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ネコと少年とお局と

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いきなりネコの鳴き声がどこからともなく聞こえてきた。
最初は夢の中で聞こえてきたのかと思ったが、やがてその声に誘われるように次第に目が覚めてくると凜子はその音が本物だと気がついた。
「にゃー」
凜子がすっかり目を覚ましてしまうとその鳴き声はさらにはっきりと聞こえた。
「はー」
凜子はまたか、と思わずため息が出てきた。
凜子がドアを開けるとやはりそこには昨日のネコがいた。
「またあんたね・・・」
「にゃー」
ネコはそう鳴いた後にあくびをしながら凜子を見上げてきた。
「あくびしたいのはこっちだよ、まったく」
時刻はすでに夜中の3時くらいになっていた。
「何時だと思ってんのよ」
自分は一体なぜ夜中の3時に自分の部屋のドアの前でネコと格闘してなければいけないのか?わけがまったく分からなかった。
「にゃー」
ネコが鳴きやみそうになかったので凜子はいよいよ
「もう我慢の限界だは・・・あんたを空地に連れてく。」
凜子はネコを睨みつけながらそう言った。
ちょうど凜子の住むマンションの近くに一軒屋を取り壊したばかりの空き地があったので、凜子はそこにネコを連れてくことを思いついた。というか実質捨てるのと同じような意味だった。
凜子はよーし、という感じでネコを抱き上げようとすると
「にゃー」
と言いながらネコはするりと凜子の手を交わした。
「ちょっと・・・」
ネコは意外と素早く凜子からいとも簡単に逃げた。
「いい加減にしてよ」
もう一度凜子がネコを掴もうとするとまたもやするりと間をくぐるように凜子の反対側へと走り去っていった。
「あんた意外と素早いわね。」
凜子はもうこうなったら本気を出すしかないと思い鷲掴みするかのようにネコに襲いかかろうとした。そうするとネコは凜子が恐かったのか急に走りだして逃げていった。
「ちょっと待ちなさい」
ネコは5mほど先の隣の部屋のドアの前まで逃げていってしまった。
「ちょっとそこ違う人の部屋よ・・・」
凜子はそーっとネコに近づこうとするとネコはちょっとずつ凜子から離れて逃げようとしてた。しかし、次第に凜子はあることに気づいた。
ネコは歩きながら何やら足を引きづっているようだった。それはよく見ると足にけがをしているようだった。
「あんたケガしてんの?」
「にゃー」
そうだよ、と言わんばかりにネコは鳴いた。
「まったく・・・」
ネコはケガを負っていて誰か人間に手当をしてほしいから鳴いていたのだろうか?
「でも、私はあんたの飼い主じゃないから知ったことじゃないわよ。」
ケガのことは可哀想だか凜子は眠すぎて自分がいち早く寝床につきたかったので、そういって凜子はネコを再びつかもうとするとさっきよりもやや早いスピードで足を引きずりながらも走り去っていってしまった。
「ちょっと・・・」
凜子はそう言いながら走り去っていなくなってしまったネコの方向を見た。どうやら階段の方まで走っていったようだった。少しだけ心配になったが、凜子はこれでようやく眠れると思って自分の勝利を確信した。
そして凜子はようやく気持ちよく寝床につくことができた。


翌日凜子が目を覚ますとすでに11時くらいになっていた。
「あー寝過ぎたか。」
もうこんな時間か、と思ったが、二夜連続で夜中にネコと格闘したせいで睡眠不足だったので仕方ないとも思った。
パジャマを脱いで着替えたらお腹が少し減っていたので、さとうのご飯をレンジでチンしてご飯と玉子焼きとインスタントの味噌汁を軽く食べた。夕飯の買い出しにでもいくか、と思い髪の毛を少しセットして軽く化粧をした後にマンションを出ようとした。すると、ドアの前であのネコが倒れていることに気づいた。よく見ると足から血が出ていた。そして向こうの階段の方からずっと血がポタポタと垂れた跡のようなものが残っているのも見えた。
「ちょっとあんたどうしたの?」
凜子は慌てて声をかけた。
ネコはもはや気力もないという感じでにゃーとも言わなかった。
「何でケガしたの?」
凜子は慌てて血の跡を追ってフロアの階段の方へ行ってみた。すると2階へと続く踊り場のような場所で大きな血の跡のようなものがあるのに気が付いた。
ネコは昨夜足を引きずりながら階段を降りて行こうとして足を滑らせてケガをしたのかもしれないと思った。
凜子はまたもや慌てて自室の前まで行きネコを再びみた。
「あんた大丈夫?」
そう話しかけたがネコはうんともすんとも言わなかった。
「まさか出血多量で死んだんじゃ?」
ネコは犬と違って体が柔らかいので飛んだり跳ねたりする生き物で、階段なんてひとっ跳びで降りられるのかと思っていたが、足の骨を折っていたため降りれなかったのだろうか?そして昨日は凜子が捕まえようと追いかけたのでビックリして慌てて逃げたために階段で足を滑らせてしまったのかもしれない。
「ちょっとこんなところで死なれたら縁起が悪いじゃない。」
凜子は仕方ないという感じで近くの動物病院までネコを連れていくことにした。


「軽く止血しときました。出血がややひどかったので一応念のため点滴もしておきました。」
近所にある動物病院に凜子はネコを連れて行き、そしてそこにいた獣医がそう説明した。
「そうですか、じゃあ無事なんですね?」
「はい、大丈夫ですよ。ですがね・・・」
「ですが・・・?」
獣医はちょっとだけ深刻な面持ちをしながら
「軽く骨折しているのでギブスを着用してしばらく通院してください。」
と凜子に言ってきた。
「え?通院ですか?ギブス?」
「まあ・・・そんな大げさに考えずに。犬と違ってネコの骨折は治癒がものすごい早いですから。2ヶ月くらい通院していただければ大丈夫ですよ。」
獣医に笑顔でそのように言われても、飼い主でもない凜子がなぜ野良猫の世話をしなければいけないのか。やっと解放されたかと思ったら、こんどは通院?何でこんな目に遭わなければいけないのか?それに一体いくらかかるのだ?動物は保険がきかないのか加入していても治療費が莫大とかそんな話をペットを飼っている知り合いから聞かされたことがあったので、最低でも10万くらいだろうか?と思ったりした。もしそうなら痛い出費だ。こんなことならあのまま見捨てればよかった。どうせあのままほっといてもマンションの管理人か誰かがどの道何とかしてくれただろう。自分の出る幕じゃなかった、と今更ながら思った。
凜子はネコを助けたことをおおいに後悔した。
「今ギブスを巻いているところですからしばらくお待ちくださいね。」
そう言われて10分ほど待合室で凜子は待たされると、左後ろ足にギブスをぐるぐる巻きにされているネコがやってきた。
「はい、お待たせしました。」
獣医のアシスタントなのか看護師なのかよく分からない女の人がそういってネコを凜子に丁寧に手渡ししてきた。
「はい、ネコちゃんですよ。」
大のネコ好きなのか女性は満面の笑みだった。
「にゃー」
久しぶりにネコは鳴いた。やっと元気になったようだった。
「お名前はなんていうんですか?」
「あ・・・いや・・・その・・・」
作品名:ネコと少年とお局と 作家名:片田真太