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ネコと少年とお局と

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とっさにそう聞かれた凜子は困ってしまった。まさか飼い主ではないとも言えなかった。そう言えたとしても事情を説明するのがとても面倒だった。夜中にマンションのドアの前に偶然ネコがいてたまたまケガをしていたから助けたなんて世にも奇妙な話をどうやって説明すればいいのだろうか?
アシスタントの女性が不思議そうな顔をしていたので
「メアリーです」
ととっさに凜子は嘘をついてしまった。
「メアリー?」
アシスタントの女性はますます不思議そうな顔をした。
「何か?」
凜子は何がおかしいのかと思って思わず聞いてしまった。
「え・・・だってさっき見えましたよ・・・ついてるのが・・・」
「ついてる?」
それはオスの性器のことだろうか?
凜子はそんなものついていたっけ?と思ったが
「さっきおしっこしてるときに見えたんですよ、その・・・ついてるのが」
やはりペニスのことらしい。凜子はそう思った。
「いや・・・うちはそういう性別とか気にしない主義なんですよ。オスでもこの子の雰囲気が何となくメアリーみたいな感じだったものですから。」
凜子はとっさに笑いながら冗談っぽくそういった。
「そうなんですね。ユニークでいいですね。」
アシスタントの女性も不思議そうに笑いながらそう言った。
「はい」
凜子はなぜだかその場で赤面しそうになってしまった。
お前のせいで恥をかいたじゃないか、と凜子は思いながらもネコを受け取ってマンションの自室まで戻ることにした。


「まったくお前のせいで恥かいたじゃないか・・・」
凜子は仕方なくネコをリビングのソファーにそっと置いた。
「どうしてくれんのよ」
凜子がネコに向かってそう言うと
「にゃー」
と相変わらずにゃーしか返事をしない。
「はーこれからどうすんのよ・・・」
凜子は自分のせいでネコがけがをしたと思い責任を感じて仕方なく病院へ連れていったのだが、骨折のことまで責任を取らされるのはたまったもんじゃないと思った。しかも治療費も莫大にかかるのかもしれない。そもそも今思えば足を引きずってあのマンションの三階までこのネコはよく上ってこれたもんだ。三階の自分の部屋の前まで来たら力尽きてしまったのだろうか?そもそもこのネコはどこからどうやって来てなぜうちのマンションに来たのだろうか?なぜよりによって自分の部屋の前にいたのだろうか?しかも医者の話だと「比較的軽い骨折なので2ヶ月ほどで治癒するはずです。」とは言っていたもののその間自分がこのネコの面倒を見なければいけなくなってしまった。
「しかもお前野良猫だったのか?どこを歩いてたかも分からないから汚いよね。」
誰かが飼っていたのならまだマシだがどこをほっつき歩いてたかも分からないような小汚いノラを自室で飼うなんて許しがたいことだった。おまけにここはマンションの規定でペットを飼うことは禁止になっていた。
「マンションの管理人から何か言われたらお前のせいだよ?」
凜子はそう言った。
今すぐにでも空地に捨ててやりたかったが、見捨てたらこのネコは大変なことになるのが分かっていたので仕方なく断念することにした。
「しょうがないからバレないようにうまくやるからお前もやたらめったら鳴くんじゃないよ?外に聞こえるから。」
「にゃー」
「だから鳴くなっつーの」
「にゃー」
凜子はため息をつきたくなった。
「しかし、お前名前なんていうのよ?」
「にゃー」
「にゃー、じゃなくてさ・・・」
凜子はもうどうでもいいという感じで
「じゃあしばらくメアリーでいい?何か今いいの思いつかないからさ」
と言うと
「にゃー」
と返事をしたので、メアリーでどうやら承諾したようだった。
「でも、骨折が治るまでだからね?治ったら出てってもらうよ?」

凜子はネコ騒動で疲れていたので、その日の夕飯は軽く冷凍のチャーハンと餃子をフライパンで炒めて食べた。夕飯後にまたスーパードライの缶ビールを何本か飲んでいるととっさに
「そういや、ネコって何食べんの?」
と疑問に思った。凜子はネコなど飼ったことがないからまるで分からなかった。そもそもペット自体飼ったことすらなかった。親がアレルギー体質で犬やらネコやらは大の苦手だったので子供の頃に家で飼わせてもらえなかったからだった。最初は小学校の友達などがペットを飼い始めてから自慢しだして、自分も飼いたいと親にだだをこねたこともあったが、親はいつも怪訝そうな顔をしたので次第に凜子も犬やらネコやらを飼うことに興味もなくなっていった。
「まあ、魚とかキャットフードだろうな・・・」
とは言ってももう夜の時間帯だしビールも飲んでしまって少しほろ酔いしていたし、駅前にあるペットショップまで行くのも億劫だった。
とりあえず非常食用のツナ缶が戸棚の奥のどこかにしまってあるはずだった。
凜子は何とかそれらを探し出して新聞紙を広げて分厚く重ねた上に、ツナの缶詰を置いた。するとメアリーは一目散にそこへ向かっていってむしゃぶりつくように食べた。
「お腹すいてたんだね・・・」
凜子がそう言っていると、メアリーはあっという間にツナ缶の中身を全部食べてしまった。
「ちょっとお前早食いし過ぎ」
「にゃー」
と言ってメアリーは凜子を見上げてきた。
「何?まさかまだほしいってか?」
メアリーはさらにツナ缶を要求しているようだった。
「ちょい待ち」
凜子はさらにツナ缶を持ってきて一つ与えるとそれもあっという間に平らげてしまった。
「おい、よっぽどお腹すいてんだな。」
「にゃー」
とさらにツナ缶を要求してきたので仕方なくもう一缶与えるとメアリーはまたもや一瞬で食べつくしてしまった。
どうやら満足したようでそれ以上メアリーは「にゃー」とは言わなかった。
非常食用にたくさん買ってあったのにこれではあっという間にメアリーに平らげられてしまう。
「まったくまた買ってこなきゃ」
そうはいってもツナ缶は人間の食べ物だし毎回買っていたら出費がかかるので、明日ペットショップに行って何かよさげなキャットフードを買ってくることにした。
そして凜子がそのようなことを考えていたら、気づくとメアリーが床にオシッコのようなものをしているようだった。
床がびしょびしょになっていた。
「ちょっと何これ?まさかオシッコ?勘弁してよ。」
ネコのオシッコなど片付けたことがなかったのでどうすればいいか分からなかったが、とりあえずトイレットペーパーで拭いた後に消臭スプレーをかけて、またペーパーで軽くふいた。
「まったく・・・何で私がこんなこと・・・」
凜子はため息をまたついた。
明日ペットショップでついでにネコ用のトイレのことなども聞こう。凜子はそう思った。


次の日の日曜日、凜子は駅前のペットショップに行き、店員にネコにちょうどいいキャットフードやトイレグッズなどを教えてもらい一通り買った。そしてツナ缶などは人間の食べ物で塩分が多すぎてネコの体に悪いのであげないでください、と教えてもらった。そしてネコは水をたくさん飲むので水飲み用の皿もついで買うことにした。
さらに、ネコはミルクも好きだが市販の牛乳は人間用なのでネコが飲むと下痢をしてしまうと言われたので、ミルクを与えるならネコ用のを買ってくださいとも教えられた。
作品名:ネコと少年とお局と 作家名:片田真太