコロナが〈スカイネット〉になって、世を滅ぼしてくれるのだから嘘が嘘でなくなってくれる。そのとき自分はジョン・コナーになれるのだから嘘が嘘でなくなってくれると信じているからこんなバカなことをやれる。
 
けど本当は子供達を奴隷にしてピラミッドを造る気だろう。それがエリートの本性だ。ために「8千、9千」と分母より大きな数を言い立て出した。
 
それに違いないのがわかるが、しかしこれをやったらいずれ、
 
「今日は10万を新たに確認? このひと月の合計だけで120万、都民の10にひとりだって? でも、俺のまわりに『妖精だ』と言われたもんなどひとりもいねえぞ。検査を受けたと言うもんもいねえぞ。なのにこの数字はなんだ?」
 
と言う者がゾロゾロと出る。その声が広く高まることになる。そうでなくともふた月も後には、
 
「今日は東京で1000万を確認、今日は1100万、1300万、1600万、2000万、2500万……」
 
と東京都の人口よりも多い数を毎日確認することになるし、日本全体で2億、3億、4億人を日に確認することになろう。あなたのまわりに確認どころか、検査を受けた人間さえろくにいないと言うのにだ。
 
このおっさんは、
 
画像:コロナ学者山本太郎
 
バブル時代の経済学者と同じだから最後まで嘘に気づかんだろうが、そのときバブルと同じように、コロナの嘘ははじけて終わる。
 
そうならない道理がない。80年代、一般庶民の大多数はテレビがなんと言おうともカネに狂ったりなどせずに、
「あ〜あ〜、小市民〜」
なんて唄を歌っていた。おれは当時に高校を卒業し、社会に出たから目で見て知ってる。エンデンブシが言う「風潮」はマスコミがデッチ上げたものだ。
 
それをよく知っている。今の庶民も大多数はマスクを着けて歩きながらも落ち着き払って生活していて、コロナの〈波〉なんて決して信じ込んではいない。おれほどハッキリすべてが嘘であることが見えていないだけとわかる。もちろんそれでいいのだから、いずれ我々の勝ちで終わるものだとわかる。
 
作品名:端数報告6 作家名:島田信之