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ネコと少年とお局と

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凜子はさっさとシャワーを浴びて髪を乾かしパジャマに着替えると、冷凍庫に入っていたグラタンを解凍した。そして昨日作ったシーザーサラダの残りも冷蔵庫から出して食べることにした。南青山のバーでも軽くスモールサイズのピザだけは食べていたのでグラタンとサラダだけでいいと思った。気持ち悪いときはあまり食べない方がいいのだろうが、シャワーを浴びたら少しだけ酔いも冷めてきたしお腹が少し減っていたのでちょうどよかった。
そしてパジャマに着替えた後ベッドにあおむけになりようやく眠りにつこうとしたときに・・・
「にゃー」
何やらネコの鳴き声がしてきた。
最初は気のせいだと思ったが、その後に何度も鳴き声が聞こえてきたのでいよいよ本物の鳴き声だと気付いた。
「何なのよ・・・」
凜子は鳴き声がうるさくてなかなか寝付けなくて寝返りをうった。
「にゃー」
また鳴き声が聞こえてきた。
次第に凜子はイライラしてきた。
どうやらドアの前にいたネコが鳴き出したようだった。
凜子はほっとけばそのうち鳴きやむだろうと放置することにしたが、一向にネコは鳴くことをやめなかった。
「ちょっといい加減にしてよ」
ついに凜子は起き上がってマンションのドアを開けた。
「いったい何時だと思ってんのよ?」
すでに時刻は夜中の1時を過ぎていた。
ドアを開けるとネコはドアの前でうずくまっていてこっちを見上げてきた。
「ご近所迷惑になるでしょ。」
凜子がそう言うと
「にゃー」
ネコはまたもや鳴きだした。
「にゃーじゃないわよ。あんたね。」
「にゃー」
またもやにゃーという鳴き声に凜子は憤りを覚えた。
「鳴きやまなかったらグーで殴るからね。今度にゃーって言ったら承知しないから。」
凜子はネコに向かって大人げなくそう言い放った。
ネコはしばらく黙っていたがやがてこっちを見てまた
「にゃー」
と言った。
凜子は大きくため息をついた。
「ちょっといい加減にしてよ。わたしもう寝たいのよ。それに隣の人にも聞こえてご近所迷惑になっちゃうでしょ。後で何か言われるの私なんだからね。」
「にゃー」
ネコはこっちのことなどお構いなしに鳴き続けた。
「次鳴いたら近くの空き地かどこかに今すぐ捨てるわよ」
凜子はネコをそう脅した。
「にゃー」
ネコはこっちの言ってることが分からないらしく、同じ鳴き声を飽きもせずにただひたすら繰り返し出し続けた。
「あんたいい根性してるわね。」
「にゃー」
「ちょっと褒めてないわよ」
凜子は呆れてそう言った。
いよいよ凜子は眠くて疲労が限界に達してきたので
「もういいわよ知らない。勝手にしなさい。」
そう言ってドアをバタンと閉めてしまった。
「にゃー」
まだ外で鳴き声が聞こえてきたが、凜子は気にせず寝床に着くことにした。
明日になればいなくなるだろう。そう思いながら・・・


凜子は翌日疲れた体を引きずって何とかオフィスについたが、生きた心地がしなかった。昨日は例のネコのせいで一睡もできなかったからだ。
「まったく何てついてない日なの・・・」
凜子はいつにもましてイライラがたまりだしてついには部下に怒鳴りだした。
「あんたね、この報告書11時までには出しとけっていったでしょ。いい?昼前までに出さないと私がチェックできないの。そうすると課長に午後提出できないし承認できないの。課長は今日午後に外出するって言ったでしょ?ほんとひとの話聞かないね。」
「申し訳ございません」
「何度も何度も言ってるけど謝ればすむ問題じゃないの。いい加減理解しなさい。私をこれ以上困らせるな。私に迷惑かけるな。私をイライラさせるな。」
凜子の怒りは絶頂に達していていつもよりもさらにヒートアップしていた。
「申し訳ございません」
部下はただひたすら申し訳なさそうに謝っていた。
「何か今日はいつにもましてキレてないか?」
「な・・・間宮のやつ可哀想」
遠くの方のデスクの経理部の若手社員たちが凜子に聞こえないようにひそひそと話している。
「もういいわ、あんたみたいなやつにこれ以上言っても仕方ないから。下がりなさい。」
「失礼いたします」
間宮と呼ばれる社員は頭を下げて意気消沈したような顔をして自分のデスクへと戻っていった。

「まったく」
両足を大きく大胆に開いて喫煙所でタバコの煙を「ぶはー」っとおおげさに外に出しながら凜子はそうつぶやいた。
「ほんと使えないやつばっか。」
凜子はそう言いながらタバコを吸い続けた。
「まさかあのネコまた今夜もいるってことないよね?」
凜子は心の中でそう思いながらもタバコの火を消して喫煙所を出て仕事に戻った。

今日は金曜日だったのだが凜子には彼氏らしき恋人もいなく友達も少なかったのでどこかへ寄ることもなく、自分の部屋のあるマンションへと一直線に帰ってきた。それに金曜日は飲み会やら合コンやらデートやらでどこもかしこもにぎやかなので、一人で飲んで帰る気分にはなれなかった。バーなら比較的静かなので落ち着くがそこもカップルが多かったのでできれば避けたかった。
凜子は恐る恐る自分の部屋の前まで向かって行った。
そしてそっとドアの前を見てみた。
しかし、ネコの姿はそこにはなかった。
凜子はほっと溜息をつきながら安心した。
「よかった」
今日は安眠できる。凜子はそう思った。
シャワーを浴びた後に、軽くペペロンチーノのパスタを作りデパ地下で買って帰ってきたツナサラダとともに食べて、しばらくリビングのソファーでドラマを見てくつろいだ後に寝ることにした。昨夜のネコの鳴き声のせいで眠たいはずなのだがなぜだか興奮して眠れなかったのでドラマを見て10時過ぎに寝ることにした。
「なんだかつまらないドラマだったね。来週は絶対みないは」
有名な俳優と女優が出ている話題のドラマだというからとりあえず見てみたがおかしな話で見るに堪えなかったので、途中でため息さえ出てきた。
「よくこんなくだらない話思いつくね。」
ドラマは何やら靴職人を目指している若者の男性とそれを応援する幼馴染の女性の物語でやがて恋に発展するというのが容易に想像つく定番なドラマなのだろうが、その男の方がどうやら極度の年増好きの性癖を抱えていて幼馴染の女性が男性に片想いしていることになかなか気づかないという不自然な設定なのだ。しかし、そのくせ年増の女とやらもなかなか出てこないし、片想いのその女性は優柔不断で他の男性と話すシーンばかりで、いったい何を伝えたいドラマなのかまるで分からなかった。有名な俳優を起用しているだけで脚本がめちゃくちゃで中身がまるでないドラマだった。
「有名な俳優使えばいいってもんじゃないだろ。」
凜子はため息がでそうにさえなりアサヒスーパードライの缶ビールを二本ほど飲んだ後にさっさと寝床につくことにした。
明日は久しぶりに週末だからゆっくり寝られる。この一時だけが今の凜子にとっては唯一の至福の時だった。
「あー疲れた」
ベッドの上に大の字になり横たわってしばらくボーっとして、使えない部下たちや、気に食わない元同僚たちや、いきなり結婚して自分を裏切った佳奈のことや、そんなことを考えておおいに物思いにふけったあとに電気を消して寝ることにした。
そして夜中にさしかかった頃・・・
「にゃー」
作品名:ネコと少年とお局と 作家名:片田真太